日本薬理学雑誌
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136 巻 , 4 号
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特集 がん治療薬の研究開発戦略
  • 原 隆人
    2010 年 136 巻 4 号 p. 192-197
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    現在,前立腺癌の薬物療法の中心はホルモン療法である.性腺刺激ホルモン放出ホルモン受容体作動薬の徐放性製剤による薬物的去勢が広く用いられている.前立腺癌はこれら去勢療法に著効を示し,その効果は2~3年程度持続する.しかし,その後,ほとんどの場合で再燃が起こる.この去勢療法抵抗性前立腺癌に対し化学療法薬のドセタキセルが有効であるが,奏功期間が短く,また,強い副作用があるため,去勢療法抵抗性前立腺癌に対する新しい治療法が強く望まれているのが現状である.最近の研究から去勢療法抵抗性前立腺癌においても去勢療法前の前立腺癌と同様にアンドロゲン受容体シグナルが重要な役割を果たしていることが明らかになってきた.去勢抵抗性獲得メカニズムの仮説として,(1)副腎性アンドロゲンによるアンドロゲン受容体活性化,(2)アンドロゲン受容体発現増加によるアンドロゲン受容体感受性亢進,(3)アンドロゲン受容体変異による各種ステロイドホルモンおよびアンドロゲン受容体拮抗薬のアンドロゲン受容体作動薬化,(4)恒常的活性化型のアンドロゲン受容体スプライシングバリアントの出現,(5)アンドロゲン受容体以外の増殖シグナルの利用,などが挙げられる.これらの仮説に基づいて,それぞれ,(1)副腎性アンドロゲン合成阻害薬,(2)高親和性のアンドロゲン受容体拮抗薬,(3)種々の変異型アンドロゲン受容体に対して拮抗活性を示すアンドロゲン受容体拮抗薬,(4)アンドロゲン受容体ダウンレギュレーター,(5)化学療法薬や分子標的薬,などの研究開発が進行中である.特に,副腎性アンドロゲンの合成を阻害する17, 20-リアーゼ阻害薬および高親和性かつ種々の変異型アンドロゲン受容体に対して拮抗活性を示す高活性アンドロゲン受容体拮抗薬は,現在,臨床試験で良好な成績を示し,期待されている.前者の例としてAbiraterone acetate およびTAK-700があり,後者の例としてMDV3100がある.
  • 喜多 彩, 中原 崇人, 竹内 雅博, 木野山 功, 山中 堅太郎, 峯松 剛, 光岡 圭介, 伏木 洋司, 三好 荘介, 笹又 理央, 宮 ...
    2010 年 136 巻 4 号 p. 198-203
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    正常細胞に何らかの異常が生じると,生体は異常な細胞を修復あるいは除去することによって,その恒常性を維持する.また,正常細胞において,アポトーシスによる細胞死誘導機構が破綻すると,異常な細胞は除去されることなく,がんに代表される様々な疾患の引き金となる.アポトーシス制御に重要な因子の1つとして,IAP(Inhibitor of Apoptosis)ファミリータンパク質が知られており,これまでに8つのIAPファミリーが同定されている.IAPファミリーの中でも特にサバイビンは,発現抑制による細胞死誘導の他に,がん特異的発現,細胞の有糸分裂制御,そして既存抗がん薬の感受性を増強させるという点で注目を集め,がん治療のターゲットとして今日まで多くの研究がなされている.YM155はアステラス製薬株式会社で創製されたサバイビン発現抑制薬であり,各種ヒトがん細胞株に対して増殖阻害作用を示した.またヌードマウス担癌モデルにおいて,体重に影響を与えることなく腫瘍の退縮をともなう抗腫瘍作用を示した.siRNAやリボザイムによるサバイビンの機能抑制によって,既存抗がん薬の感受性が増強することが知られているが,YM155は既存抗がん薬との併用投与により,毒性の増悪化なく既存薬の薬効を増強させた.さらに,臨床で広く診断に用いられているpositron emission tomography(PET)を用いた評価においてはYM155の薬効が非侵襲的に検出でき,臨床におけるPET診断の有用性が確認された.以上から,YM155はサバイビン発現抑制作用により,がん細胞に対し選択的に抗腫瘍効果を発揮するユニークな新規抗がん薬となることが期待される.
