2021 年 156 巻 4 号 p. 214-219
医薬品開発における心臓安全性については,心筋活動電位再分極相に寄与する心筋イオンチャネルについての薬理学的研究を科学的背景とし,心電図QT間隔延長作用を基に評価されている.ICHガイドラインとして非臨床試験S7Bおよび臨床試験E14が施行された後には,QT延長を所見とする心室細動(TdP)の発生が原因で市場撤退した例はなくなり,QT延長がサロゲートマーカーとしてリスク評価に有用であることが示された.さらに,リスク評価の精度を向上するために,種差,偽陽性などが次の課題であり,ヒト心筋で催不整脈性を解析することの重要性が指摘された.そこで,非臨床試験にヒトiPS細胞技術を用いることに注目が集まり,分化心筋細胞を用いてin vitroで催不整脈作用を検出するプロトコルが国際協調のもと開発された.このプロトコルの基となる多施設間での検証試験では我が国が中心的な役割を果たしたことは特筆に値する.これまで,ヒトiPS細胞技術の利用に際し,培養細胞を用いた薬効/毒性解析のプラットフォームと同時に,分化心筋細胞の特性に関わる品質の評価についても議論してきた.これらの議論は,心筋の分化誘導・維持技術の科学的背景の理解に大きく貢献し,iPS細胞技術という比較的新しい発見の社会実装に大きく貢献したと言える.新たな心毒性・安全性評価におけるヒトiPS細胞技術の利用可能性として,抗がん薬などに代表される医薬品による心不全毒性に対しての評価にも注目が集まっている.催不整脈作用は急性的であるのに対し,心不全は慢性的に進行するため,それぞれの毒性に対して異なるヒトiPS細胞由来分化心筋細胞の品質の基準が求められる可能性もある.本稿では,ヒトiPS細胞由来心筋細胞の機能解析について概説し,力学的機能を長時間経時的にモニターするために行った著者らの技術開発について紹介する.