日本薬理学雑誌
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特集:心脈管作動物質研究の新潮流
伸展刺激に対する血管平滑筋細胞応答と大動脈解離予防の治療標的
吉栖 正典趙 晶京谷 陽司
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2018 年 151 巻 4 号 p. 155-159

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抄録

急性大動脈解離は,突然の激痛で発症する致死率の高い疾患でありその対策は急務である.大動脈解離の発症には,血圧の急上昇が誘因になっている可能性がある.しかし,その詳細な分子機構はいまだ明らかにされておらず,降圧薬以外の有効な予防薬・治療薬は開発されていない.動脈解離の発症機構として,我々は「大動脈壁の中膜を構成する血管平滑筋細胞に対する急激な伸展負荷が,細胞死を招いて大動脈解離を引き起こすのではないか?」という仮説を立てて研究を行った.シリコンチャンバー上で培養したラット大動脈平滑筋細胞(RASMC)に急激な血圧上昇に相当する伸展負荷をかけたところ,時間依存的な細胞死が観察された.カルシウム拮抗薬のアゼルニジピンや,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬のオルメサルタンの添加によって,伸展負荷によるRASMC細胞死が抑制された.伸展負荷によってRASMCのJNKやp38などのMAPキナーゼが活性化されたが,これらもアゼルニジピンやオルメサルタンの添加によって抑制されたことから,RASMC細胞死にJNKやp38が関与していることが示唆された.伸展負荷によるRASMC細胞死の分子メカニズムを探求するため,cDNAマイクロアレイ解析を行った.その結果,炎症などに関与するケモカイン(Cxcl1,Cx3cl1)の遺伝子発現が血管平滑筋細胞への伸展負荷により上昇することを発見した.大動脈縮窄マウスモデルでもCxcl1遺伝子とタンパク質の発現が増加していた.また,ケモカイン受容体阻害薬の添加によって伸展負荷によるRASMC細胞死が増加したことから,ケモカインは細胞死に対して抑制的に作用している可能性が示唆された.伸展負荷による血管平滑筋細胞死の分子機構の探索から,JNK,p38などのMAPキナーゼやある種のケモカインなどが大動脈解離の予防や治療の標的になりうる可能性が示された.

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