日本薬理学雑誌
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132 巻, 6 号
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実験技術
  • 北村 佳久, 四宮 一昭, 五味田 裕
    2008 年 132 巻 6 号 p. 329-333
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/12
    ジャーナル フリー
    うつ病の治療は抗うつ薬を中心とした薬物療法が中心である.多くの患者は抗うつ薬の服用により自覚症状が改善し社会生活への復帰が可能となっている.しかしながら,十分な治療を行っても,うつ症状の改善を見ない治療抵抗性うつ病の存在が問題とされている.これまで,うつ病の動物モデルおよび抗うつ薬のスクリーニングモデルが報告され,新規抗うつ薬の開発に寄与している.その一方,治療抵抗性うつ病を反映した動物モデルはその病態像が明確でないこともあわせて報告がなかった.そこで,我々は治療抵抗性うつ病の病態像の解明および次世代の抗うつ薬の創薬研究に応用させるため,治療抵抗性うつ病の動物モデルの作製を行った.これまで,うつ病は中枢神経系の機能異常のみならず,視床下部-下垂体-副腎皮質(hypothalamic-pituitary-adrenal axis:HPA)系の機能異常を含む中枢神経系-内分泌系の機能異常が関与していることが知られていた.特に,既存の抗うつ薬に反応しない患者に対してグルココルチコイド受容体拮抗薬の有効性も明らかにされている.そこで,我々はHPA系の過活動モデルが治療抵抗性うつ病の病態像の一部を反映していると仮定し,adrenocorticotropic hormone(ACTH)反復投与によるHPA系過活動モデルの作製を試みた.治療抵抗性うつ病の動物モデルとしての有用性については抗うつ薬のスクリーニング系であるラット強制水泳法の不動時間を指標として検討を行った.その結果,ACTH反復投与ラットではいくつかの既存の抗うつ薬の抗うつ効果が消失し,薬物反応性の側面より治療抵抗性うつ病を反映していると考えられた.この抵抗性には自殺者の死後脳で増加が報告されている5-HT2A受容体の過活動の関与を認めている.さらに,ACTH反復投与ラットでは海馬歯状回における神経細胞の新生作用が抑制されていることより,この抑制作用が治療抵抗性の病態の一部とも考えられる.本稿ではこれらACTH反復投与によるHPA系過活動モデルの治療抵抗性うつ病の動物モデルとしての有効性を紹介する.
  • ―気道粘膜の局所的器械的咳刺激法と局所的化学的咳刺激法―
    高濱 和夫, 江藤(和工田) 郁子
    2008 年 132 巻 6 号 p. 334-338
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/12
    ジャーナル フリー
    鎮咳活性評価法としては,加瀬が開発した咳嗽犬法を始めとして,様々な方法がある.しかし,従来の方法は咳を画一的なものとして捉え,咳の多様性を念頭においた評価法とは言い難かった.このことが優れた鎮咳薬の開発にとって障害となっていた.我々はこの点を踏まえて,咳の多様性の少なくともその一部は下気道の求心性神経とそこに分布する受容体の性質に基づくという考えのもとに,新たな咳刺激法の開発を試み,この咳に対する各種鎮咳薬の作用を調べた.その結果,新たに開発した局所的器械的刺激法を用いての気管分岐部刺激による咳は,気管喉頭部刺激による咳に比べて鎮咳薬が効きにくく,臨床上,従来の鎮咳薬が効きにくい慢性咳嗽に一定の効果をもつ麦門冬湯が鎮咳活性を示すことがわかった.また,局所的化学的刺激法でカプサイシンを気管支分岐部に噴射すると,咳様の呼息反応を起こし,この反応もまた,鎮咳薬で抑制されず,麦門冬湯の活性成分の一つであるオフィオポゴニンなどで抑制されることがわかった.このように本稿で示した2つの方法は,慢性咳嗽に有効な薬物のスクリーニングに利用できると考えられる.
治療薬シリーズ(32) 標的分子薬-3-(2)
創薬シリーズ(3) その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • 岩瀬 裕美子, 筒井 尚久
    2008 年 132 巻 6 号 p. 343-346
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/12
    ジャーナル フリー
    薬物誘発性の代表的な血液毒性として,赤血球減少(貧血),白血球減少,血小板減少がある.その主な機序として,造血器における造血系細胞の分化増殖過程への障害と末梢における成熟細胞の破壊が考えられている.医薬品の研究開発では,実験動物を用いた一般毒性試験の中で,末梢血を用いた血液学的検査により血液毒性を日常的に評価している.加えて,フローサイトメトリーを用いた造血系細胞の解析は,薬剤誘発性の血液毒性の機序推定に有用と考えられる.また,薬物による造血系細胞の分化増殖能への影響を調べるため,コロニー形成試験や細胞内ATP含量を指標に求める実験(ATPアッセイ)が行なわれている.近年,臨床における血液毒性を予測するため,in vitroのコロニー形成試験とin vivoの毒性試験の結果から算出されるモデルが提示されており,前臨床段階におけるリスク評価に有用と考えられる.
