日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集:腸内細菌と心血管疾患:新たな病態機序
腸内フローラと生活習慣病:高血圧症の新たな病態生理を探る
向田 昌司水野 理介尾崎 博
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 157 巻 5 号 p. 311-315

詳細
抄録

近年,腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)と循環器疾患との関連に関する研究報告が相次いでいる.数多くの研究の中で,高血圧性疾患の患者において腸内細菌叢の変化が認められ高血圧患者の糞便を無菌マウスへ腸内移植することで血圧上昇を引き起こすという報告,加えて,無菌マウス化によって昇圧ホルモンによる血圧上昇や血管障害が有意に軽減されるという報告などが両者を関係付ける大きな根拠となっている.現在,腸内フローラによる高血圧発症メカニズムについての詳細はよく分かっていないが,ディスバイオーシスに伴い腸管での免疫応答が活性化することで血圧調節臓器にも炎症が波及し,結果として血圧上昇の進展に関わっているのではないかという仮説が立てられている.現在我々が注目しているのは,高血圧患者における腸内フローラの変化のひとつとして認められているStreptococcus属の増加である.興味深いことに,高血圧モデルラットの腸内においてもStreptococcus属の顕著な増加が認められ,病態への関与についての検討を行った.一方で,高血圧症において腸管バリア機能の低下によって腸管透過性が亢進するということも明らかとなっている.つまり,「腸管透過性亢進を伴う高血圧症において,Streptococcus属由来をはじめとする特定の腸内細菌群の細菌毒素や代謝産物が血圧調節に関わる血管へ直接作用し,炎症性障害を介して血圧を上昇させているのではないか」との仮説も考えられている.本稿では,循環器疾患の新たな研究標的となりつつある腸内フローラと高血圧病態との関連について概説する.

著者関連情報
© 2022 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top