日本薬理学雑誌
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159 巻, 1 号
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特集 レビー小体病のバイオマーカー探索と早期予測技術の新展開
  • 川畑 伊知郎, 永井 将弘
    2024 年 159 巻 1 号 p. 1
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル 認証あり
  • 川畑 伊知郎, 武田 篤, 福永 浩司
    2024 年 159 巻 1 号 p. 2-5
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル 認証あり

    超高齢化社会の到来により加齢性神経疾患の克服と健康寿命の延伸が喫緊の課題である.アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症,パーキンソン病に代表される神経変性疾患では原因タンパク質が脳内に蓄積し,神経細胞内の凝集体が病理学的特徴として知られる.アミロイドβやαシヌクレインなどの原因タンパク質の蓄積が始まる初期では認知症状や運動障害等の臨床症状は認められず,蓄積の経過とともに脳炎症が始まる.その後,神経細胞死が進み臨床症状が発症してから初めて認知症やパーキンソン病であることを自覚する.そのため,神経変性の早期予測と疾患修飾薬を組み合わせた発症前の根本的予防法が期待される.私たちはこれまでに,Ca2+/カルモジュリン依存性キナーゼⅡ(CaMKII)/プロテアソーム系に着目したアミロイドβの分解促進や,脂肪酸結合タンパク質(FABP)/長鎖型ドパミンD2(D2L)受容体に着目したαシヌクレインの伝播・取込み機序を標的とした神経変性疾患の低分子・中分子治療薬の開発を行ってきた.またFABPノックアウトマウスの解析から,FABPが神経変性過程において発現が増強され,ミトコンドリア障害と神経細胞死に関与することを見出した.そこで本稿ではこれらの知見に基づき,神経変性におけるFABPファミリータンパク質の生理的意義に着目しながら,神経変性疾患を予測可能な血漿バイオマーカーの解析と各疾患を区別するための鑑別方法について紹介し,新しい神経変性疾患の超早期予測の可能性について議論したい.

  • 武田 篤
    2024 年 159 巻 1 号 p. 6-11
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル 認証あり

    レビー小体型認知症(DLB)は幻覚や妄想など特徴的な症状を示す認知症である.一方で振戦,筋強剛,無動など特徴的な運動症状を示すパーキンソン病(PD)については,中脳黒質のドパミン神経に障害が見られレビー小体病理を示すこと,そして疾患進行とともにレビー小体は脳内全体に広がりやがて認知症を呈するが,その臨床像はDLBに類似し病理像はDLBと区別ができなないことが知られている.こうしたことから両者をレビー小体病と総称することが適切であると現在考えられている.ドパミン補充を主とする薬物療法はPDの運動機能障害の改善に著明な有効性を示すものの,認知機能障害を含む多彩な非運動症状に対しては必ずしも有効とは言えない.PDの予後を最も大きく左右するのは合併する認知機能障害であることが明らかとなっている.PDの予後は,罹病期間や発症年齢に関わらず,認知症を併発した時点から概ね3~4年であると報告されている.また80%以上のPD症例がいずれは認知症を併発する.つまり随伴する認知症に対する対処をしなければPDの予後改善は不可能であり,PD認知症の早期治療介入の方法論を確立することは重要である.我々は重度の嗅覚障害を呈した群が低い認知機能スコアを示し,3年間の縦断研究から認知症発症の頻度が高いこと,脳萎縮および脳代謝異常が目立つことを明らかとした(Brain 135:161-169, 2012).本研究によって嗅覚検査がPDにおける認知症の予測に有用であることが世界で初めて示され,同様の結果は世界中で追試されている.この結果を受けて,嗅覚低下をバイオマーカーとしたドネペジルのランダム化二重盲検比較試験(DASH-PD study)を全国22施設の多施設共同研究で開始し4年の追跡期間を完了した.その結果,認知症をともなわないPDに対するコリンエステラーゼ阻害薬の有効性と安全性を示唆する結果が得られ最近報告した(eClinicalMedicine 51: 101571, 2022).

