日本薬理学雑誌
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150 巻 , 2 号
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特集:医薬品評価に活用できる新しいアレルギー疾患モデル
  • 東福寺 聡一, 石田 暁, 形山 和史
    2017 年 150 巻 2 号 p. 68-71
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

    日本における花粉症の患者数は,およそ30%に上ると推定され,近年急速に増加している.唯一の根治療法としてアレルゲン免疫療法が国内でも注目されており,特に侵襲性の低い投与ルートで実施できる舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)が期待されているが,本治療法の普及や適正使用に向けて解決すべき課題も残されている.例えば,その作用メカニズムが十分に解明されていないこと,投与する抗原用量・治療期間と薬効強度にどのような関係性があるのか情報が少ないこと,或いは治療効果を予測・モニタリングできるバイオマーカーが同定されていないこと等である.そこで我々は,これらの解決を目指して,SLITの治療効果を評価することができ,尚且つ,バイオマーカーの探索やメカニズム解明を目的とした研究に有用な新規のスギ花粉症モデルマウスの構築を試みた.スギ花粉粗抽出物(Japanese cedar pollen extract:JC)の経鼻感作と連日暴露により鼻炎症状を誘発し,5週間の間隔を開けてJCの暴露を繰り返すことで,毎年春に繰り返すヒトのスギ花粉症を模したモデルを作製した.また,鼻炎発症後にスギ花粉によるSLIT(JC-SLIT)を行い,その治療効果及びJC-SLIT終了後の薬効持続を評価した.その結果,JC-SLIT群はコントロール群と比較して鼻炎症状が強く抑制され,本モデルでJC-SLITの薬効評価が可能であることを示した.さらにJC-SLIT終了から約2ヵ月後でもその薬効は持続し,JC-SLITが従来の対症療法薬では認められない寛解維持作用を有することを確認した.臨床で観察される薬物療法の特長を反映した本モデルは,SLITの研究に有用であると考えられた.

  • 足立(中嶋) はるよ
    2017 年 150 巻 2 号 p. 72-77
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

    現在,食物アレルギーの発症機構は従来の考え方が変化し,食物アレルゲンは消化器以外にも皮膚から体内への侵入により感作が成立し発症の原因となる場合があると考えられている.治療法も従来の原因食品の除去からむしろ,アレルゲンを食べる・触れることで積極的に抑制性のT細胞を誘導する方法(経口・経皮免疫療法)が注目される.一方,アレルゲンを用いた治療法では副作用としてアレルギー反応の誘導が懸念される.そこで,T細胞がアレルゲン特異的な食物アレルギーの発症制御に重要な役割を果たすことから,T細胞の活性化と反応抑制を主軸とする炎症から抑制に至る機構の解明は急務である.また,食物アレルギーでは,アレルゲンが全身を循環し局所および全身性に炎症を起こすと同時に寛容状態も誘導され,非常に複雑な免疫応答が起きる.そこで,我々はこの複雑な免疫応答の全容の解明を目的とし,より臨床に即したモデルの開発を目指した.その結果,主要な食物アレルゲンである卵白中のオボアルブミン(OVA)を食べただけで血中特異的IgE抗体価が上昇し腸炎を発症するモデルマウスの構築に成功した.このマウスの炎症はTh2型OVA特異的T細胞の活性化に起因するが,その後OVAの経口投与を持続するとT細胞応答が抑制され腸炎を克服するという,食物アレルギーの患者の病態に即したモデルマウスである.我々はこのマウスの特質を利用して臓器の欠損マウスを作成し,各臓器の免疫応答のネットワークを視野に入れ腸管免疫系と全身性の臓器の役割の違いを明らかにした.さらに,腸炎形成時の皮膚炎の誘導に成功し,少なくともアレルゲンで感作された個体では炎症性細胞が循環し,全身性に炎症を起こせる可能性があることを示した.以上より,このマウスはアレルギーを誘導する臓器間の応答のネットワークとともに,薬剤や投与するアレルゲンの寛容誘導の効果の厳密な評価に有効に機能するマウスである.

