日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
152 巻 , 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集:国内発ファーストインクラスの医薬品創出における薬理学研究の役割
  • 松川 純, 稲富 信博, 西田 晴行, 月見 泰博
    2018 年 152 巻 3 号 p. 104-110
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/06
    ジャーナル フリー

    プロトンポンプ阻害薬(PPI)は,哺乳類の胃壁細胞に選択的に局在し,かつ酸分泌の最終段階を担う酵素であるH, K-ATPase(プロトンポンプ)に対して共有結合を形成し,活性を不可逆的に阻害する.PPIは制酸薬やヒスタミンH2受容体拮抗薬などと比較して,優れた臨床効果を示すことから,長期にわたって酸関連疾患治療の第一選択薬として用いられてきた.しかしながら下記のように,臨床上幾つか改善しうる点があることも明らかとなってきた.すなわち,血中半減期が短く,特に夜間の酸分泌抑制が不十分であること,最大効果を発揮するまでに4~5日間の反復投与が必須であること,主として遺伝子多型のあるCYP2C19により代謝を受けるため患者間の血中動態や有効性にばらつきが出ることなどである.これらの点を克服しうる新薬を見出すため,我々は社内のライブラリー化合物を用いてランダムスクリーニングを実施し,さらにリード化合物の最適化合成を実施した.その結果,プロトンポンプを可逆的かつカリウムイオン競合的に阻害する新規胃酸分泌抑制薬,ボノプラザンフマル酸塩の合成に成功した.ボノプラザンは,複数の前臨床動物モデルにおいて,PPIであるランソプラゾールと比較して強力かつ持続的な胃酸分泌抑制作用を示した.その作用は本薬の胃壁細胞への高い集積性によって説明できると考えられた.ボノプラザンは臨床試験においてもすみやかな薬理作用の立ち上がりと優れた作用持続を発揮し,びらん性食道炎やヘリコバクターピロリ除菌補助を含む複数の酸関連疾患に対してランソプラゾールと比較して非劣性の有効性を示したことから,2014年に日本国内で承認された.ボノプラザンはその優れた臨床効果により,従来PPIが第一選択であった各種の酸関連疾患に対して新たな治療選択肢を提供しうる薬剤である.

  • 上島 浩二, 鵜飼 政志
    2018 年 152 巻 3 号 p. 111-118
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/06
    ジャーナル フリー

    過活動膀胱とは,尿意切迫感を必須とした症状症候群であり,通常は頻尿と夜間頻尿をともない,切迫性尿失禁は必須ではないと定義されている.過活動膀胱の標準治療薬としてムスカリン受容体拮抗薬がしばしば用いられているが,口内乾燥,便秘といった副作用による服薬中止が問題とされてきた.このような状況から,我々はムスカリン受容体拮抗薬とは作用機序の異なる新規過活動膀胱治療薬がアンメットメディカルニーズを満たすと考えた.膀胱充満時には交感神経活性が高まり,膀胱平滑筋ではβアドレナリン受容体の刺激を介して弛緩することが知られていた.1999年に本邦の3つの研究グループからそれぞれ独立してヒト膀胱平滑筋においてβ3アドレナリン受容体が存在することが報告され,一部の研究グループからはβアドレナリン刺激による膀胱平滑筋弛緩反応において,β3アドレナリン受容体の活性化が主に関与していることが示された.そこで,我々は過活動膀胱治療の新規標的分子として,β3アドレナリン受容体に着目した薬理研究を実施した.選択的β3アドレナリン受容体作動薬であるミラベグロンは,ラット膀胱平滑筋において弛緩作用を示し,麻酔ラットにおいて静止時膀胱内圧を低下させた.また,ラット過活動膀胱モデルにおいて,ミラベグロンは蓄尿機能の改善作用を示した.さらに,臨床効果を予測するためにヒト膀胱組織を用いてin vitro等尺性収縮実験が行われ,ミラベグロンはヒト膀胱平滑筋の弛緩作用を示した.過活動膀胱患者を対象とした臨床試験において,ミラベグロンは優れた有効性と忍容性を示した.これらの薬理研究から得られたエビデンスにより,ミラベグロンがファーストインクラスの過活動膀胱治療薬として世界に先駆けて本邦で承認されたことに貢献した.

