日本薬理学雑誌
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142 巻, 1 号
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神経細胞障害性ストレスに対する生体応答
  • 原田 慎一, 山﨑 由衣, 徳山 尚吾
    2013 年 142 巻 1 号 p. 4-8
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/10
    ジャーナル フリー
    我が国の主要な死因の一つである脳卒中は,高い死亡率とは対照的に,外科的治療以外に有効な治療薬が少ない現状にある.従って,治療ウインドウの広い薬剤の開発や,新たな治療戦略の確立は急務の課題とされている.現在,脳卒中の発症に関与する因子は数多く報告されているが,その中でも,糖尿病または高血糖状態が重要な危険因子であることはよく知られている.さらに最近では,糖尿病の既往歴のない人でも,脳卒中発症後に高血糖状態を呈し,それをインスリンで厳格に制御することによって死亡率が抑制されるという報告がなされている.これらの知見は,血糖値バランスの乱れが脳卒中の発現ならびに予後に密接に影響する可能性を示唆している.しかしながら,その発現機序は未だ不明である.本総説では,①糖代謝制御に関与するインスリンシグナル系,②中枢-末梢臓器間連関に焦点を当てた脳虚血性耐糖能異常の発現機序,③インスリンやメトホルミン等の抗糖尿病薬,神経ペプチドであるorexin-Aを用いた脳虚血性耐糖能異常ならびに神経障害発現に対する影響について著者らの知見を中心に概説する.本総説を通し,中枢をターゲットとした治療だけではなく,既存の糖尿病治療薬ならびに血糖値制御因子を用いた全身性の代謝機能調節も脳卒中治療において重要であることを提唱する.
  • 石毛 久美子, 長田 暢弘, 小菅 康弘, 伊藤 芳久
    2013 年 142 巻 1 号 p. 9-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/10
    ジャーナル フリー
    脳梗塞は,以前に比べ死亡率が減少したが,重篤な後遺症を伴うことが多く新規脳保護薬の開発が望まれている.我々は,最近,様々な疾患において注目されている小胞体ストレスに着目し,脳梗塞における小胞体ストレスの関与について,マウス総頸動脈を一過性に結紮する前脳虚血モデルにおいて検討するとともに保護薬の探索を行った.まず,再灌流後に脳切片を作成して観察したところ,48時間後までは異常を認めなかったが,72時間後に海馬CA1領域に領域特異的な細胞障害が認められた.モデルマウス海馬においては,細胞障害に先立って,小胞体ストレスによって誘導される分子シャペロンであるGlucose-regulated protein 78(GRP78)および小胞体ストレス誘発細胞死に関連するC/EBP homologous protein (CHOP)とcaspase-12の活性化体であるcleaved-caspase-12の発現上昇が認められた.GRP78およびcaspase-12の発現は,海馬CA1領域の錐体細胞層およびアストロサイトを含む周囲の細胞で認められたが,CHOPの発現は錐体細胞層に限局していた.抗腫瘍性抗生物質であるミスラマイシンは,抗腫瘍作用を示すより低用量(50~150 μg/kg,i.p.)で72時間後に観察される細胞障害を用量依存的に回復させた.また,再灌流2~3週間後に,長期増強現象(LTP)が低下したが,ミスラマイシン(150 μg/kg,i.p.)の投与は,このLTPの低下も顕著に抑制した.以上より,虚血再灌流(I/R)負荷により,海馬CA1領域において,領域特異的に小胞体ストレスが誘発され,CHOPおよびcleaved-caspase-12の発現上昇を伴う神経細胞死が引き起こされることが明らかとなった.また,ミスラマイシンが,細胞障害を顕著に抑制することが明らかとなり,新規保護薬のリード化合物となる可能性が示された.
