日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
DPP-4阻害薬アナグリプチン(スイニー®錠)の薬理学的特性と臨床効果
鍔本 義治後藤 守兄
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2013 年 141 巻 6 号 p. 339-349

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抄録

アナグリプチン(スイニー®錠)は(株)三和化学研究所で創製され,興和(株)と共同で開発されたジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)阻害薬である.アナグリプチンは濃度依存的にDPP-4を可逆的かつ競合的に阻害し,ヒト組換えDPP-4活性を50%阻害する濃度(IC50)は3.3 nMである.また,極めて高い酵素選択性を有し,DPP-8,DPP-9等のDPP-4類縁酵素に対する阻害作用は極めて弱く,他のプロテアーゼに対する作用もほとんど認められない.ラットまたはイヌを用いた検討において,アナグリプチンの経口投与は,用量に依存した強力な血漿DPP-4活性阻害作用を示した.また,アナグリプチンは糖尿病モデルラットにおいても,血中のDPP-4を強力に阻害し,インスリン濃度を増加させ,糖負荷後の血糖上昇を抑制した.グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)分泌促進作用が知られているα-グルコシダーゼ阻害薬またはビグアナイド薬とアナグリプチンを併用投与した結果では,糖尿病モデルラットにおいて,血中活性型GLP-1濃度がさらに増加し,これらの薬剤との併用によるGLP-1作用の増強が期待された.臨床試験では,健康成人を対象とした第I相試験において,アナグリプチンの投与量依存的な血中濃度の上昇と血漿DPP-4活性阻害率の上昇が確認され,1回100 mgを1日2回投与することにより24時間にわたって血漿DPP-4活性の阻害を高率に維持できることが示された.2型糖尿病患者を対象として,アナグリプチンを1回50~200 mg,1日2回(BID),12週間投与した第II相試験では,用量依存的なHbA1cの低下が確認され,推奨されるアナグリプチンの用法・用量は100 mg BIDであることが示された.続く第II/III相試験では,アナグリプチンの1回100または200 mg,1日2回,12週間投与の有効性および安全性が再確認され,ボグリボースを有意に上回るHbA1c低下作用が示された.さらに,第III相の単独長期投与試験および経口血糖降下薬(α-グルコシダーゼ阻害薬,ビグアナイド薬,スルホニルウレア薬またはチアゾリジン薬)との併用長期投与試験では,いずれの単独または併用療法においても,アナグリプチン100 mg,1日2回投与の有効性および安全性が確認され,血糖コントロール改善効果が治療期52週まで持続することが示された.また,効果不十分な患者では,200 mg,1日2回に増量することにより,37.6%~59.7%の患者でさらなるHbA1cの低下が認められた.これまでの臨床試験において低血糖症の発現率は低く,報告された低血糖症はいずれも軽度の事象であった.また,アナグリプチン投与による重篤な副作用は認められていない.以上の結果が示すように,アナグリプチンは優れた有効性と安全性を有しており,新しい糖尿病治療薬として期待される.

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