日本薬理学雑誌
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特集 循環器疾患治療薬の研究戦略
Factor Xa(FXa)阻害薬の次世代経口抗凝固薬としての可能性
―前臨床成績から見た将来展望―
小西 典子廣江 克彦川村 正起
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2010 年 136 巻 2 号 p. 88-92

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抄録

これまでワルファリンは半世紀にわたり,唯一の経口抗凝固薬として世界中で使用されてきた.近年,活性化血液凝固第X因子(factor Xa, FXa)阻害薬が,ワルファリンの欠点を克服した新たな経口抗凝固薬の候補として注目されている.FXa阻害薬の適応症としては,静脈血栓症である深部静脈血栓症や肺塞栓症,動脈血栓症である急性冠動脈疾患,そのほか心原性脳塞栓症が挙げられ,これらの疾患を想定した種々動物モデルでの薬効および出血に関する成績が数多く報告されている.臨床開発段階にある経口FXa阻害薬,TAK-442(当社),リバロキサバン(バイエル−ジョンソン・エンド・ジョンソン),アピキサバン(ブリストル・マイヤーズ スクイブ−ファイザー)およびエドキサバン(第一三共)については,静脈血栓症モデルにおいて,出血時間を延長しない用量から抗血栓作用を示すこと,抗血栓作用と出血時間延長との安全閾はワルファリンよりも広いことが報告されている.また,動脈血栓症モデルにおいても,アピキサバンは出血時間の延長を伴わずに抗血栓作用を示すこと,臨床での併用が想定される抗血小板薬との組み合わせでその薬効を増強させることが確認されている.さらにラット脳塞栓症モデルにおいて,FXa阻害薬,DPC602(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)は,血栓の自然溶解を促進して脳血流を改善し,脳梗塞巣や神経脱落症状を改善することが示されている.よりヒトの臨床病態に近いモデルを指向して筆者らが作成したサル血栓性脳塞栓症モデルにおいても,FXa阻害薬TAK-239は神経脱落症状の改善を示した.これらの前臨床成績は,経口FXa阻害薬がワルファリンよりも優れた画期的な次世代経口抗凝固薬となることを示唆し,現在進行中の複数の臨床試験でのその有効性,安全性評価が待たれている.

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