  • 奈邉 健, 水谷 暢明, 松田 将也
    2017 年 150 巻 2 号 p. 78-82
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

    IL-33は,気道に抗原が暴露されることにより,気道上皮細胞やマクロファージ,樹状細胞などの免疫系の細胞より産生され,肥満細胞,Th2細胞のみならず2型自然リンパ球(type 2 innate lymphoid cells:ILC2)の細胞膜上にあるIL-33受容体ST2に結合し,これらの細胞を活性化して,Th2サイトカインIL-5およびIL-13を産生する.したがって,IL-33はTh2型炎症(2型炎症)反応を促進し,アレルギー性気道炎症の病態を増強する分子であると考えられている.一方,アレルギー反応を抑制するとされる制御性T細胞(Treg)もST2を発現し,アレルギー性気道炎症に影響を及ぼすとされる.また,IL-33の作用はステロイド抵抗性喘息の病態に関わる可能性も示唆されている.一方,気道アレルギー反応時におけるIL-33産生の機序に関しては明らかではなく,気道に侵入した抗原が抗原特異的にマクロファージや樹状細胞を活性化してIL-33を産生することを示す成績が得られつつある.これらのIL-33の作用や産生の機序の解析は,アレルギー性気道炎症の難治化に歯止めをかける薬物を開発することに繋がると考えられる.

  • 神沼 修, 井上 貴美子, 佐伯 真弓, 形山 和史, 森 晶夫, 小倉 淳郎
    2017 年 150 巻 2 号 p. 83-87
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

    CD4陽性T細胞は,アレルギー性炎症の発症に重要な役割を担う.感作マウスの抗原誘発アレルギー性気道炎症モデルにおける,マスト細胞欠損マウスの利用やCD4陽性T細胞除去実験によって,その病態がCD4陽性T細胞に大部分依存していることを示した.さらに,抗原特異的CD4陽性T細胞を正常マウスに移入して抗原暴露することで,様々な臓器にアレルギー性炎症を誘導できた.このようなT細胞依存性のアレルギー性免疫応答を簡便かつ迅速に解析できるモデル構築を目的として,抗原特異的CD4陽性T細胞を由来とするクローンマウスの作出を試みた.種々抗原で感作したマウスより得たCD4陽性T細胞を,短期間in vitro刺激培養したドナー細胞の核移植を行ったところ,さまざまなクローンマウスが誕生した.その再構成T細胞受容体(TCR)α/β鎖を同定し,genotyping法を構築した.多くのクローンマウスのCD4陽性T細胞は,感作抗原に反応して増殖した.その後,さまざまなT細胞サブセットへ分化したことから,再構成TCRの違いによって異なる免疫応答が誘導されることが示唆された.In vitroでの抗原反応性には,核移植ドナーT細胞由来の再構成TCRα/β鎖の両者が必要であった.野生型マウスに十回以上ダニ抗原を経気道的に反復暴露しても,殆ど気道炎症は惹起されないのに対し,ダニ抗原特異的CD4陽性T細胞から作出したクローンマウスでは,僅か数回の暴露によって,強い気道内炎症細胞浸潤と気道過敏性亢進がみられた.また興味深いことに,再構成TCRαまたはβ鎖の片方だけを発現するマウスでも,気道炎症は亢進した.ドナーCD4陽性T細胞の抗原特異的TCRを発現するクローンマウスの作出に成功した.本マウスを用いて,アレルギー性炎症病態を短期間に解析できることから,各種アレルギー疾患モデル,薬物評価への応用が期待される.