  • 宝田 剛志, 福森 良, 米田 幸雄
    2013 年 142 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/10
    ジャーナル フリー
    脳梗塞発症時には,梗塞部位における細胞外グルタミン酸(Glu)濃度の異常な上昇に伴って,N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体の過度の活性化を介する遅発性神経細胞死が引き起こされる.動物実験では脳虚血負荷後に海馬CA1領域および扁桃体に限局する遅発性の神経細胞脱落が観察されるが,この脳内部位選択的な脆弱性の出現機序は未だ明らかにはなっていない.我々はこの選択的脆弱性を引き起こす“障害因子”の探索を行ってきたが,最近ミトコンドリアでのエネルギー代謝調節に重要な役割を果たすアンカップリングプロテイン(uncoupling protein:UCP)の一つであり,かつミトコンドリアにCa2+を輸送するユニポーターの候補分子であるUCP2が,選択的に海馬由来神経細胞で高発現する事実を見出した.さらに,培養神経細胞にレンチウイルスベクターを用いてUCP2を過剰発現させると,Glu神経毒性が著明に増強されることが明らかとなった.また,NMDA受容体を人工的に発現させたHEK293細胞を使用した解析では,UCP2がNMDA曝露に伴うミトコンドリア内Ca2+流入を選択的に促進させるだけでなく,この際にはNMDA受容体とUCP2が相互作用する可能性を確認した.一方,エタノールの薬理作用出現に,NMDA受容体活性化後のUCP2を介するミトコンドリア内Ca2+流入が関与する可能性を見出した.本稿では,我々の上記研究成果を踏まえて,Glu神経毒性におけるミトコンドリア因子の関与に関する新知見を紹介したい.
  • 米山 雅紀, 荻田 喜代一
    2013 年 142 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/10
    ジャーナル フリー
    哺乳動物成体脳には,ニューロン前駆細胞(神経幹細胞)が存在して新たなニューロンが生み出される(ニューロン新生).また,脳虚血などのニューロン変性が惹起されると,ニューロン前駆細胞が増殖してニューロン新生が促進されることも知られる.一方,脳内の免疫担当細胞であるミクログリアは,脳傷害時に活性化されて病巣部への蓄積と活性化が認められる.我々は,有機スズ化合物トリメチルスズをマウスへ投与すると,海馬歯状回選択的ニューロン毒性を示して歯状回顆粒細胞層の脱落が認められ,その後に同部位においてnestin陽性細胞(神経幹・前駆細胞)が多数出現することおよび顆粒細胞層が再生することを見出し,「海馬歯状回顆粒細胞層脱落・再生モデル動物」を提案している.本モデル動物において,歯状回ニューロン新生における活性化ミクログリア関連因子およびそのシグナル経路について解析した.顆粒細胞層脱落後の再生初期段階に,Iba-1陽性細胞(ミクログリア)の活性化およびTNFαの発現増加が観察される.さらに,nestin陽性細胞ではNF-κB p65の核移行がみられる.また,ミクログリア活性化抑制薬のミノサイクリン処置は,Iba-1陽性細胞およびTNFαの増加とNF-κB p65の核移行を抑制する.これらの事実は,海馬歯状回顆粒細胞層脱落後のニューロン新生促進メカニズムの一部にミクログリア活性化によるNF-κBを介したシグナルが関与することを示唆するものであり,ミクログリアの制御メカニズム解明がニューロン変性後のニューロン新生促進を介した新たな治療法開発の基盤となるとともに再生医学の発展に寄与することが期待される.
