日本薬理学雑誌
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137 巻, 1 号
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特集 漢方薬理学:臨床医学的エビデンスから薬理学的エビデンス
  • 佐藤 広康, 西田 清一郎
    2011 年 137 巻 1 号 p. 4-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/10
    ジャーナル フリー
    現在,医薬学教育に漢方医学のカリキュラムが取り込まれている.漢方医学は古典的,伝統的な医学概念であり,先人による永年の臨床経験に基づいて行われている.漢方薬は3千年の臨床経験から「証」に準じた2種以上の生薬からなる複合多成分薬なので,「証」を全く無視しての診断処方は現在では難しい.「証」自体の科学的解析を含め,これまで解明されてきた多くの基礎・臨床薬理学エビデンスから,学生や医師の漢方医学に対する認識度を向上させ,将来,漢方薬が誰でも処方できるよう難解な漢方医学概論を標準化していく必要がある.高齢者は生体機能低下から老人症候群と称され,慢性多臓器疾患を有する.漢方薬は多様な臨床医学的エビデンスを有し,多彩な作用機序から高齢者により適する.複合多生薬成分から構成された漢方薬の老人症候群への有効性を示す.
  • 柴原 直利, 高橋 京子
    2011 年 137 巻 1 号 p. 8-12
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/10
    ジャーナル フリー
    漢方薬による治療効果は構成生薬の品質によって大きく左右されるが,生薬の品質の相違を検証した研究は少ない.そこで芍薬(しゃくやく)について,薬用品種である和芍や園芸品種である洋芍を用いて,品質の相違と薬理効果との関連性について検討した.ESR法を用いて和芍より作成した赤芍および白芍,洋芍より作製した白芍,中国産赤芍の活性酸素種に対する消去活性を検討したところ,すべてに抗酸化作用が認められた.しかし,生薬間の検討では有意な差を認めなかった.芍薬を薬用品種である和芍,あるいは園芸品種である洋芍とし,他の構成5生薬を同一とした和芍当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(当芍散)および洋芍当芍散を作製し,貧血に対する臨床効果の相違と両当芍散の含有成分との関連性について検討した.貧血に対する臨床効果は封筒法を用いたクロスオーバー方式で評価し,和芍当芍散,洋芍当芍散ともに貧血を有意に改善した.さらに,遺伝的アルゴリズムにより項目を抽出した上で部分最小二乗法を行うGA-PLS解析では,両当芍散の臨床効果は個々に分類することが可能であり,両者の効果は同等でないことが明らかとなった.UPLC解析では主要生薬成分(有機物)量に差を認めず,元素パターンのICP-MS分析でもFe含有量に有意な差はなかった.しかし,両当芍散中のFe状態のメスバウアー分析では,和・洋芍当芍散のメスバウアースペクトルが異なり,和芍当芍散中Fe状態が1種類に対し,洋芍当芍散中は少なくとも2種類あることが明らかとなった.以上の結果から,和芍当芍散と洋芍当芍散では貧血に対する臨床効果が異なり,この臨床効果の相違に両当芍散中のFe状態が関連する可能性が示唆された.
  • 河野 透
    2011 年 137 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/10
    ジャーナル フリー
    植物由来物を利用した医薬は代替補完医療complementary and alternative medicine(CAM)の枠組みの中にあり,エビデンス重視の現代医療では異端的扱いであった.世界中から日本の伝統的医薬である漢方薬が高品質および標準化されている点に注目され始めた.その契機となったのが大建中湯の薬効機序に関する分子レベルの研究である.大建中湯は3つの生薬(山椒(さんしょう),乾姜(かんきょう),人参(にんじん))が含まれ,術後の腸管運動麻痺改善,および腸管血流改善作用が,大建中湯の主要成分であるhydroxy-α-sanshool,6-shogaolを中心にカルシトニン・ファミリー・ペプチドを介して発現していることが明らかとなった.この研究を契機に全国の大学病院で二重盲検プラセボ比較試験が開始された.同時に米国でも臨床試験が行われ大建中湯の有効性がいち早く証明され漢方薬のCAMからの脱出が始まった.
