事故や脳卒中などで脳が損傷を受けた際にリハビリテーションによる処置を施しても後遺症が残ることが多い.近年,脳損傷後の神経回路の修復機構の理解が進み,その修復機構が脳損傷後の機能回復を促進する薬剤の治療ターゲットとなり得る可能性がある.脳損傷後の回復過程において,失われた機能それぞれの機能に関連した脳領域が代償するために神経可塑性が重要な役割を担っていると考えられている.これまでに脳卒中後の機能回復に対する薬剤の有効性がさまざまな動物モデルや臨床試験において,神経可塑性を調節するモノアミン系に作用する薬剤に注目した研究が数多く行われており,さらにはその他のターゲットとしてNMDA受容体やCCR5といったものにも注目が集まっている.最近我々は経験依存的なAMPA受容体のシナプス後膜への移行を促進する薬剤として新規低分子化合物であるedonerpic maleateに注目した.Edonerpic maleateは,セマフォリン3Aの細胞内シグナル分子のCRMP2に結合し,AMPA受容体のシナプス移行を促進してシナプス可塑性を高めることにより,齧歯類および非ヒト霊長類の脳損傷後のリハビリテーション依存的に機能回復を促進させることが明らかになった.現在,edonerpic maleateの効果を脳卒中患者で検証する臨床試験が進行中であるため,動物実験による前臨床試験と臨床試験の両方から適切な薬物標的をさらに解明し,前臨床試験の結果を臨床試験の成功に結びつけていくことが必要と考えられる.