日本薬理学雑誌
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特集:中枢神経系の選択的細胞死:機序解明と治療法確立に向けて
網膜変性疾患における選択的神経細胞死
坂本 謙司森 麻美石井 邦雄中原 努
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2018 年 152 巻 2 号 p. 58-63

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抄録

網膜変性疾患は,成人の後天性失明の主要な原因である.例えば,緑内障や網膜色素変性症は,本邦における後天性失明原因のそれぞれ第1位,第2位を占めている.緑内障の治療には主にプロスタグランジンF2α受容体刺激薬やβアドレナリン受容体遮断薬に代表される眼圧降下薬が用いられているが,網膜神経節細胞を直接保護する薬物は実用化されていない.また,網膜色素変性症に関しては,現在のところ有効な治療法は存在しない.緑内障や網膜色素変性症の患者の網膜においては,特定の種類のニューロンのみが脱落していることが明らかとなっている.緑内障の患者の網膜においては,網膜神経節細胞特異的な細胞死が認められる.この網膜神経節細胞死にはグルタミン酸神経興奮毒性が関与している可能性が古くから指摘されている.実際,緑内障の動物モデルとして用いられている網膜虚血・再灌流傷害モデル,NMDA硝子体内投与モデル,NOドナー硝子体内投与モデル,およびグルタミン酸・アスパラギン酸トランスポーター(GLAST)ノックアウトマウスの網膜においては網膜神経節細胞死が認められる.従って,網膜神経節細胞は,グルタミン酸やNOに対して脆弱であり,緑内障や網膜中心動脈閉塞症の発症メカニズムにはこの脆弱性が関与している可能性がある.網膜色素変性症においては,視細胞特異的な細胞死が認められる.網膜色素変性症は,視細胞やその生存に重要な役割を果たしている網膜色素上皮細胞に発現している遺伝子の変異により発症する.遺伝子変異の種類により視細胞死のメカニズムは異なっていると考えられるが,その全容は明らかになっていない.小胞体ストレスを惹起することが知られているツニカマイシンを硝子体内投与すると,視細胞特異的な細胞死を引き起こすことが報告されている.従って,小胞体ストレスは,網膜色素変性症における視細胞死のメカニズムに関与している可能性がある.

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