日本薬理学雑誌
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特集:国内発ファーストインクラスの医薬品創出における薬理学研究の役割
フィルグリペル(GPR119作動薬)創製における薬理学研究の役割
松本 康嗣吉富 智美島田 多堅
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2018 年 152 巻 3 号 p. 119-124

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抄録

GPR119(G-protein coupled receptor 119)は小腸下部,大腸あるいは直腸のL細胞及び膵臓のβ細胞に発現しており,細胞内のcAMP濃度を制御することでGLP-1の分泌,またグルコース応答性のインスリン分泌制御に関与する.GPR119に対するアゴニスト(作動薬)は次世代の抗糖尿病薬として多くの製薬企業で研究が進められ,物質特許出願も盛んに行われた.このような激しい競争の中で創薬を進めるためには,自社化合物が他社とは異なる独自の特徴を有すること,そして医療現場における優位性を提示することが必須である.フィルグリペル(DS-8500a)は第一三共株式会社で創製された経口投与可能なGPR119作動薬である.フィルグリペルは社内化合物ライブラリーを端緒とし,合成展開によって経口吸収性および安全性面等を最適化した開発化合物である.フィルグリペルはヒトGPR119遺伝子を発現させたCHO-K1細胞において,他社化合物よりも高い細胞内cAMP濃度上昇活性(IA:intrinsic activity)を示した.化合物の構造と生理活性の関係を精査した結果,各化合物のIAレベルとアゴニストコンホマーの存在比率との間に相関性を認めた.自社化合物の特徴を見出すための構造-薬理学研究に並行してフィルグリペルの抗糖尿病薬中での将来的なポジショニングを明確化するためにDPP-4(dipeptidyl peptide-4)阻害薬との比較を緩徐に糖尿病病態が進行するNONcNZO10/LtJマウスで行い,また併用効果について膵β細胞傷害を誘起するストレプトゾトシンを投与したC57BL/6Jマウスを用いて検証した.薬理学研究は化合物の価値を具現化し,創薬コンセプトを樹立するために有用であり,製薬企業がファーストインクラスを創出するために欠かすことのできない業務である.

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