総説
  • 西村 有平
    2017 年 150 巻 2 号 p. 88-91
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

    新たに承認される薬の数は,開発コストあたりに換算すると過去数十年間に渡り減少し続けている.この課題の解決に向けたアプローチのひとつとして,ゼブラフィッシュを創薬に導入する機運が高まっている.ゼブラフィッシュは,ヒトへの外挿性,組織の複雑性,化合物スクリーニングの簡便性・高速性の三軸において比較的優れたバランスを持つモデル動物であり,産学官ともに創薬ツールとして利用される機会が増えている.本総説では,ゼブラフィッシュの表現型を指標とするin vivoスクリーニングを基軸とする創薬と,データベースなどを利用したin silicoスクリーニングとゼブラフィッシュの統合的利用を基軸とする創薬,という二種類のアプローチを用いた神経疾患治療薬の開発について概説する.また,ゼブラフィッシュを用いて発見された疾患治療薬が臨床に進んでいる具体例を提示する.今後,ゼブラフィッシュを用いた創薬研究の発展に伴い,ゼブラフィッシュで発見される疾患治療薬が臨床において真に有用である割合が明らかにされ,トランスレーショナルリサーチツールとしてのゼブラフィッシュの意義が確立されていくことが期待される.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(16)
  • 岡本 浩一
    2017 年 150 巻 2 号 p. 92-97
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

    現在,吸入療法には,気管支喘息もしくは慢性閉塞性肺疾患などを対象とした局所作用薬が用いられている.吸入剤には,吸入液剤,吸入エアゾール剤,吸入粉末剤がある.吸入液剤はネブライザを用いて生じる微細な液滴を吸入するので,乳幼児から高齢者まで使用できるが液の無駄が多い.吸入エアゾール剤は1950年代から広く使われてきたが,環境問題がある.吸入粉末剤は環境にやさしく吸入の失敗が少ないが,高度な粒子設計と使いやすい吸入デバイスの開発が必要である.肺は全身作用薬の吸収部位としての利点を多く備えており,消化管吸収が困難なペプチド性医薬の吸入剤化研究が進められている.しかし,2006年に米国と欧州で承認されたインスリン吸入粉末剤は,売り上げが伸びず翌年には製造中止となった.2014年に米国で承認された新しい粉末剤も売り上げが伸び悩んでいる.今後肺局所疾患を対象とした抗体医薬や核酸医薬の開発が期待される.

新薬紹介総説
  • 原田 一恒, 井上 敦人, 山内 昭典, 藤井 章史
    2017 年 150 巻 2 号 p. 98-113
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

    エテルカルセチド塩酸塩(以下,エテルカルセチド)は,カルシウム感知受容体(CaSR)作動薬としては世界初の静注製剤であり,二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)の新規治療薬である.透析終了時の返血時に透析回路静脈側から医師の管理下で確実に投薬できることから,コンプライアンスの向上や患者の服薬負担の軽減に繋がる.また,代謝酵素による影響をほとんど受けず,薬物相互作用のリスクが低い.エテルカルセチドは,活性に寄与する7つのD体アミノ酸配列(D体アミノ酸ペプチド骨格)及びそのN末端のD体のシステイン(Cys)にL体のCysがジスルフィド結合したアミノ酸配列で構成されている.エテルカルセチドのD体アミノ酸ペプチド骨格が,副甲状腺に存在するCaSRに結合することで,アロステリック効果により細胞外Caのシグナルを増強し,PTH分泌を抑制する.活性に寄与するD体アミノ酸ペプチド骨格は生体内で代謝を受けず,透析患者においては次透析時に除去されるまで血中濃度が安定し,持続的な効果が期待できる.薬効薬理試験では,in vitroにおけるCaSR作動活性及びPTH分泌抑制作用が確認されている.エテルカルセチドは,CaSRに特徴的なアミノ酸配列である482番目のCysに結合することから,CaSRへの選択性が高い.In vivoでは,SHPT病態を発症させた慢性腎障害モデルラットにおいて,血中PTH低下作用に加えて,SHPTで併発する諸症状(副甲状腺過形成,骨障害及び異所性石灰化)の抑制作用が確認されている.エテルカルセチドは,国内外の臨床試験において血液透析下のSHPT患者に対する有効性及び安全性が確認されており,SHPT治療における新たな選択肢となることが期待される.国内では2016年12月,海外では欧州で2016年11月,米国で2017年2月に製造販売承認を取得しており,日米欧でほぼ同時期に使用が可能になった.今後,エテルカルセチドが臨床で広く使用され,エビデンスが蓄積されていくとともに,SHPT患者治療に福音をもたらすことが期待される.

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