  • 寺西 宗広, 真鍋 淳
    2008 年 132 巻 6 号 p. 347-350
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/12
    ジャーナル フリー
    薬剤誘発性肝障害は開発中止や市販後に警告,販売中止に至る主要な有害事象である.医薬品の“開発プロセス”においては,肝毒性のポテンシャルを可能な限り早期に評価し,安全域,回復性,モニタリングマーカー,種差,類薬比較,リスク・ベネフィット分析等を通じて,薬剤開発に関するgo/no-goの決定が行われる.近年,市販段階に至って初めて検出されるような特異体質性肝毒性のために,警告,販売中止に至るケースも見受けられ,患者,医療者,当局,製薬企業の関心も高い.特異体質性肝毒性を完全に予測・回避する方法は現時点ではないが,反応性代謝物が関連するとの状況証拠もあり,その生成の可能性の低い候補化合物を選別することで潜在的な特異体質性肝毒性発現の可能性低減を図るという方法が取り入れられてきている.
新薬紹介総説
  • 石橋 正, 西川 弘之, 釆 輝昭, 中村 洋
    2008 年 132 巻 6 号 p. 351-360
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/12
    ジャーナル フリー
    ブロナンセリン(ロナセン®)は大日本住友製薬株式会社で創製された新規抗精神病薬であり,ドパミンD2およびセロトニン5-HT2A受容体に対する強い遮断作用により抗精神病作用を発現する.リスペリドンやオランザピンといった第二世代抗精神病薬の多くはセロトニン5-HT2A受容体結合親和性がドパミンD2受容体より高いが,ブロナンセリンでは逆にドパミンD2受容体結合親和性がセロトニン5-HT2A受容体よりも高く,ドパミン-セロトニンアンタゴニストと呼ぶべき特徴を持っている.また,アドレナリンα1,ヒスタミンH1,ムスカリン性アセチルコリンM1など,他の受容体への結合親和性は低いことから,ブロナンセリンは極めてシンプルな受容体結合特性を有する新しいタイプの第二世代抗精神病薬といえる.更に,各種動物試験より,本薬が第二世代抗精神病薬の特長といえる「臨床用量での精神症状改善効果と副作用の分離」を示すと考えられた.臨床試験ではハロペリドールとリスペリドンのそれぞれを対照とした2つの国内二重盲検比較試験を実施し,いずれの試験でも精神症状改善効果の対照薬に対する非劣性が検証され,特に陰性症状の改善効果はハロペリドールより高かった.また,有害事象や副作用の発現割合では,ハロペリドールより錐体外路系症状や過度鎮静が,リスペリドンより高プロラクチン血症,体重増加,食欲亢進,起立性低血圧が少なかった.長期投与試験でも効果は維持され,目立った遅発性有害事象の発現はなかった.これらのことより,ブロナンセリンの持つドパミン-セロトニンアンタゴニストと呼ぶべき特徴と選択性の高い極めてシンプルな受容体結合特性は,医療現場で有効性と安全性のバランスがとれた高い治療有用性を発揮し,統合失調症の急性期から慢性期まで幅広く使用できるfirst-line drugに位置付けられることが期待される.
  • 岩田 理子, 吉田 慎哉, 原田 寧
    2008 年 132 巻 6 号 p. 363-369
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/12
    ジャーナル フリー
    ダルナビル(DRV)は,野生型ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)および既存の抗HIV薬に耐性を示す臨床分離株に対して強力な抗ウイルス活性を示す,新規のプロテアーゼ阻害薬(PI)である.DRVは,HIV-1プロテアーゼの活性中心で複数のアミノ酸に相互作用することにより著しく強い結合親和性を示し,さらにDRVのbis-tetrahydrofuranylurethane(bis-THF)側鎖が主要活性部位のアミノ酸主鎖に結合するため,薬剤耐性変異による影響を受けにくいことが示されている.In vitroでの検討において,DRVは既存のPI耐性株に対する感受性を維持しており,また,薬剤耐性を引き起こしにくいことも示された.他に治療選択肢が限られた重度治療歴群のHIV-1感染症患者を対象とした用量設定試験(POWER1,2)の併合解析の結果,DRV群は対照PI群に比し優れたウイルス学的効果および免疫学的効果を示し,DRV群の安全性および忍容性は対照PI群と同様であった.また,欧米で審査中に実施された軽/中等度治療歴群を対象とした第3相比較試験(TITAN)では,実薬対照であるロピナビル/リトナビル(LPV/r)群に比しDRV/リトナビル(r)群の優越性が示され,DRVはウイルス学的治療失敗(Virological failure)が少なく薬剤耐性が発現しにくい新しいPIであることが示されつつある.DRV/r 600/100 mgの1日2回投与は,POWER試験から多剤耐性HIVに有効であり,且つTITAN試験から薬剤耐性がLPV/rに比し発現しにくいことからin vitroで示唆されたDRVの遺伝的障壁(genetic barrier)が高い薬理学的特長が臨床成績で示された.今後DRVは初回治療または軽/中等度治療歴群の患者へも使用され,HIV-1感染症患者の生命予後の改善に寄与することが期待される.
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