  • 船橋 泰博
    2010 年 136 巻 4 号 p. 204-209
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    アメリカ食品医薬局(FDA)によりがんの治療薬として承認されている14のキナーゼ阻害薬(抗体および低分子化合物)のうち,4つの薬剤が血管内皮細胞増殖因子(VEGF)シグナル経路を標的とするVEGF標的治療薬である.がん細胞により誘導された腫瘍血管の新生を阻害することで抗腫瘍効果を示す,血管新生阻害薬の概念は古く,1970年代初期には提案されていた.概念の臨床研究における証明までの道のりは長く,険しく,その概念の実現性が疑問視された時代もあったが,抗VEGF阻害抗体であるベバシズマブの臨床試験における治療効果の確認は,血管新生阻害薬によるがん治療の時代の幕を開け,VEGF標的治療薬のがん治療における役割の重要性は拡大している.また基礎研究においても血管新生研究は大きく発展しており,VEGFシグナル経路以外で血管新生を誘導するシグナル経路が数多く判明している.VEGF標的治療薬を用いたがん治療の拡大により,血管新生阻害薬に対するがん細胞の薬剤耐性化の問題が明らかとなってきており,VEGFとは異なるシグナル経路を阻害する血管新生阻害薬の開発とVEGF標的治療薬耐性がんに対する治療効果の改善が期待されている.
  • 大内 香
    2010 年 136 巻 4 号 p. 210-214
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    抗体は,キメラ化,ヒト化,および生産効率向上など多くの技術的革新を経て,臨床応用されるようになってきた.本稿では,固形癌の治療においてパラダイムシフトをもたらした抗体医薬トラスツズマブを例に抗体医薬の課題と今後の展望について述べる.HER2を標的としたヒト化モノクローナル抗体であるトラスツズマブは,固形がんに対して最初に効果が確認された抗体医薬であり,固形がん治療薬という抗体医薬の新たな有用性を示した抗体である.HER2は上皮増殖因子受容体ファミリーの一つであり,転移性乳癌では約25~30%の患者さんで過剰発現が認められる.HER2の過剰発現はがん細胞の増殖を促進し,HER2過剰発現腫瘍は予後不良であることが知られている.トラスツズマブはHER2に特異的に結合し,抗体依存性細胞障害(ADCC)誘導やHER2からのシグナル伝達阻害を介して抗がん効果を発揮する.トラスツズマブはHER2分子を過剰発現した腫瘍に対して高い効果を示すことから,HER2過剰発現の乳癌患者を特定したうえで治療が行われる.すなわち,トラスツズマブによる乳癌治療はHER2発現の診断に基づく個別医療の概念が,実際に治療に取り入れられた例でもある.トラスツズマブは,転移性乳癌および術後乳癌に用いられているが,昨年臨床胃癌での有用性も示された.トラスツズマブ耐性の機序としてはADCC活性の低下やHER2以外の増殖シグナル伝達の増加が考えられている.今後の抗体薬の展望として,改変形IgG1による物性,動態や活性の向上,IgG1以外の分子形,低分子抗体,New scaffold proteinなどの抗体様分子の開発が進められている.新規技術と,新規標的分子の同定,病態の解明およびバイオマーカーの同定によって,抗体医薬がこれまで以上に多種多様な形態,疾患で治療に応用されていくことが期待される.