  • 新井 誠人, 松村 倫明, 吉川 正治, 今関 文夫, 横須賀 收
    2011 年 137 巻 1 号 p. 18-21
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/10
    ジャーナル フリー
    六君子湯は8つの生薬で構成されており,胃腸が弱く,食欲がなく,みぞおちがつかえ,疲れやすく,貧血性で手足が冷えやすく,諸症状(胃炎,胃アトニー,胃下垂,消化不良,食欲不振,胃痛,嘔吐)を治療対象としている.六君子湯は,抗がん薬シスプラチン投与によって低下した血中グレリン値,食餌摂取量を回復させ,その作用機序も明らかになりつつある.我々の研究では,六君子湯2週間投与後,健常ヒト,マウスでも血中グレリン値が増加した.同時に,マウス胃組織中のグレリンmRNA発現量が増加した.対照薬ドンペリドン(腸管運動改善薬)では両者とも不変であった.これらの六君子湯の作用機序から,機能性ディスペプシア27症例に対し,六君子湯とドンペリドンのランダム化比較試験を行った.両薬剤とも機能性ディスペプシアの自覚症状を改善したが,血中グレリン値は六君子湯群のみ上昇した.従って,六君子湯はグレリンを介して臨床症状を改善することが判明した.機能性ディスペプシアに対する根本治療法は現在確立されておらず,六君子湯の有効性をより詳細に解明し,エビデンス確立にさらなる研究が必要である.
総説
  • 坂本 謙司, 森 麻美, 中原 努, 石井 邦雄
    2011 年 137 巻 1 号 p. 22-26
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/10
    ジャーナル フリー
    網膜色素変性症は中途失明の3大原因の1つであり,本邦では緑内障,糖尿病網膜症に続いて中途失明原因の第3位を占めている.網膜色素変性症の原因は遺伝子の変異であり,常染色体劣性遺伝型を示すことが多い.網膜色素変性症の患者においては,網膜の視細胞および色素上皮細胞の広範な変性が認められ,自覚症状としては,初期には夜盲と視野狭窄が,症状が進行し40歳を過ぎた頃から社会的失明(矯正視力約0.1以下)に至る.しかし,本症の進行には個人差が大きく,中には生涯良好な視力を保つ患者も存在する.現在,人工網膜,網膜再生,遺伝子治療および視細胞保護治療などに関する研究が進められているが,本症の治療法は全く確立されていない.本総説では,代表的な網膜色素変性症の原因遺伝子と,それらに対応する動物モデルを概説し,さらにそれらの動物モデルを用いて得られた新たな治療法の開発の現状について紹介する.
創薬シリーズ(5)トランスレーショナルリサーチ(12)
  • 珠玖 洋, 原田 直純
    2011 年 137 巻 1 号 p. 27-30
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/10
    ジャーナル フリー
    がんと免疫に関する研究の進展を背景に,現在がん治療のためのがんワクチンの開発が世界的に進められている.我々は,がんに対する獲得免疫におけるキラーT細胞,ヘルパーT細胞および抗原提示細胞の重要性に注目して設計した新しい多価性がんワクチン「CHPがんタンパク質ワクチン」の開発を進めている.本ワクチンはキラーT細胞とヘルパーT細胞の同時活性化を達成するために全長の抗原タンパク質を用い,抗原タンパク質の抗原提示細胞への効率的な送達とクロスプレゼンテーションを促す新規抗原デリバリーシステムCHPを取り入れている点を特徴としている.本ワクチンは臨床・非臨床・GMP製造の各ステップにおけるアカデミアと企業の協奏的な努力の末に現在,実用化を目指して国内外で治験が進められている.
