日本薬理学雑誌
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視床下部―下垂体―副腎皮質系過活動モデルを用いた治療抵抗性うつ病モデルの作製および薬効評価
北村 佳久四宮 一昭五味田 裕
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2008 年 132 巻 6 号 p. 329-333

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抄録
うつ病の治療は抗うつ薬を中心とした薬物療法が中心である.多くの患者は抗うつ薬の服用により自覚症状が改善し社会生活への復帰が可能となっている.しかしながら,十分な治療を行っても,うつ症状の改善を見ない治療抵抗性うつ病の存在が問題とされている.これまで,うつ病の動物モデルおよび抗うつ薬のスクリーニングモデルが報告され,新規抗うつ薬の開発に寄与している.その一方,治療抵抗性うつ病を反映した動物モデルはその病態像が明確でないこともあわせて報告がなかった.そこで,我々は治療抵抗性うつ病の病態像の解明および次世代の抗うつ薬の創薬研究に応用させるため,治療抵抗性うつ病の動物モデルの作製を行った.これまで,うつ病は中枢神経系の機能異常のみならず,視床下部-下垂体-副腎皮質(hypothalamic-pituitary-adrenal axis:HPA)系の機能異常を含む中枢神経系-内分泌系の機能異常が関与していることが知られていた.特に,既存の抗うつ薬に反応しない患者に対してグルココルチコイド受容体拮抗薬の有効性も明らかにされている.そこで,我々はHPA系の過活動モデルが治療抵抗性うつ病の病態像の一部を反映していると仮定し,adrenocorticotropic hormone(ACTH)反復投与によるHPA系過活動モデルの作製を試みた.治療抵抗性うつ病の動物モデルとしての有用性については抗うつ薬のスクリーニング系であるラット強制水泳法の不動時間を指標として検討を行った.その結果,ACTH反復投与ラットではいくつかの既存の抗うつ薬の抗うつ効果が消失し,薬物反応性の側面より治療抵抗性うつ病を反映していると考えられた.この抵抗性には自殺者の死後脳で増加が報告されている5-HT2A受容体の過活動の関与を認めている.さらに,ACTH反復投与ラットでは海馬歯状回における神経細胞の新生作用が抑制されていることより,この抑制作用が治療抵抗性の病態の一部とも考えられる.本稿ではこれらACTH反復投与によるHPA系過活動モデルの治療抵抗性うつ病の動物モデルとしての有効性を紹介する.
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