日本薬理学雑誌
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特集 活性イオウ含有分子による代謝シグナル制御
活性イオウ分子による細胞毒性の調節機構
居原 秀
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2016 年 147 巻 5 号 p. 290-293

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抄録

システインなどのチオール基に過剰のイオウ原子が付加したパースルフィド(R-SSH)は,高い求核性をもち反応性に富んだ〝活性イオウ分子〟である.活性イオウ分子は,ユニークな化学特性を持ち,強力な抗酸化能,親電子シグナル制御活性を有することが知られている.酸素に由来する活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)やメチル水銀など環境中の親電子性物質は,生体分子の求核置換基に共有結合することにより非特異的な分子損傷をもたらし,最終的に細胞毒性を引き起こす.また,レドックスセンサータンパク質のレドックスアクティブなシステイン残基のチオール基を親電子修飾することにより,親電子シグナルを活性化させ,細胞毒性が惹起される機構も報告されている.最近の研究で,このような親電子性物質に起因した細胞毒性が,活性イオウ分子により調節されていることが明らかになってきている.活性イオウ分子は,高い求核性を持つので,効率よくROSの親電子性は消去することによってROS毒性を軽減する.また,活性イオウ分子は,メチル水銀などの親電子性毒物とイオウ付加反応,二量体形成反応することで,毒物の親電子性を減弱させ解毒している.さらに,活性イオウ分子は,8-ニトロ-cGMPのような内在性の親電子性セカンドメッセンジャーと反応し,イオウ付加体(8-メルカプト-cGMP)を形成することによって親電子シグナルを調節し,その下流にある細胞毒性の制御を行っている.

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