2020 年 155 巻 5 号 p. 284-288
医薬品開発において,毒性や副作用の懸念により医薬品の開発が中止となる場合があるため,医薬品開発における安全性評価は重要な要素の1つである.医薬品開発において,ヒトiPS由来の分化細胞を活用した安全性評価系の確立・標準化を目標とした共同研究を展開するヒトiPS細胞応用安全性コンソーシアム(Consortium for Safety Assessment using Human Cells:CSAHi)では,薬物開発中止の主な原因となっている肝毒性,心臓毒性および神経毒性に着目している.神経毒性では,非臨床試験でてんかん・痙攣が高頻度に発現していること,痙攣は重篤な神経毒性の1つであることから,痙攣の評価系構築を目指している.微小電極アレイ(microelectrode array:MEA)は,神経回路網の電気生理学的活動を非侵襲的に測定できることから痙攣のリスク評価に有用であると考え,MEAシステムを用いて,痙攣化合物を曝露した際のヒトiPS細胞由来神経細胞の電気生理学的反応を評価する試験系を構築している.この評価系においては,MEAで痙攣を検出できる分析方法を確立することが重要であることから,痙攣リスクを検出するための分析法の確立を検討している.我々は,MEAで測定される神経細胞の自然発火から作成したラスタープロットから複数の解析パラメータを算出し,その解析パラメータを用いて主成分分析を行った結果,痙攣誘発陽性化合物と痙攣陰性化合物を分離できることが明らかとなった.また,この算出された複数の解析パラメータを使用した主成分分析およびクラスター分析は,痙攣誘発陽性化合物を作用機序別に分離できることも明らかとなった.以上のことから,ヒトiPS細胞由来神経細胞を使用したMEAシステムによる主成分分析またはクラスター分析は,発作のリスクを評価するだけでなく,作用メカニズムを分類することもできるin vitro評価系であるものと考えられる.