日本薬理学雑誌
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133 巻 , 3 号
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特集:血管病治療のブレイクスルーを目指す最近の研究
  • 川道 穂津美, 岸 博子, 加治屋 勝子, 高田 雄一, 小林 誠
    2009 年 133 巻 3 号 p. 124-129
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患やくも膜下出血後の脳血管攣縮などの疾患は,合計すると我が国の死因の第2位を占める.これらの血管病の原因は2つあり,一つは,長い年月を掛けて発症する動脈硬化であり,もう一つは,急性発症の血管攣縮,すなわち,血管平滑筋の異常収縮である.この血管異常収縮は,血圧維持を担っている細胞質Ca2+濃度依存性の正常収縮とは異なり,Rhoキナーゼを介する血管収縮のCa2+感受性増強(Ca2+-sensitization)によることが知られているが,その上流の分子メカニズムについては不明な点が多い.本稿では,この血管異常収縮の原因分子の1つとして見出されたスフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)が引き起こすSPC/Srcファミリーチロシンキナーゼ/Rhoキナーゼ経路について解説する.SPCとRhoキナーゼを仲介する分子として同定されたSrcファミリーチロシンキナーゼに属する分子群の中でも,Fynが血管異常収縮に関与しているという直接的証拠を蓄積してきたので,本稿では,これらの直接的証拠を得た方法と結果について解説する.さらに,Fynを標的にしてその機能を阻害する事によって,Ca2+依存性の血管収縮には影響を与えず,SPCが引き起こす血管異常収縮のみを選択的に抑制する分子標的治療薬として同定されたエイコサペンタエン酸(EPA)の効果について記述する.
  • 渡辺 賢, 小比類巻 生, 湯本 正寿
    2009 年 133 巻 3 号 p. 130-133
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    血管攣縮などの平滑筋異常収縮の効果的な抑制に向けて,平滑筋収縮反応の最下流であるミオシン・アクチン相互作用を,ミオシンフィラメントおよびアクチンフィラメントとアクチン結合タンパク質から構成される細いフィラメントの空間的配置を撹乱することで,直接的に阻害することが可能か検討を行った.ミオシンII阻害薬として用いられてきたBDMやBTSは横紋筋管細胞のサルコメア形成を阻害する.しかし,これらの薬物は横紋筋平滑筋収縮タンパク質系への影響がほとんどみられない.そこで,近年見出されたミオシンII阻害薬であり平滑筋ミオシンATPase阻害効果を持つblebbistatinについて,モルモット・スキンド盲腸紐標本を用いて,収縮の力学応答と収縮フィラメントの形態に対する効果を検討した.10μM以上のblebbistatinは,スキンド盲腸紐のCa2+活性化収縮張力を抑制した.力学応答を観察した標本を固定して電子顕微鏡観察を行ったところ,ミオシン頭部由来と考えられるドット状の構造と細いフィラメントが明瞭に観察された.Blebbistatinはドット状構造および細いフィラメント構造の両者の配列を撹乱した.更に,経時的な筋収縮フィラメント動態を詳細に観察するために,スキンド標本のX線回折実験をSPring-8(高輝度光科学研究センター)にて行った.10μM以上のblebbistatin存在下では,ミオシンフィラメント由来14.4 nm子午反射と細いフィラメントの格子状配列に由来する11.5 nm赤道反射の反射強度が減弱した.以上の結果から,blebbistatinによる平滑筋収縮抑制作用の少なくとも一部はその収縮フィラメント配列の撹乱によると考えられる.ただし現状では,明瞭なX線回折像は盲腸紐等限られた平滑筋標本のみからしか得られない.そこで,血管平滑筋細胞における収縮タンパク質フィラメント動態をはかるべく,強力な蛍光色素Q-dotsを用いて,タンパク質1分子の動きを観察することを試みている.
