日本薬理学雑誌
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151 巻, 4 号
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特集:心脈管作動物質研究の新潮流
  • 堀之内 孝広, 真崎 雄一, 寺田 晃士, 三輪 聡一
    2018 年 151 巻 4 号 p. 140-147
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/07
    ジャーナル フリー

    インスリン抵抗性とは,骨格筋,脂肪細胞,肝臓などで,インスリンに対する感受性が低下した病態を指す.インスリン抵抗性では,インスリンによる正常なグルコース(糖)代謝が障害されているため,2型糖尿病の発症につながる.近年,社会の高齢化や都市化に伴う食生活の変化や運動量の減少によって,2型糖尿病患者が急増していることから,インスリン抵抗性の病態基盤の解明は,焦眉の課題となっている.グルコースは,脳,骨格筋,脂肪,内臓などで代謝・利用されているが,全身のグルコース利用に対する各組織の寄与率は大きく異なる.健常者の骨格筋におけるグルコース利用率は,全身の70%を占めているが,2型糖尿病患者では,骨格筋におけるグルコース利用率が特異的に半減している.このことは,骨格筋におけるインスリン抵抗性が2型糖尿病の発症に関与している可能性を示唆している.血管収縮性・炎症性ペプチドであるエンドセリン-1(ET-1)は,インスリン抵抗性を惹起することが報告されているが,その詳細な発症機序は不明である.本研究では,ラットL6筋管細胞を用いて,インスリンシグナルに対するET-1の作用を薬理学的に解析した.L6筋管細胞において,インスリンは,PI3キナーゼの活性化を介して,Aktのリン酸化とグルコースの取り込みを促進した.ET-1は,インスリンによるAktリン酸化とグルコース取り込みを抑制し,このET-1の抑制作用は,選択的エンドセリンA型受容体(ETAR)遮断薬や選択的Gq/11タンパク質阻害薬の前処理及びsiRNAによる内在性Gタンパク質共役型受容体キナーゼ2(GRK2)の発現抑制によって解除された.また,ET-1は,AktとGRK2との相互作用を増強した.以上の結果から,L6筋管細胞において,ETAR及びGRK2が,ET-1によるインスリンシグナルの抑制に関与していると考えられた.

  • 喜名 美香, 坂梨 まゆ子, 新崎 章, 筒井 正人
    2018 年 151 巻 4 号 p. 148-154
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/07
    ジャーナル フリー

    一酸化窒素(NO)はL-arginineからNO合成酵素(NOSs)を介して産生されが,最近,その代謝産物である亜硝酸塩(NO2)および硝酸塩(NO3)からNOが産生される経路が発見された.レタスやホウレン草などの緑葉野菜には硝酸塩が多く含有されている.しかし,硝酸塩/亜硝酸塩(NOx)の不足が病気を引き起こすか否かは知られていない.本研究では,『食事性NOxの不足は代謝症候群を引き起こす』という仮説をマウスにおいて検証した.私達は過去に,NOSs完全欠損マウスの血漿NOxレベルは野生型マウスに比して10%以下に著明に低下していることを報告した.この結果から,生体のNO産生は主として内在するNOSsによって調節されていること,外因性NO産生系の寄与は小さいことが示唆されたが,低NOx食を野生型マウスに長期投与すると意外なことに血漿NOxレベルは通常食に比して30%以下に著明に低下した.この機序を検討したところ,低NOx食負荷マウスでは内臓脂肪組織のeNOS発現レベルが有意に低下していた.重要なことに,低NOx食の3ヵ月投与は,内臓脂肪蓄積,高脂血症,耐糖能異常を引き起こし,低NOx食の18ヵ月投与は,体重増加,高血圧,インスリン抵抗性,内皮機能不全を招き,低NOx食の22ヵ月投与は,急性心筋梗塞死を含む有意な心血管死を誘発した.低NOx食負荷マウスでは内臓脂肪組織におけるPPARγ,AMPK,adiponectinレベルの低下および腸内細菌叢の異常が認められた.以上,本研究では,食事性NOxの不足がマウスに代謝症候群,血管不全,および心臓突然死を引き起こすことを明らかにした.この機序には,PPARγ/AMPKを介したadiponectinレベルの低下,eNOS発現低下,並びに腸内細菌叢の異常が関与していることが示唆された.

