日本薬理学雑誌
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特集:医薬品評価に活用できる新しいアレルギー疾患モデル
食物アレルギー腸炎モデルマウスを用いた評価系の構築
足立(中嶋) はるよ
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2017 年 150 巻 2 号 p. 72-77

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抄録

現在,食物アレルギーの発症機構は従来の考え方が変化し,食物アレルゲンは消化器以外にも皮膚から体内への侵入により感作が成立し発症の原因となる場合があると考えられている.治療法も従来の原因食品の除去からむしろ,アレルゲンを食べる・触れることで積極的に抑制性のT細胞を誘導する方法(経口・経皮免疫療法)が注目される.一方,アレルゲンを用いた治療法では副作用としてアレルギー反応の誘導が懸念される.そこで,T細胞がアレルゲン特異的な食物アレルギーの発症制御に重要な役割を果たすことから,T細胞の活性化と反応抑制を主軸とする炎症から抑制に至る機構の解明は急務である.また,食物アレルギーでは,アレルゲンが全身を循環し局所および全身性に炎症を起こすと同時に寛容状態も誘導され,非常に複雑な免疫応答が起きる.そこで,我々はこの複雑な免疫応答の全容の解明を目的とし,より臨床に即したモデルの開発を目指した.その結果,主要な食物アレルゲンである卵白中のオボアルブミン(OVA)を食べただけで血中特異的IgE抗体価が上昇し腸炎を発症するモデルマウスの構築に成功した.このマウスの炎症はTh2型OVA特異的T細胞の活性化に起因するが,その後OVAの経口投与を持続するとT細胞応答が抑制され腸炎を克服するという,食物アレルギーの患者の病態に即したモデルマウスである.我々はこのマウスの特質を利用して臓器の欠損マウスを作成し,各臓器の免疫応答のネットワークを視野に入れ腸管免疫系と全身性の臓器の役割の違いを明らかにした.さらに,腸炎形成時の皮膚炎の誘導に成功し,少なくともアレルゲンで感作された個体では炎症性細胞が循環し,全身性に炎症を起こせる可能性があることを示した.以上より,このマウスはアレルギーを誘導する臓器間の応答のネットワークとともに,薬剤や投与するアレルゲンの寛容誘導の効果の厳密な評価に有効に機能するマウスである.

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