日本薬理学雑誌
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特集 がん治療薬の研究開発戦略
がん治療ターゲットとしてのサバイビンの可能性とサバイビン発現抑制薬YM155の非臨床研究
喜多 彩中原 崇人竹内 雅博木野山 功山中 堅太郎峯松 剛光岡 圭介伏木 洋司三好 荘介笹又 理央宮田 桂司
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2010 年 136 巻 4 号 p. 198-203

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抄録
正常細胞に何らかの異常が生じると,生体は異常な細胞を修復あるいは除去することによって,その恒常性を維持する.また,正常細胞において,アポトーシスによる細胞死誘導機構が破綻すると,異常な細胞は除去されることなく,がんに代表される様々な疾患の引き金となる.アポトーシス制御に重要な因子の1つとして,IAP(Inhibitor of Apoptosis)ファミリータンパク質が知られており,これまでに8つのIAPファミリーが同定されている.IAPファミリーの中でも特にサバイビンは,発現抑制による細胞死誘導の他に,がん特異的発現,細胞の有糸分裂制御,そして既存抗がん薬の感受性を増強させるという点で注目を集め,がん治療のターゲットとして今日まで多くの研究がなされている.YM155はアステラス製薬株式会社で創製されたサバイビン発現抑制薬であり,各種ヒトがん細胞株に対して増殖阻害作用を示した.またヌードマウス担癌モデルにおいて,体重に影響を与えることなく腫瘍の退縮をともなう抗腫瘍作用を示した.siRNAやリボザイムによるサバイビンの機能抑制によって,既存抗がん薬の感受性が増強することが知られているが,YM155は既存抗がん薬との併用投与により,毒性の増悪化なく既存薬の薬効を増強させた.さらに,臨床で広く診断に用いられているpositron emission tomography(PET)を用いた評価においてはYM155の薬効が非侵襲的に検出でき,臨床におけるPET診断の有用性が確認された.以上から,YM155はサバイビン発現抑制作用により,がん細胞に対し選択的に抗腫瘍効果を発揮するユニークな新規抗がん薬となることが期待される.
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© 2010 公益社団法人 日本薬理学会
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