日本薬理学雑誌
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総説
発達期の神経回路形成に与える熱性けいれんの影響
―モデル動物の利用による細胞・分子レベルでの検証―
市川 淳也松木 則夫小山 隆太
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2010 年 136 巻 4 号 p. 219-224

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抄録
熱性けいれんは乳幼児に頻発するけいれん発作である.この有熱発作には遺伝素因や,発熱および未熟な脳といった各種因子が関与することが示されている.熱性けいれんには単純型と複雑型が存在し,前者は良性とされている.一方で,後者に関しては,将来的に側頭葉てんかんの発症へ関与する可能性が示唆されている.内側側頭葉てんかん患者の海馬では,神経細胞死や,神経細胞形態の異常に基づく異所性神経回路が確認されており,これらは神経細胞群の同期した過剰発射を誘発することでてんかん焦点を形成する.従って,熱性けいれんが細胞・分子レベルで海馬に与える影響および,これがてんかん原性の獲得に関与する可能性を追及することは,てんかんの発症メカニズムを解明する上で重要となる.しかし,ヒトの検体は,主に病状が進行し様々な薬物治療履歴がある成人患者由来であるため,これのみを使用した研究では,上述の目的のためには限界があった.この問題を解決するために,優れたモデル動物を利用して主に以下の4点が精力的に研究されてきた.即ち,(1)高熱状態が熱性けいれんを誘起するメカニズム,(2)熱性けいれんが与える神経解剖学的変化,(3)熱性けいれんが与える神経生理学的変化,そして(4)熱性けいれんが与える記憶・学習に対する影響である.本総説では以上に関して現在までに集積された知見を評価しながら議論する.
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© 2010 公益社団法人 日本薬理学会
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