  • 吉栖 正典, 趙 晶, 京谷 陽司
    2018 年 151 巻 4 号 p. 155-159
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/07
    ジャーナル フリー

    急性大動脈解離は,突然の激痛で発症する致死率の高い疾患でありその対策は急務である.大動脈解離の発症には,血圧の急上昇が誘因になっている可能性がある.しかし,その詳細な分子機構はいまだ明らかにされておらず,降圧薬以外の有効な予防薬・治療薬は開発されていない.動脈解離の発症機構として,我々は「大動脈壁の中膜を構成する血管平滑筋細胞に対する急激な伸展負荷が,細胞死を招いて大動脈解離を引き起こすのではないか?」という仮説を立てて研究を行った.シリコンチャンバー上で培養したラット大動脈平滑筋細胞(RASMC)に急激な血圧上昇に相当する伸展負荷をかけたところ,時間依存的な細胞死が観察された.カルシウム拮抗薬のアゼルニジピンや,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬のオルメサルタンの添加によって,伸展負荷によるRASMC細胞死が抑制された.伸展負荷によってRASMCのJNKやp38などのMAPキナーゼが活性化されたが,これらもアゼルニジピンやオルメサルタンの添加によって抑制されたことから,RASMC細胞死にJNKやp38が関与していることが示唆された.伸展負荷によるRASMC細胞死の分子メカニズムを探求するため,cDNAマイクロアレイ解析を行った.その結果,炎症などに関与するケモカイン(Cxcl1,Cx3cl1)の遺伝子発現が血管平滑筋細胞への伸展負荷により上昇することを発見した.大動脈縮窄マウスモデルでもCxcl1遺伝子とタンパク質の発現が増加していた.また,ケモカイン受容体阻害薬の添加によって伸展負荷によるRASMC細胞死が増加したことから,ケモカインは細胞死に対して抑制的に作用している可能性が示唆された.伸展負荷による血管平滑筋細胞死の分子機構の探索から,JNK,p38などのMAPキナーゼやある種のケモカインなどが大動脈解離の予防や治療の標的になりうる可能性が示された.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(21)
  • 伊藤 亮治
    2018 年 151 巻 4 号 p. 160-165
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/07
    ジャーナル フリー

    ヒト細胞や組織が高効率で生着し,部分的にヒトの生体を模倣できるヒト化マウスは,昨今の医学研究において重要なツールとして位置付けられている.2000年以降NOGマウスの樹立を皮切りに,BRG,NSGマウスといった複合型重度免疫不全マウスが開発され,従来の免疫不全マウスに比べて多種多様なヒト細胞,組織を効率よく生着させることが可能となった.特に,ヒト造血幹細胞を移植したヒト免疫系マウスは,マウス血球の半数近くがヒト血球に置換され,骨髄や脾臓では実に6~9割程度のヒト細胞が生着する.近年これらヒト化マウスを用いて,いくつかのヒト病態を再現したヒト免疫疾患モデルの構築が可能となり,創薬研究における新たな前臨床評価系としての期待が高まっている.本稿では,ヒト化マウスの概要から次世代型NOGマウスの開発,さらにこれらを応用したヒト疾患モデルと創薬研究への応用について紹介する.

新薬紹介総説
  • 町田 美智子, 福永 慎一, 原 隆人
    2018 年 151 巻 4 号 p. 166-178
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/04/07
    ジャーナル フリー

    イキサゾミブ(ニンラーロ®カプセル)は,Millennium社(Takeda Oncology Company)により創製された経口の低分子20Sプロテアソーム阻害薬である.ユビキチン・プロテアソーム系は,タンパク質の恒常性を保つ主要な調節系であり,細胞がタンパク質(増殖制御,細胞周期調節及びアポトーシスに関与するタンパク質など)を分解する重要な機構である.イキサゾミブは,20Sプロテアソームのβ5サブユニットに選択的かつ可逆的に結合して,そのキモトリプシン様活性を阻害することで腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する.1~3レジメンの前治療歴を有する再発又は難治性の多発性骨髄腫患者を対象とした国際共同第Ⅲ相二重盲検比較試験(TOURMALINE-MM1試験)において,レナリドミド及びデキサメタゾンの併用群(Rd群)とイキサゾミブを上乗せした併用群(IRd群)での比較検討が行われ,主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は,IRd群で20.6ヵ月,Rd群で14.7ヵ月であり(ハザード比:0.742,P=0.012,層別ログランク検定),IRd群においてPFSの有意な延長が認められた(2014年10月30日データカットオフ).米国では2015年11月に,欧州では2016年11月に,「レナリドミド及びデキサメタゾンと併用し,少なくとも1つの前治療を受けた多発性骨髄腫患者の治療」の適応で承認されている.国内では「再発又は難治性の多発性骨髄腫」の効能・効果で,2017年3月に製造販売承認を取得した.今後,多発性骨髄腫治療の経口のプロテアソーム阻害薬として有用性と利便性を備えた選択肢として医療現場での貢献が期待される.

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