日本薬理学雑誌
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特集 レビー小体病のバイオマーカー探索と早期予測技術の新展開
レビー小体型認知症と認知症を伴うパーキンソン病,その診断と治療ストラテジー
武田 篤
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2024 年 159 巻 1 号 p. 6-11

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抄録

レビー小体型認知症(DLB)は幻覚や妄想など特徴的な症状を示す認知症である.一方で振戦,筋強剛,無動など特徴的な運動症状を示すパーキンソン病(PD)については,中脳黒質のドパミン神経に障害が見られレビー小体病理を示すこと,そして疾患進行とともにレビー小体は脳内全体に広がりやがて認知症を呈するが,その臨床像はDLBに類似し病理像はDLBと区別ができなないことが知られている.こうしたことから両者をレビー小体病と総称することが適切であると現在考えられている.ドパミン補充を主とする薬物療法はPDの運動機能障害の改善に著明な有効性を示すものの,認知機能障害を含む多彩な非運動症状に対しては必ずしも有効とは言えない.PDの予後を最も大きく左右するのは合併する認知機能障害であることが明らかとなっている.PDの予後は,罹病期間や発症年齢に関わらず,認知症を併発した時点から概ね3~4年であると報告されている.また80%以上のPD症例がいずれは認知症を併発する.つまり随伴する認知症に対する対処をしなければPDの予後改善は不可能であり,PD認知症の早期治療介入の方法論を確立することは重要である.我々は重度の嗅覚障害を呈した群が低い認知機能スコアを示し,3年間の縦断研究から認知症発症の頻度が高いこと,脳萎縮および脳代謝異常が目立つことを明らかとした(Brain 135:161-169, 2012).本研究によって嗅覚検査がPDにおける認知症の予測に有用であることが世界で初めて示され,同様の結果は世界中で追試されている.この結果を受けて,嗅覚低下をバイオマーカーとしたドネペジルのランダム化二重盲検比較試験(DASH-PD study)を全国22施設の多施設共同研究で開始し4年の追跡期間を完了した.その結果,認知症をともなわないPDに対するコリンエステラーゼ阻害薬の有効性と安全性を示唆する結果が得られ最近報告した(eClinicalMedicine 51: 101571, 2022).

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