日本薬理学雑誌
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特集 生体機能の多階層的理解と創薬研究への応用
無機リン酸イオン恒常性維持機構:腎臓と多臓器連関制御
辰巳 佐和子宮本 賢一
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2016 年 147 巻 2 号 p. 84-88

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抄録

無機リン酸(Pi)は生体にとって必須のイオンであり,エネルギーの中間代謝,糖,タンパク質,脂質,核酸代謝,酵素活性の調節,細胞内シグナル伝達,骨格形成の基質など多数の生理機能を有している.血中リン濃度は,おもに腸管吸収,骨代謝(骨形成・吸収),腎臓における排泄と再吸収により維持されている.腎臓からの再吸収能は,リン恒常性維持に重要な役割を果たしているため,その調節は生体内リン恒常性維持の中核と考えられている.これまでの研究から,腎臓尿細管におけるリン再吸収・排泄を制御する巧妙な調節系が存在し,複数の臓器と相互作用していることが分かってきた.とくに,慢性腎臓病(CKD)では,骨と腎臓を結ぶリン代謝系に異常が観察され,CKD早期から骨細胞における線維芽細胞様増殖因子23(FGF23)の発現は亢進し,リン過剰を呈していることが報告されている.また古くより,肝臓がん患者や生体肝移植のドナーに肝臓切除手術を施すと,術後急激に,腎臓によるリン排泄亢進に起因して低リン血症を呈することが知られていた.最近,これらの原因が検討され,肝臓と腎臓を結ぶリン代謝系が明らかにされた.肝臓切除後の尿中リン排泄亢進の原因は,何らかの因子によるNamptの活性化を介した腎臓内ニコチンアミド代謝促進である可能性がわかった.本稿では,新しいリン調節経路を加えて,腎臓を中心とした多臓器にわたるリン恒常性維持機構について概説する.

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