2018 年 152 巻 1 号 p. 28-32
神経細胞の活動を分析するための技術として,今なお電気生理学的手法が広く用いられている.特に,脳機能を評価するためには,一つ一つの神経細胞の機能を評価することも大事だが,神経を〝回路レベル〟で評価することが重要である.同様に,中枢神経作用薬の薬理効果においても,個々の神経細胞における電位変化の測定や分子動態の解明も必要だが,脳全体における作用機序,すなわち神経回路に対する作用を考えることが大切である.そこで本稿では,神経回路を評価するin vivo電気生理学的手法の手技の一つであるjuxtacellular recording法と,それを用いた薬理作用機序の解明を紹介する.Juxtacellular recording法は,whole brainにおける単一神経細胞の膜電位記録と記録細胞の化学標識を可能とする実験技術である.記録された波形を解析することで得られる活動電位パラメータは,細胞の電気生理学的な特徴を提示し,さらにneurobiotinで標識された記録神経細胞を含む脳切片は,免疫染色と組み合わせることでその化学的性質を同定することが可能である.実際にjuxtacellular reconding法を用いて,薬物の作用機序を神経回路レベルで明らかにした例として,黒質網様部を制御する神経回路に対する研究を紹介する.前頭皮質(cerebral cortex)から投射を受ける側坐核-淡蒼球外節-視床下核-黒質網様部(cerebral cortex-NAcc-GPe-STN-SNr)経路は,①STN-SNr経路(hyperdirect pathway),②NAcc-SNr経路(direct pathway),③NAcc-GPe-STN-SNr経路(indirect pathway)の3つが代表的なものとして挙げられる.Juctacellular recordingによる電気生理学的実験では,これらの神経回路を分離して評価することが可能である.Phosophodiesterase(PDE)4阻害薬ロフルミラストの静脈内投与は,②および③の神経回路には作用するが,一方で①の神経回路経路には影響を与えないことが電気生理学的に明らかとなった.このcerebral cortex-大脳基底核の神経回路は,運動や認知などの脳機能を制御するために重要であることから,PDE4阻害薬がパーキンソン病や注意欠如/多動性障害などに対する新規治療薬の可能性をもつことを示唆している.