  • 松本 康嗣, 吉富 智美, 島田 多堅
    2018 年 152 巻 3 号 p. 119-124
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/06
    ジャーナル フリー

    GPR119(G-protein coupled receptor 119)は小腸下部,大腸あるいは直腸のL細胞及び膵臓のβ細胞に発現しており,細胞内のcAMP濃度を制御することでGLP-1の分泌,またグルコース応答性のインスリン分泌制御に関与する.GPR119に対するアゴニスト(作動薬)は次世代の抗糖尿病薬として多くの製薬企業で研究が進められ,物質特許出願も盛んに行われた.このような激しい競争の中で創薬を進めるためには,自社化合物が他社とは異なる独自の特徴を有すること,そして医療現場における優位性を提示することが必須である.フィルグリペル(DS-8500a)は第一三共株式会社で創製された経口投与可能なGPR119作動薬である.フィルグリペルは社内化合物ライブラリーを端緒とし,合成展開によって経口吸収性および安全性面等を最適化した開発化合物である.フィルグリペルはヒトGPR119遺伝子を発現させたCHO-K1細胞において,他社化合物よりも高い細胞内cAMP濃度上昇活性(IA:intrinsic activity)を示した.化合物の構造と生理活性の関係を精査した結果,各化合物のIAレベルとアゴニストコンホマーの存在比率との間に相関性を認めた.自社化合物の特徴を見出すための構造-薬理学研究に並行してフィルグリペルの抗糖尿病薬中での将来的なポジショニングを明確化するためにDPP-4(dipeptidyl peptide-4)阻害薬との比較を緩徐に糖尿病病態が進行するNONcNZO10/LtJマウスで行い,また併用効果について膵β細胞傷害を誘起するストレプトゾトシンを投与したC57BL/6Jマウスを用いて検証した.薬理学研究は化合物の価値を具現化し,創薬コンセプトを樹立するために有用であり,製薬企業がファーストインクラスを創出するために欠かすことのできない業務である.

特集:サルを用いた疾患病態解明および創薬研究の最前線
  • 寳来 直人, 角崎 英志
    2018 年 152 巻 3 号 p. 126-131
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/06
    ジャーナル フリー

    高齢化は世界規模で急速に進展し,本邦においても高齢化率は増加の一途をたどっており,平均寿命と健康寿命の差を短縮することが高齢者のQuality of Life(QOL)の向上並びに社会保障費の削減につながる.健康寿命の延伸には運動機能の維持が重要と考えられており,近年ではロコモティブシンドローム(運動器症候群)の増加が社会問題となっている.運動機能の維持に重要な役割を担っている筋肉は加齢と共に減少し,歩行速度並びに握力の低下など運動機能が低下するとサルコペニアとなる.しかし,筋肉量あるいは筋力を増加させる薬や運動機能を改善する薬は十分ではない.そこで本研究では,筋骨格系領域における創薬支援のため,解剖学的特徴がヒトに類似し,上肢及び下肢の機能分化が進んだサルにおいて,Magnetic Resonance Imaging(MRI)を用いた筋肉量測定方法を検討した.また臨床で一般的に使用されているDual Energy X-ray Absorptiometry(DXA)法と測定精度を比較した.その結果,MRI法ではDXA法と同様に高い同時再現性及び日間再現性が確認された.さらに,摘出した測定対象筋肉の重量とMRI法及びDXA法から得られた結果と相関解析を実施したところ,測定法に関わらず,いずれの測定部位についても高い相関がみられたが,MRI法の相関係数はDXA法と比較していずれの部位でも高かった.DXA法と比較して精度の高いMRIを用いた筋肉量測定方法が確立されたことにより,筋肉量をターゲットにした創薬の有力なドライバーになることが期待される.

  • 小川 真弥, 夏目 貴弘, 髙松 宏幸
    2018 年 152 巻 3 号 p. 132-138
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/06
    ジャーナル フリー

    変形性膝関節症(knee osteoarthritis:膝OA)は様々な要因により膝関節の軟骨が変性及び消失し,痛みを引き起こす病態である.患者数は増加の一途をたどっているが,発症の根本的な原因解明や手術以外の治療法は確立されていない.そのため様々な作用機序を有する化合物の臨床試験が実施されたが,臨床での有効性の問題あるいは副作用の問題から新規医薬品の創出には至っていない.これは,げっ歯類モデルでは臨床での有効性を予測することは困難であることを意味している.病態モデルは「ヒトの病態に類似している」ことが重要であり,非ヒト霊長類(non-human primate:NHP)は生物学的及び構造学的にヒトに類似している点で非常に有用である.そこで著者らはNHPを用いた膝OAモデルの作製を試みた.実験には8歳齢の雌性カニクイザル9頭を用い,右膝半月板摘出手術(medial meniscectomy:MMx)を行った.MMx処置後,運動負荷を実施することで膝関節の軟骨をすり減らし,疼痛症状を惹起した.疼痛の評価にはweight bearing test及びknee pressure testを用いた.十分な疼痛症状を示した状態で,ジクロフェナク,アプレピタント,デュロキセチン,モルヒネ,プレガバリンの5つの薬剤について薬効評価を実施した.その結果,ジクロフェナク,デュロキセチン及びモルヒネは有効性が認められ,アプレピタント及びプレガバリンは認められなかった.この結果は臨床での有効性の結果と一致しており,NHPモデルはより臨床予測性の高い病態モデルであると考えられた.

