日本薬理学雑誌
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特集:理想的な疼痛コントロールを目指す―オピオイド鎮痛薬の概念を変える最新知見―
オピオイド鎮痛薬臨床使用の現状と問題点
中川 貴之
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2021 年 156 巻 3 号 p. 128-133

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抄録

現在,国内では14種類のオピオイド鎮痛薬成分があり,工夫を凝らした多彩な剤形が揃っている.そのため様々な強度や種類の痛みに対して,また,様々な状態の患者に対して,きめ細やかな対応が可能となっている.2018年,WHOからエビデンスに基づいたがん疼痛治療ガイドラインが発表された.これまで国内のがん疼痛治療ガイドラインや教科書等で掲載されていたWHO方式3段階除痛ラダーが重要視されなくなり,鎮痛薬使用の5原則が4原則になったなど,大幅な改訂もなされている.一方,米国では,慢性疼痛に強オピオイド鎮痛薬が使用可能になったこと,使いやすい剤形が次々と販売されたこと,さらに「痛みの10年」政策の後押しもあり,オピオイド鎮痛薬が米国民の間で溢れかえり容易に入手できる環境に陥った.その結果不正使用や乱用が横行し,いわゆる「オピオイドクライシス」が発生した.日本国内では,麻薬及び向精神薬取締法による厳しい規制や医療保険制度,さらに薬物乱用防止教育の普及などから,そのような状況には陥ってはいないが,最近,オキシコドンTR錠が慢性疼痛にも適応拡大したこともあり,今後,注意が必要である.防止策として必ずしもオピオイド鎮痛薬を使い慣れていない医師や薬剤師に対して,慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の適正使用に関する教育を拡げていく必要がある.一方,コデインなどの鎮咳薬などに対する10代若者による乱用が増加しており,以前からベンゾジアゼピン系薬の不適切使用が横行していることから見ても,日本人は不正薬物に対する拒絶感は強いが,法律の範囲内で入手できる処方薬の乱用にはハードルが低いのかもしれない.これらの問題を根本的に解決するには,依存性のないオピオイド鎮痛薬の開発,あるいは薬物依存や乱用を抑制できる手法の開発が必要である.新たなコンセプトに基づいた安全・安心なオピオイド鎮痛薬が開発されることに期待したい.

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