2016 年 148 巻 4 号 p. 180-184
抗うつ薬としてセロトニン再取込み阻害薬(SSRI)が多く使われているが,治療効果は十分とは言えない.治療効果を改善するためには,うつ病の病態と抗うつ薬の作用機序について理解を深める必要がある.抗うつ薬の標的脳部位の1つとして,海馬歯状回が注目されている.海馬歯状回では,抗うつ薬により脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現が増加し,シナプスの可塑的な変化を起こして神経回路の機能異常を改善する.また,抗うつ薬は神経新生を促進する.最近では,抗うつ薬は成熟顆粒細胞に作用して,興奮性を高めると同時に,成熟マーカー遺伝子の発現を抑制することが知られている.そこで,SSRIであるフルオキセチンの慢性投与により神経伝達が亢進している海馬歯状回の貫通線維-顆粒細胞シナプスの形態を,電顕レベルの解像度で詳細に検討した.具体的には,集束イオンビーム/走査型電子顕微鏡(FIB/SEM)を用いて連続電顕画像を取得してシナプス構造を3D電顕画像として再構築し,形態解析を行った.その結果,フルオキセチン慢性投与により極端に大きなスパイン(顆粒細胞樹状突起)が出現し,大きなスパインのシナプス後肥厚(PSD)も増大していた.また,大きなスパインには大きな神経終末ボタン(貫通線維)が接触しており,大きな神経終末ボタンには大きなミトコンドリアと多くのシナプス小胞が含まれていた.大きな貫通線維-顆粒細胞シナプスはシナプス伝達を促進するシナプス前およびシナプス後の構造を伴っており,神経伝達を促進する可塑的変化を反映すると考えられた.このシナプス形態変化には,抗うつ薬により発現が調節される遺伝子,特にBDNFなどの液性因子の関与が大きいと考えられるが,現時点では責任分子は明らかではない.また,樹状突起のスパイン,貫通線維の神経終末ボタンにおいて,全てのスパインや神経終末ボタンが大きくなったわけではなく,抗うつ薬が限局したシナプスにおいてシナプス形態と可塑性を調節する分子メカニズムの解明が今後の課題である.