AMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)は,興奮性神経伝達において中心的な役割を果たす.ポストシナプス膜上において,AMPA受容体の発現量や動態は厳密に制御されており,その変化は記憶・学習と深く関連する.これまでにもAMPA受容体の動態解析を目的としたラベル化・可視化法が報告されてきたが,それぞれの手法において問題点を抱えていた.例えば,遺伝子工学的に蛍光タンパク質を融合する方法では受容体機能への影響が懸念される.また,生化学的な手法である細胞表面ビオチン化法では膜タンパク質が網羅的に修飾されるため,解析時に煩雑な精製ステップが必要である.そのような背景の下,我々は,リガンド指向性化学と名付けられたタンパク質ラベル化法を用いて,神経細胞に内在するAMPA受容体の蛍光ラベル化に成功した.実際に,培養神経細胞や脳スライス切片でのAMPA受容体選択的な蛍光ラベル化を実現したが,蛍光色素ラベルに数時間を要するため,AMPA受容体の詳細な動態解析を行うことは困難であった.それを踏まえて,迅速かつ細胞表層選択的に蛍光色素を標識するため,我々は,リガンド指向性化学と生体直交反応である逆電子要請型ディールズアルダー(IEDDA)反応を組み合わせたリガンド指向性2段階ラベル化法を新たに開発し,長期間に渡るAMPA受容体の動態評価が可能となった.実際に,培養神経細胞において,シナプス膜上においてAMPA受容体の寿命が非常に長いことや,リサイクリングが迅速に起こっていることを明らかにした.リガンド指向性2段階ラベルは,AMPA受容体に限らず,他の受容体にも広く応用可能であるため,受容体動態解析の強力なツールになると期待される.