  • 嶋澤 雅光, 原 英彰
    2018 年 152 巻 3 号 p. 139-146
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/06
    ジャーナル フリー

    緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性及び網膜色素変性症などの網膜疾患は主要な失明原因である.しかし,これらの病態の発症及び進展機構は十分解明されておらず,新規な治療薬の開発が望まれている.これまで,これらの網膜疾患の病態解明ならびに新規治療薬の開発のために,マウス及びラットを中心とした齧歯類を用いた多くの実験動物モデルが確立され,使用されてきた.しかし,齧歯類には視覚にとって最も重要な黄斑が存在しないなど網膜・視神経の組織構造がヒトと大きく異なっている.したがって,網膜疾患の病態形成機構がヒトと齧歯類では異なっている可能性が懸念され,さらに齧歯類における薬理効果をそのままヒトに外挿することは難しい.また,近年の医薬品の多くは抗体医薬を含めたバイオ医薬品に占められているが,特に抗ヒト抗体は齧歯類との交差性の問題などから薬効を齧歯類で評価すること自体ができない場合が多い.一方,非ヒト霊長類はヒトと同様に黄斑を有しており,網膜・視神経は解剖学的にヒトに類似している.したがって,アカゲザルやカニクイザルなどが網膜疾患の実験動物モデルとして広く使用されている.本稿では,非ヒト霊長類を用いた網膜疾患モデルの確立及びそれらを用いた創薬アプローチについて,著者らの最新の研究成果を中心に概説する.

新薬紹介総説
  • 大村 剛史, 佐伯 誠治, 荻原 一隆, 飛田 公理, Yan Ling, 鳥居 慎一
    2018 年 152 巻 3 号 p. 147-159
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/06
    ジャーナル フリー

    ヌシネルセン(スピンラザ®)は,脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)患者(survival motor neuronSMN1遺伝子の欠失又は変異を有し,かつSMN2遺伝子のコピー数が1以上であることが確認された患者)の治療に用いる日本初のアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)である.2017年7月3日に乳児型のSMAへの承認取得後,2017年9月22日に乳児型以外のSMAの効能追加が承認された.ヌシネルセンは,エクソン7を含有するSMN2 mRNA産生により完全長の機能性SMNタンパク質産生量を増加させる2'-O-(2-メトキシエチル)(2'-MOE)ASOとして,スクリーニングにより見出された.ヌシネルセンは,SMN2 mRNA前駆体に結合することでスプライシングが修正された成熟mRNAを産生し,完全長のSMNタンパク質翻訳を促すよう設計された完全修飾ASOである.4種のSMA病態モデルマウスへのヌシネルセン投与により,神経筋接合部の形態改善,筋線維の太さの増大,正向反射及び握力の改善,生存期間延長が認められた.臨床でのヌシネルセンの有効性は,発症時期と年齢の異なるSMA患者を対象に,2つの国際共同,無作為化,シャム処置対照,二重盲検試験(ENDEAR試験及びCHERISH試験)で検証され,ヌシネルセンはSMAの病型によらず運動機能を改善又は維持することが示された.さらに両試験に共通して,早期にヌシネルセン投与を開始した方が効果の高いことが示唆された.SMAが疑われる患者に遺伝子検査を行い,SMN1遺伝子の欠失又は変異とコピー数1以上のSMN2遺伝子が確認され,かつヌシネルセンの治療対象として適切と判断された場合,できるだけ早くヌシネルセンによる治療を開始することが,SMAの進行を抑制し,治療効果を最大化する上で望ましいと考えられる.ヌシネルセンはSMA治療に用いる日本初のASOであり,今後,ヌシネルセンが広く使用され,患者の運動機能改善によるQOL向上と介護者及び医療の負担軽減に貢献することが強く期待される.

キーワード解説
feedback
Top