2022 年 157 巻 6 号 p. 401-404
超高齢化社会の到来により加齢性神経疾患の克服と根本的治療薬の開発が喫緊の課題である.パーキンソン病やレビー小体型認知症などのレビー小体病では,レビー小体と呼ばれるα-シヌクレイン陽性の細胞内蓄積・凝集体が病理学的特徴として知られる.中枢神経系における原因タンパク質αシヌクレインの細胞内蓄積には,神経細胞への細胞内取込み過程が必須である.脂肪酸結合タンパク質(FABP)のサブタイプFABP3はドパミン神経細胞に高度に発現し,細胞膜カベオラ構造に局在する長鎖型ドパミンD2(D2L)受容体と結合する.著者らはFABP3ノックアウトマウスまたはD2L受容体選択的ノックアウトマウスにおいてαシヌクレインがドパミン神経に取り込まれないことを見出した.次に,αシヌクレインのC末端欠損によりドパミン神経への取込みが低下することを明らかにした.αシヌクレインのC末領域にはFABP3結合部位が存在する.さらにC末ペプチド暴露によりドパミン神経へのαシヌクレイン取込みが減少した.そこで本稿ではこれらの知見に基づき,αシヌクレインのユニークな伝播・取込み機序について,特にFABP3とドパミンD2受容体に着目し,その生理的意義について解説する.さらに加齢性神経疾患における中分子治療薬の開発状況について概説し,レビー小体病の新たな発症機序と原因タンパク質αシヌクレインの取込み過程を標的としたペプチド治療薬の可能性について議論したい.