2022 年 157 巻 4 号 p. 265-270
変異原性は発がんの原因となるDNA塩基配列の永続的変化を惹起することから,変異原性を含む遺伝毒性研究はこれまで発がん性のハザード同定を主眼に進められてきた.その背景には,変異原性には閾値は存在しないとの前提があった.一方,遺伝毒性発がん物質にも実際上の閾値の存在は否定できないとの見解もある.近年,遺伝毒性試験から毒性反応曲線の出発点(point of departure:PoD)を求め,用量反応関係からベンチマークドーズ(BMD)法を用いて得られる統計学的な信頼区間下限値BMDL(benchmark dose lower confidence limit)を活用し,遺伝毒性を発がん性リスク評価に応用する試みが検討されている.また,クロマチン構造を規定し緻密な転写制御を担保するエピジェネティック制御の破綻も考慮した新たな視座からの遺伝毒性研究にも注目が集まる.このBMD法とエピジェネティクスの観点からの研究は,遺伝毒性をゲノム不安定性ともいうべき概念に昇華させうるものであり,本総説ではこの両概念について紹介したい.