総説
  • 芳賀 達也
    2010 年 136 巻 4 号 p. 215-218
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    Gタンパク質共役受容体キナーゼ(G Protein-coupled Receptor Kinase: GRK)の分子機能,分子構造,生理的役割を解説する.GRKは,Gタンパク質共役受容体(G Protein-Coupled Receptor: GPCR)をリン酸化するセリン・トレオニンキナーゼである.基本的な作用機構は,(1)アゴニスト結合した受容体(GPCR)がGRKを活性化,(2)活性化されたGRKが受容体をリン酸化,(3)リン酸化された受容体にアレスチン(arrestin)が結合,(4)その結果受容体の脱感受性(desensitization)が起こる,というものである.脱感受性は,受容体とGタンパク質との相互作用が損なわれる脱共役(uncoupling),受容体の細胞内への移行(internalization),細胞内移行した受容体の分解(down regulation)に区分される.Gqを介する反応をGRKがリン酸化非依存的に抑制する脱共役反応もある.受容体によるGタンパク質の活性化がonの反応であるのに対し,GRKの活性化による脱感受性はoffの反応である.一方,アレスチン上でMAPK(Mitogen Activated Protein Kinase)への情報伝達が起こることが報告されているが,この場合はGRKがonの反応を誘起していることになる.最近,GRKは多数の細胞内タンパク質や脂質と相互作用することが明らかになっている.細胞内シグナル伝達系の情報集積部位としての役割も推測されている.GRKは,網膜変性症,高血圧,心不全,リュウマチ性関節炎,アヘン耽溺などに関わると推測されている.
  • 市川 淳也, 松木 則夫, 小山 隆太
    2010 年 136 巻 4 号 p. 219-224
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    熱性けいれんは乳幼児に頻発するけいれん発作である.この有熱発作には遺伝素因や,発熱および未熟な脳といった各種因子が関与することが示されている.熱性けいれんには単純型と複雑型が存在し,前者は良性とされている.一方で,後者に関しては,将来的に側頭葉てんかんの発症へ関与する可能性が示唆されている.内側側頭葉てんかん患者の海馬では,神経細胞死や,神経細胞形態の異常に基づく異所性神経回路が確認されており,これらは神経細胞群の同期した過剰発射を誘発することでてんかん焦点を形成する.従って,熱性けいれんが細胞・分子レベルで海馬に与える影響および,これがてんかん原性の獲得に関与する可能性を追及することは,てんかんの発症メカニズムを解明する上で重要となる.しかし,ヒトの検体は,主に病状が進行し様々な薬物治療履歴がある成人患者由来であるため,これのみを使用した研究では,上述の目的のためには限界があった.この問題を解決するために,優れたモデル動物を利用して主に以下の4点が精力的に研究されてきた.即ち,(1)高熱状態が熱性けいれんを誘起するメカニズム,(2)熱性けいれんが与える神経解剖学的変化,(3)熱性けいれんが与える神経生理学的変化,そして(4)熱性けいれんが与える記憶・学習に対する影響である.本総説では以上に関して現在までに集積された知見を評価しながら議論する.
実験技術
  • 今村 武史
    2010 年 136 巻 4 号 p. 225-228
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    メタボリック症候群や糖尿病の成因・増悪因子と考えられるインスリン抵抗性は,インスリン作用の中でも特に,血糖降下作用の障害を主徴とする.血液中の糖は細胞内に取り込まれることによって減少することから,インスリン抵抗性の機序は最終的に,細胞内への糖取り込みというインスリン作用の障害に帰結されると言える.脂肪細胞などのインスリン標的細胞を用いたインスリン依存性糖輸送の分子機構は,これまで数多くの研究報告が蓄積され,全体像が次第に明らかとなってきた.これらの細胞ではインスリン刺激に反応して,糖輸送体タンパク質GLUT4に特異的な小胞が細胞膜表面へ輸送され,GLUT4タンパク質が細胞膜表面へ発現することによってはじめて細胞内への糖取り込みが可能となる.このインスリン依存性糖輸送のステップは,糖代謝におけるインスリン作用の律速段階であり,GLUT4タンパク質の細胞膜発現量はインスリン抵抗性の程度と逆相関することが知られている.つまり,GLUT4輸送に対するインスリン作用機構を理解することは,細胞レベルでのインスリン抵抗性機序の解明につながるものと考えられる.一方で,これまで糖輸送体GLUT4に関する多種多様な実験法が報告されてきたため,各実験結果によって示される範囲が曖昧になりやすく,目的を得るのに適した実験法の取捨選択に戸惑うところでもある.この稿では,糖輸送に関する細胞内インスリン作用の解析を行うための種々の実験法を紹介し,相違点とその長短を概説した.