  • 谷口 正弥, 伊藤 正明
    2009 年 133 巻 3 号 p. 134-138
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    平滑筋におけるRho/Rhoキナーゼ系の活性化はミオシンホスファターゼ(MP)の阻害を介して筋収縮におけるCa2+感受性を亢進させる.L-NAME負荷高血圧ラットにおいて,Rhoキナーゼ阻害薬Y-27632の経口投与は,著明な降圧を引き起こし,この高血圧モデルにおいてRhoキナーゼの活性化が示唆された.このRhoキナーゼ活性化のメカニズムは,RhoAの活性化によると考えられ,Rhoキナーゼ関連分子の発現には変化がみられなかった.同様の現象はSHRSP(脳卒中易発症高血圧ラット),腎性高血圧ラット,DOCA食塩負荷ラットでも観察され,Rho/Rhoキナーゼ系が高血圧における重要なシグナル分子であると考えられる.ヒト肺高血圧症においてRhoキナーゼ阻害薬ファスジルの経静脈的投与が,有意に全肺血管抵抗や平均肺動脈圧を低下させたことから,Rhoキナーゼの活性化はその病態に深く関与することが示唆される.これらの結果はRho/Rhoキナーゼ系が高血圧や肺高血圧症において重要な役割を果たしていることを示しており,その阻害薬は新しい治療のストラテジーとなる可能性がある.
  • 久保 満樹, 江頭 健輔
    2009 年 133 巻 3 号 p. 139-143
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    これまでに,血管新生因子を用いた治療的血管新生療法に対するいくつかの臨床試験が行われてきたが,それらの効果はいずれも動物実験で認められた効果に比べて不十分なものであり,まだ決定的な治療法は確立されていない.今回,我々は生体吸収性のポリーマーからなるナノサイズの粒子(ナノ粒子)に着目し,このナノ粒子に治療因子を封入して新たなドラッグデリバリーシステム(DDS)として応用することを試みた.水中エマルジョン溶媒拡散法によって,乳酸とグリコール酸の共重合体(PLGA)からなる平均粒子径200 nmほどの生体吸収性ナノ粒子を作製し,その作製段階で,多面的血管保護作用を有することで知られるスタチン(ピタバスタチン)を混合することでスタチン封入ナノ粒子を作製した.また,生体へ投与後のナノ粒子の局在を知るために蛍光色素(FITC)封入ナノ粒子も作製した.マウスの下肢虚血モデルにおいて,虚血肢へFITC封入ナノ粒子を筋注したところ,ナノ粒子は少なくとも14日間以上筋組織内へ留まることが確認された.組織学的には,筋細胞よりも間質の血管内皮細胞へ効率よく取り込まれていた.スタチン封入ナノ粒子を虚血作製直後に1回のみ筋注したところ,7日目から有意な血流の回復を認め,組織学的にも血管内皮細胞の増加(angiogenesis)と細動脈の増加(arteriogenesis)を認めた.また,スタチン封入ナノ粒子投与後の筋組織では,Akt,eNOSの活性化(リン酸化)亢進およびVEGF,FGF-2,MCP-1といった内因性血管新生因子の産生増加を認めた.ナノDDSによるスタチンの血管内皮選択的送達は,単回投与のみで機能的血管新生が誘導されることから,虚血性疾患に対するより効果的で統合的な新たな治療的血管新生療法となりうると考えられる.
  • 中村 彰男
    2009 年 133 巻 3 号 p. 144-148
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    血管平滑筋の収縮は細胞内Ca2+の上昇に伴い,平滑筋ミオシン軽鎖キナーゼ(SmMLCK)が平滑筋ミオシンの制御軽鎖(MLc20)をリン酸化することにより引き起こされると考えられている.しかしながら,このリン酸化仮説は細胞内Ca2+の上昇を伴わないCa2+非依存性収縮やミオシンが脱リン酸化されているにもかかわらず収縮が維持されるなどこれまでのリン酸化仮説では説明できない多くの問題点を孕んでいる.これらの問題は血管病の薬物治療において一つの壁を作っている.この問題をブレイクスルーするきっかけとなったのはリコンビナントSmMLCKを用いた研究である.リコンビナントSmMLCKには従来のキナーゼ活性に着目した研究では見えてこなかった新たな制御機構の存在が次第に明らかになってきた.それはキナーゼ活性以外にもミオシンやアクチンに直接作用して平滑筋収縮を制御する機構である.このリン酸化によらない制御機構はSmMLCKの非キナーゼ活性と呼ばれる.ここではSmMLCKのもつ非キナーゼ活性に焦点を当てて紹介したい.
