2016 年 148 巻 4 号 p. 197-204
ゼルボラフ®錠240 mgは,F. Hoffmann-La Roche社(以下Roche社)及びPlexxikon Inc.が共同開発した,V600遺伝子変異を有するBRAF(BRAF V600)キナーゼを選択的に阻害することにより抗腫瘍効果を発揮するベムラフェニブを有効成分とするフィルムコーティング剤である.BRAFの600番目のアミノ酸残基バリン(V600)のコドンに変異が生じているがん細胞の場合,BRAFキナーゼは恒常的に活性化されており,その下流に位置するMEK及びERKを恒常的に活性化させると推定される.そのため,MEK及びERKを介した下流のシグナル伝達制御に異常が生じ,細胞に異常な増殖と長期生存を引き起こすと考えられている.ベムラフェニブはBRAF V600キナーゼを強力かつ選択的に阻害することにより,がん細胞の増殖抑制や細胞死を誘導し抗腫瘍効果を発揮することから,BRAFV600遺伝子変異を有する悪性黒色腫に対する治療薬として開発された.化学療法歴のないBRAFV600遺伝子変異を有する根治切除不能なⅢ期/Ⅳ期の悪性黒色腫患者を対象とした海外第Ⅲ相臨床試験(NO25026試験)において,ベムラフェニブは対照薬群に対し全生存期間及び無増悪生存期間を有意に延長し,奏効率にも有意差が認められた.また,化学療法歴のあるBRAFV600遺伝子変異を有する根治切除不能なⅣ期の悪性黒色腫患者を対象とした海外第Ⅱ相臨床試験(NP22657試験)及び海外第Ⅰ相臨床試験(PLX06-02試験)のBRAFV600遺伝子変異を有する転移性悪性黒色腫患者を対象としたExtensionコホートでも,ベムラフェニブの有効性を示唆する結果が得られている.さらに,これらの臨床試験において,ベムラフェニブの忍容性も確認された.また,国内で実施されたBRAFV600遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫患者を対象とした第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験(JO28178試験)の結果から,日本人における有効性及び忍容性も確認されている.海外臨床試験の成績に基づき,Roche社は2011年4月に米国における承認申請を行い,2011年8月にBRAFV600E遺伝子変異を有する根治切除不能又は再発悪性黒色腫に対する治療薬として承認を取得した.また,EU諸国では2012年2月にBRAFV600遺伝子変異を有する根治切除不能又は再発悪性黒色腫に対する治療薬として承認され,2014年9月現在,米国,EU,オーストラリアをはじめ86の国又は地域で承認されている.本邦では,2014年12月に「BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫」の効能・効果で承認された.