新薬紹介総説
  • 松平 忠弘, 朝日 第輔, 梁 幾勇, 網干 正幸
    2011 年 137 巻 1 号 p. 31-41
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/10
    ジャーナル フリー
    パニツムマブ(ベクティビックス®)は,米国Amgen社で開発された,EGFR(上皮細胞増殖因子受容体)を標的とするヒト型IgG2モノクローナル抗体であり,ヒトEGFRの細胞外ドメインに高い親和性で,特異的に結合する.この結果,EGF,TGF-αなどの内因性リガンドとEGFRとの結合を競合的に阻害することで,リガンドによる受容体のリン酸化,受容体チロシンキナーゼの作用およびシグナル伝達を阻害し,細胞増殖阻害,アポトーシスの誘導,ならびにIL-8およびVEGFなどの血管新生因子産生のダウンレギュレーションを誘導する.パニツムマブは,in vitro試験において,EGFRを発現する様々な腫瘍細胞株に対して用量依存的に増殖阻害作用を示した.またin vivo試験では,ヒト腫瘍細胞(ヒト結腸腫瘍由来HT29,DLD-1など)を移植したヌードマウスの腫瘍増殖を単独投与で,かつ用量依存的に抑制し,さらには,イリノテカンなどの化学療法または分子標的治療薬との併用投与によって相加的抗腫瘍効果を示した.臨床試験では,パニツムマブはKRAS遺伝子野生型を有する転移性結腸・直腸癌患者に対して,ファーストラインからサードラインまでの治療に有効性および安全性が確認された.一方,KRAS遺伝子変異型を有する患者群ではその有効性は認められなかった.これらの結果を受け,本邦では,2010年4月に「KRAS遺伝子野生型の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を効能・効果として承認された.現在,パニツムマブのさらなる有効性予測へ向けて,KRAS以外に,BRAFをはじめとする新たなバイオマーカーの探索が進められており,結腸・直腸癌患者に対する臨床治療の個別化を進める上で今後重要な知見が得られることが期待されている.
  • 武内 浩二, 藤田 哲也, 廣居 伸蔵
    2011 年 137 巻 1 号 p. 43-50
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/01/10
    ジャーナル フリー
    高選択的DPP-4阻害薬アログリプチン安息香酸塩(ネシーナ®錠)は2型糖尿病に対する治療薬である.アログリプチンは医薬分子構造設計(SBDD)技術を駆使して創製され,DPP-4の活性部位と共有結合は形成せず,静電相互作用,水素結合,π-πスタッキングなどの種々の相互作用をバランス良く,かつ効率的に利用することにより,DPP-4選択的に強力に結合する.2型糖尿病モデル動物において,アログリプチンの単回投与は血漿DPP-4阻害に伴う血漿中の活性型GLP-1増加,インスリン分泌促進および血糖低下作用を示した.4週間の反復投与試験においても糖化ヘモグロビンの低下および膵保護作用を認めたことから,アログリプチンの2型糖尿病治療薬としての有用性が強く示唆された.アログリプチンの臨床試験では,健康成人を対象とした臨床薬理試験が実施され,アログリプチンを1日1回投与することで,血漿中DPP-4活性は24時間にわたり高率に阻害され,血漿中活性型GLP-1濃度はプラセボと比較して有意に増加した.食事療法・運動療法を実施するも血糖コントロールが不十分な2型糖尿病を対象とした臨床試験において,アログリプチンの1日1回投与により,主要評価項目であるHbA1c変化量はプラセボ群と比較して有意に低下した.副作用の発現頻度は,アログリプチンの投与群とプラセボ群で大きな差はなく,低血糖を含め,特に頻度の高いものはみられなかった.また,アログリプチンの長期投与試験(52週間)において,血糖低下作用の持続性が示されるとともに,長期投与下の安全性および忍容性は良好であった.以上の基礎および臨床試験成績より,アログリプチンは1日1回投与により,長期間にわたり良好な血糖コントロールが得られるとともに,安全性が高く,忍容性に優れており,かつ低血糖の発現リスクが低いことから,2型糖尿病治療薬として有用な薬剤になると考えられる.
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