日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
神経細胞障害性ストレスに対する生体応答
『脳梗塞治療における新たな可能性を探る』 脳血管障害誘導性耐糖能異常の発現における中枢-末梢臓器間連関機構の関与
原田 慎一山﨑 由衣徳山 尚吾
著者情報
ジャーナル フリー

2013 年 142 巻 1 号 p. 4-8

詳細
抄録

我が国の主要な死因の一つである脳卒中は,高い死亡率とは対照的に,外科的治療以外に有効な治療薬が少ない現状にある.従って,治療ウインドウの広い薬剤の開発や,新たな治療戦略の確立は急務の課題とされている.現在,脳卒中の発症に関与する因子は数多く報告されているが,その中でも,糖尿病または高血糖状態が重要な危険因子であることはよく知られている.さらに最近では,糖尿病の既往歴のない人でも,脳卒中発症後に高血糖状態を呈し,それをインスリンで厳格に制御することによって死亡率が抑制されるという報告がなされている.これらの知見は,血糖値バランスの乱れが脳卒中の発現ならびに予後に密接に影響する可能性を示唆している.しかしながら,その発現機序は未だ不明である.本総説では,①糖代謝制御に関与するインスリンシグナル系,②中枢-末梢臓器間連関に焦点を当てた脳虚血性耐糖能異常の発現機序,③インスリンやメトホルミン等の抗糖尿病薬,神経ペプチドであるorexin-Aを用いた脳虚血性耐糖能異常ならびに神経障害発現に対する影響について著者らの知見を中心に概説する.本総説を通し,中枢をターゲットとした治療だけではなく,既存の糖尿病治療薬ならびに血糖値制御因子を用いた全身性の代謝機能調節も脳卒中治療において重要であることを提唱する.

著者関連情報
© 2013 公益社団法人 日本薬理学会
次の記事
feedback
Top