創薬シリーズ(5)トランスレーショナルリサーチ(7)
  • 高橋 晴美
    2010 年 136 巻 4 号 p. 229-232
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    抗凝固薬ワルファリン(WF)の臨床効果には大きな個人差が存在するため,至適投与量の設定がしばしば困難となる.多くの臨床試験により,WFの血中濃度はCYP2C9遺伝子変異により上昇し,一方感受性はVKORC1遺伝子変異により高くなることが判明している.アジア人や白人においては年齢や体重などの患者背景因子とCYP2C9VKORC1両遺伝子型によりWF維持量の個人差の60%程度まで説明可能となってきた.そのため米国FDAでは2007年にWF添付文書にCYP2C9VKORC1遺伝子情報をWF投与量の影響因子として追加した.しかし,INRに加えて両遺伝子検査を実施することの臨床的有用性は現在のところ確立していない.本稿ではWF導入時における両遺伝子検査の臨床的意義について,白人とアジア人を対象としたRetrospective試験,ならびにProspective試験結果について紹介したい.
新薬紹介総説
  • 杉井 寛, 松村 順子, 井上 明弘, 堀籠 博亮, 松崎 勝寛, 清水 あかね
    2010 年 136 巻 4 号 p. 233-241
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/08
    ジャーナル フリー
    リラグルチド(遺伝子組換え)(販売名:ビクトーザ®皮下注)は,GLP-1[7-37]の34位をアルギニンに置換し26位リジンにN-パルミトイル-グルタミン酸を付加した,ヒトGLP-1アナログである.GLP-1は,主に下部小腸に分布するL細胞より分泌されるインクレチンホルモンであり,グルコース濃度依存的にインスリン分泌を亢進させ,効果的に血糖値を降下させる.しかしながら,GLP-1はDPP-4により速やかに分解されるため,消失半減期が非常に短い.それに対してリラグルチドは血漿タンパク質結合率が高く,注射部位からの吸収が緩徐で,DPP-4による代謝に対し安定であるため,長時間作用型の薬物動態および薬力学的作用プロファイルを示し,1日1回投与に適した薬剤といえる.リラグルチドは,非臨床薬理試験においてヒトGLP-1と同様の分子薬理学的作用を示し,安全性薬理試験および毒性試験では臨床上の安全性に影響するような所見は認められなかった.非臨床薬理試験および臨床薬理試験において,リラグルチドは長時間作用型の薬物動態および薬力学的作用を有することが示された.国内における第III相臨床試験は2型糖尿病患者を対象として実施した.グリベンクラミドを対照薬としてリラグルチド単独療法の有効性および安全性を検討した試験では,対照薬に対してHbA1Cを指標とした血糖コントロールの優越性,血糖プロファイルの改善,低血糖発現率の低値を示した.SU薬との併用療法におけるリラグルチドの有効性および安全性を検討した試験でもSU単独療法に対して,HbA1Cを指標とした血糖コントロールの優越性,血糖プロファイルの改善が示された.さらに膵β細胞機能関連パラメータを改善する上に,体重増加をきたさないなどの特徴も認められた.リラグルチドは低血糖や体重増加のリスクが低く,血糖コントロールを改善し,さらに膵β細胞機能指標を改善することから,今後の2型糖尿病治療に革新をもたらすと期待される.
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