2022 年 157 巻 5 号 p. 321-324
生体は,多様な器官系から構成されており,それぞれの器官系が特徴的な制御機構を持ち,複雑な生体内応答を示す.脳と心臓,腎臓,肝臓,膵臓,消化管,さらには筋肉といった各臓器間には,巧妙で複雑な制御システムが存在する.健康維持には,臓器間のコミュニケーションによる協調的な相互作用が欠かせない.本総説では,消化器系を中心に置いて,そこから拡がる臓器間ネットワークに関する研究動向について紹介する.まず,代謝系に関する臓器間ネットワークについて紹介し,次いで,消化管を起点とする臓器間ネットワークについて紹介し,続いて,近年最大のトピックの一つである腸内細菌について紹介する.消化管運動を調節する機構は複雑でその詳細は明らかとなっていない.一方で,消化管運動は他の臓器の活動状態により様々な影響を受ける.この臓器間ネットワークによる消化管運動変調に関与する因子を明らかにすることは,消化管運動調節機構を理解するうえで重要な視点となる.腎不全患者では嘔吐,下痢,あるいは便秘などの消化器症状が認められることから,消化管と腎臓の間には相互に密接な連関があるが,これまでに消化管運動機能に影響する機構は明らかになっていなかった.そこで,最後に,腎臓と消化管間の臓器間ネットワークにおける腸内細菌の関与に関する研究成果を紹介する.