日本薬理学雑誌
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特集:血管病治療のブレイクスルーを目指す最近の研究
血管異常収縮の新しい治療戦略:平滑筋収縮タンパク質フィラメント構造と機能からのアプローチ
渡辺 賢小比類巻 生湯本 正寿
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2009 年 133 巻 3 号 p. 130-133

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抄録
血管攣縮などの平滑筋異常収縮の効果的な抑制に向けて,平滑筋収縮反応の最下流であるミオシン・アクチン相互作用を,ミオシンフィラメントおよびアクチンフィラメントとアクチン結合タンパク質から構成される細いフィラメントの空間的配置を撹乱することで,直接的に阻害することが可能か検討を行った.ミオシンII阻害薬として用いられてきたBDMやBTSは横紋筋管細胞のサルコメア形成を阻害する.しかし,これらの薬物は横紋筋平滑筋収縮タンパク質系への影響がほとんどみられない.そこで,近年見出されたミオシンII阻害薬であり平滑筋ミオシンATPase阻害効果を持つblebbistatinについて,モルモット・スキンド盲腸紐標本を用いて,収縮の力学応答と収縮フィラメントの形態に対する効果を検討した.10μM以上のblebbistatinは,スキンド盲腸紐のCa2+活性化収縮張力を抑制した.力学応答を観察した標本を固定して電子顕微鏡観察を行ったところ,ミオシン頭部由来と考えられるドット状の構造と細いフィラメントが明瞭に観察された.Blebbistatinはドット状構造および細いフィラメント構造の両者の配列を撹乱した.更に,経時的な筋収縮フィラメント動態を詳細に観察するために,スキンド標本のX線回折実験をSPring-8(高輝度光科学研究センター)にて行った.10μM以上のblebbistatin存在下では,ミオシンフィラメント由来14.4 nm子午反射と細いフィラメントの格子状配列に由来する11.5 nm赤道反射の反射強度が減弱した.以上の結果から,blebbistatinによる平滑筋収縮抑制作用の少なくとも一部はその収縮フィラメント配列の撹乱によると考えられる.ただし現状では,明瞭なX線回折像は盲腸紐等限られた平滑筋標本のみからしか得られない.そこで,血管平滑筋細胞における収縮タンパク質フィラメント動態をはかるべく,強力な蛍光色素Q-dotsを用いて,タンパク質1分子の動きを観察することを試みている.
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© 2009 公益社団法人 日本薬理学会
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