総 説
  • 真野 高司
    2009 年 133 巻 3 号 p. 149-153
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    新薬の物性測定,結晶スクリーニング,製剤技術の応用といった薬剤学的検討は,吸収性・薬物動態・製造性・安定性に大きな影響を与える.創薬研究を効率よく行うには,探索段階のステージに応じた,脂溶性・酸塩基解離定数・溶解度・溶解速度測定などの分子物性測定,結晶化・塩・結晶多形のスクリーニング,製剤技術の応用といった項目を実施することが重要である.また,それぞれの項目について科学的理解と最新の技術(テクノロジー)の把握,さらに創薬研究への応用についての正しい戦術策定があってこそ,新規スクリーニングの開発と導入,適切なプロジェクトへの応用といった意味のある研究が可能になる.それらを可能にするには科学技術・プロジェクトチーム両面から見た人材育成も必要であり,そのためにはマネージメントも大きな役割を果たす.探索段階における薬剤学的研究の意義とファイザー株式会社中央研究所(愛知県)における実践例を紹介する.
創薬シリーズ(3) その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • 山田 久陽
    2009 年 133 巻 3 号 p. 154-157
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    腎臓は,組織の“不均一性”が高く,薬物により腎臓のさまざまな部位が障害される.障害部位の特定を含めた腎毒性の評価は,ラットを用いた一般毒性試験においても検査項目を充実させることにより可能である.特に尿検査は,鋭敏で動物に負荷を与えない非侵襲的な検査として汎用される.糸球体障害の検出には,通常濾過されない血中高分子タンパクおよびアルブミンなどが有用である.近位尿細管障害には,同部位に局在するNAG,γ-GTP,α-GSTなどの酵素やKIM-1およびclusterinなどの局在タンパク,同部位で再吸収されるβ2-microglobulinなどの低分子タンパク,さらに,遠位尿細管障害ではμ-GSTなどの局在タンパクの測定が有用である.腎毒性の評価には,各部位のマーカーを2種以上選定して,その変化を経日的に解析し,最終的には腎臓の病理組織学的所見を加味して総合的に変化の程度や部位を判定すべきである.
新薬紹介総説
  • 田矢 廣司, 清水 聡
    2009 年 133 巻 3 号 p. 159-167
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/03/13
    ジャーナル フリー
    レボブピバカインは,英国のChiroscience社(現UCB社)が開発した長時間作用性の局所麻酔薬であり,ブピバカイン(ラセミ体)のS(-)異性体である.摘出ラット脊髄後根神経細胞外電位に対する抑制作用を指標にレボブピバカインの作用を検討した結果,ブピバカインあるいはR(+)異性体(R-ブピバカイン)と同等であり,ロピバカインに比べ約3倍強かった.さらに,ラットを用いた硬膜外投与および脊髄くも膜下投与時の局所麻酔作用においても,レボブピバカインの痛覚神経遮断作用は,ブピバカインとほぼ同等であり,ロピバカインの約1.5から2倍強かった.一方,レボブピバカインの運動神経遮断作用は,ブピバカインとほぼ同等あるいはやや弱い傾向が認められ,ロピバカインとは,硬膜外投与時では,高濃度(1.0%)でのみ有意に強く,脊髄くも膜下投与時ではほぼ同等であった.これらの成績はレボブピバカインの分離麻酔作用を示唆するものであった.そこで,脊髄後根神経細胞活動電位を伝導速度からAβ線維,Aδ線維およびC線維に分離し,それぞれの活動電位に対する抑制作用を検討した.IC50値比(C/AβあるいはAδ/Aβ)はいずれもブピバカイン=R-ブピバカイン>ロピバカイン>レボブピバカインの順であり,レボブピバカインは触覚・圧覚を伝える線維に対する抑制作用に比べ,痛みを伝える線維に対する抑制効果が強いことが示された.またレボブピバカインの安全性に関し,イヌを用いて平均痙攣誘発量の2倍量を投与し,痙攣誘発後速やかに蘇生術を施し,心循環系に及ぼす影響を比較検討した.レボブピバカイン群では全てが蘇生し,不整脈発現に至った動物はなく,レボブピバカインの痙攣発現から致死的な不整脈発現に至る危険性が他剤に比べ低いことが示唆された.本邦において実施されたレボブピバカインの硬膜外麻酔に関する第II/III相試験の結果,痛覚神経遮断の作用持続時間,動神経遮断効果の持続時間共に,ロピバカインに比べ有意に長く,術後鎮痛に関する第II/III相試験では,「覚醒確認後21時間までの鎮痛薬(ペンタゾシン)の使用量」は,レボブピバカインとロピバカインで同等であったが,鎮痛薬を使用しなかった症例の割合はレボブピバカインの方が有意に高かった.
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