抄録
漢方薬による治療効果は構成生薬の品質によって大きく左右されるが,生薬の品質の相違を検証した研究は少ない.そこで芍薬(しゃくやく)について,薬用品種である和芍や園芸品種である洋芍を用いて,品質の相違と薬理効果との関連性について検討した.ESR法を用いて和芍より作成した赤芍および白芍,洋芍より作製した白芍,中国産赤芍の活性酸素種に対する消去活性を検討したところ,すべてに抗酸化作用が認められた.しかし,生薬間の検討では有意な差を認めなかった.芍薬を薬用品種である和芍,あるいは園芸品種である洋芍とし,他の構成5生薬を同一とした和芍当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(当芍散)および洋芍当芍散を作製し,貧血に対する臨床効果の相違と両当芍散の含有成分との関連性について検討した.貧血に対する臨床効果は封筒法を用いたクロスオーバー方式で評価し,和芍当芍散,洋芍当芍散ともに貧血を有意に改善した.さらに,遺伝的アルゴリズムにより項目を抽出した上で部分最小二乗法を行うGA-PLS解析では,両当芍散の臨床効果は個々に分類することが可能であり,両者の効果は同等でないことが明らかとなった.UPLC解析では主要生薬成分(有機物)量に差を認めず,元素パターンのICP-MS分析でもFe含有量に有意な差はなかった.しかし,両当芍散中のFe状態のメスバウアー分析では,和・洋芍当芍散のメスバウアースペクトルが異なり,和芍当芍散中Fe状態が1種類に対し,洋芍当芍散中は少なくとも2種類あることが明らかとなった.以上の結果から,和芍当芍散と洋芍当芍散では貧血に対する臨床効果が異なり,この臨床効果の相違に両当芍散中のFe状態が関連する可能性が示唆された.