総説
  • 吉澤 一巳, 成田 年, 鈴木 勉
    2013 年 142 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/10
    ジャーナル フリー
    オピオイド鎮痛薬による薬物療法は,がん性疼痛に限らず非がん性疼痛に対してもその有用性が報告されている.しかしながら,米国では慢性非がん性疼痛患者に対するオピオイド鎮痛薬の使用量が急増するとともに精神依存をきたす患者も増えていることが問題となっている.一方,幅広い臨床経験からがん性疼痛治療にオピオイド鎮痛薬を適切に使用する限り,精神依存は問題にならないことが知られている.また我々は,これまでの基礎研究において疼痛下ではオピオイド鎮痛薬に対する精神依存の形成が著明に抑制されること,さらにその抑制機序も明らかにしてきた.従って,「オピオイド鎮痛薬は安全な薬」という安易なメッセージではなく,オピオイド鎮痛薬の適正使用の本質を理解することが重要と考える.そこで本稿では,オピオイド鎮痛薬の非疼痛下における精神依存形成機構と疼痛下における精神依存不形成機構を中心に,臨床における依存の発現状況と予防・治療に関する知見を交えて概説する.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(4)(5)
  • 山﨑 基寛
    2013 年 142 巻 1 号 p. 28-31
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/10
    ジャーナル フリー
    今日では,大手製薬企業の多くは上市する新薬の半分近くをオープンイノベーションとライセンシングに頼っている.オープンイノベーションの背景には,近年,新薬の種を見つけるゲノム創薬の最先端技術が急速に発展したこと,新薬の研究開発費は年々高騰しており大手製薬企業でも財政負担が限界に達していること等がある.ライセンシングが活発なのは,自社で必要な新製品を自社のみの研究開発からは生み出せないこと,バイオベンチャー企業が開発後期の化合物を多く出していること等がある.製薬企業のオープンイノベーションの現状とライセンシングの実態を紹介する.
  • 内林 直人
    2013 年 142 巻 1 号 p. 32-38
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/10
    ジャーナル フリー
    創薬のアイデアや研究のシーズは,臨床検体や化合物ライブラリー等の実質的資源と同様に重要な研究資源である.未だアカデミアやバイオベンチャーに眠っているアイデアやシードを如何に有効活用して,製薬企業で枯渇している創薬の種として育成させ製品化するかが,克服すべき現在の課題である.筆者らは,課題解決の主力となる新しい連携手法「オープンイノベーション」に焦点を当て,産学官が取り組んでいる事業や政策につき,企業や公的機関の代表者と意見交換を実施して調査研究を行った.創薬のスピードと高い質を獲得するには,自社完結主義ではなくオープンイノベーションを浸透させること,産学官連携のネットワークを拡大すること,創薬の情報を積極的に公開すること,外部情報に対する目利きコーディネーターを育成し活用すること,ベンチャー企業の設立と育成を支援すること,等が重要である.
新薬紹介総説
  • 森 雅哉, 高橋 紫乃
    2013 年 142 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/07/10
    ジャーナル フリー
    アイミクス®配合錠は,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)であるイルベサルタン(以下,IRB)100 mgとカルシウム拮抗薬(CCB)であるアムロジピン(以下,AML)5 mgまたは10 mgを含有する高血圧症治療用配合錠である.CCBは主としてL型カルシウムチャネル阻害作用による血管平滑筋の収縮抑制に基づく降圧効果を示す一方,圧受容器反射を介して交感神経系を活性化させる.その結果,レニン-アンジオテンシン系(RAS)が賦活され,強力な昇圧物質であるアンジオテンシンIIの産生が増大する.一方,ARBはアンジオテンシンIIの作用を受容体レベルで抑制することから,CCBとARBの併用で各単剤を上回る降圧効果が期待される.高血圧自然発症ラットを用いて降圧作用を検討したところ,IRBとAMLの併用投与により各単剤投与と比較して降圧作用が増強された.従って,CCBとARBの併用は降圧作用増強の点において合理的なアプローチであることが明らかとなった.IRB 100 mgまたはAML 5 mg単剤投与で降圧効果不十分な本態性高血圧症患者を対象とした後期第II相試験で,IRB/AML併用群のトラフ時坐位収縮期血圧下降量は各単剤投与群に比べて有意に大きく,IRBとAMLの併用の有用性が立証された.アイミクス®配合錠の長期投与試験(52週)において,単剤で報告されている以外の新たな副作用は認められなかった.また,アイミクス®配合錠HD(100 mg/10 mg)の浮腫の発現割合はすでに報告されているAML 10 mg単剤での発現割合より低かった.以上より,アイミクス®配合錠はIRBまたはAMLの単剤投与で効果不十分な患者の新たな治療選択肢として有用であると考える.また,腎保護作用を有するIRBと脳・心保護作用を有するAMLとの配合錠であることから,多面的な効果も期待でき,降圧治療に寄与できるものと考える.
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