特集 蛍光バイオセンサー研究の最前線:分子設計,生体機能の解明から創薬への展望
  • 佐藤 正晃, 寺井 琢也
    2024 年 159 巻 1 号 p. 12
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル 認証あり
  • 三田 真理恵, 北口 哲也
    2024 年 159 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル 認証あり

    多彩な生命現象は,タンパク質や代謝産物,シグナル分子,イオンなど,多岐にわたる生体分子の協調的かつ階層的な相互作用によって作り出される.しかし多くの場合,これら生体分子には色がなく,そのままでは観察することができない.そこで,それぞれの分子に色をつけることで「みえる化」し,機能相関を詳細に解析する試みがなされている.その手法のひとつとして,単色蛍光タンパク質センサーを駆使したライブセルイメージング技術がある.単色蛍光タンパク質センサーは,蛍光タンパク質をもとにしてつくられた人工タンパク質であり,標的分子との結合によって輝度変化を起こすように設計されている.2000年代にCa2+動態を可視化するセンサーが登場したことを起点に,革新的スクリーニング手法を積み重ねることでマルチカラーなセンサー作出が達成されている.また筆者らは,従来のセンサーとは異なる分子デザインと,分子進化を巧みに活用した独自のスクリーニング手法を確立し,cAMPやグルコースなど,生体内で重要な役割を持つさまざまな分子に対する単色蛍光タンパク質センサーの開発に成功した.本稿では,この単色蛍光タンパク質センサーに着目し,その開発戦略やスクリーニング手法の発展の歴史について紹介したい.

  • 河谷 稔, 神谷 真子, 浦野 泰照
    2024 年 159 巻 1 号 p. 18-24
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル 認証あり

    酵素活性を高感度に検出可能な有機小分子蛍光プローブは,マーカー遺伝子発現の可視化や標的酵素が高発現するがん部位の特異的イメージングが可能な一方で,酵素反応後に生成する蛍光性分子が反応部位から拡散・消失してしまうため,長時間の追跡や洗浄・固定操作を伴う免疫染色を併用した観察が難しい場合があった.著者らの研究グループはキノンメチド化学に着目し,酵素によって基質部位が加水分解されると,キノンメチド或いはアザキノンメチド中間体を経由して細胞内に存在するタンパク質やグルタチオンなどの求核剤と反応するとともに,大幅な蛍光上昇を示す細胞内高滞留性activatable型蛍光プローブの分子設計を確立した.この分子設計に基づき,β-galactosidaseやγ-glutamyltranspeptidaseを標的酵素とした蛍光プローブ開発の他,activatable型光増感剤やケージド蛍光色素といった光機能性プローブへの展開も行ってきた.これらのプローブは標的酵素が発現している細胞からの漏出が抑制されるため,標的細胞を高い選択性で可視化・殺傷することができるだけでなく,洗浄・固定操作後も十分な蛍光が観察できることを活かして免疫染色との併用も可能であることを示した.

  • 針尾 紗彩, 竹内 志織, キャンベル ロバート アール, 寺井 琢也
    2024 年 159 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル 認証あり

    遺伝子導入が可能で生体適合性の高い蛍光タンパク質を基盤とする蛍光イメージングセンサーは,その時空間分解能の高さと使いやすさから,医学・生物学の基礎研究において重要なツールとなっている.タンパク質工学を駆使することで,カルシウムイオンを始めとする様々な標的分子/イオンの濃度変化を可視化するイメージングセンサーがこれまで開発されてきた.さらに,タンパク質と合成分子の複合体を基盤とする化学遺伝学センサー(chemigenetic sensor)の開発も近年盛んになりつつある.本稿では,これらのイメージングセンサー開発における最新の研究動向について,我々のグループが開発したセンサーを例に紹介する.

特集 免疫応答の制御におけるマスト細胞,好塩基球の新たな役割
  • 田中 智之, 見尾 光庸
    2024 年 159 巻 1 号 p. 31
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル 認証あり
  • 三宅 健介, 伊藤 潤哉, 烏山 一
    2024 年 159 巻 1 号 p. 32-38
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル 認証あり

    好塩基球は顆粒球の一種で,末梢血白血球中に1%ほどしか存在しない希少な血球細胞である.好塩基球の存在は,ドイツの病理学者Paul Ehrlichによって140年以上前から発見されていたものの,好塩基球が希少細胞であることや組織常在型のマスト細胞と多数の共通点をもつこともあって,その生体内での役割については長い間謎のままであった.しかしここ10年ほどで好塩基球除去抗体や好塩基球関連の遺伝子改変マウスなどの好塩基球に関する研究ツールが次々に開発され,生体内にごく少数しか存在しない好塩基球が多様な免疫反応において重要な役割を担っていることが明らかになってきた.特に,好塩基球は慢性アレルギー炎症の誘導や寄生虫感染に対する再感染防御などの2型免疫応答に重要であることが明らかになっている.本稿ではまず,好塩基球のアレルギー炎症における役割について,特に皮膚アレルギーに焦点をあてて概説したのちに,好塩基球の分化機構について筆者たちによる最新の解析結果も交えながら解説する.

  • 吉田 一貴, 伊藤 政明, 松岡 功
    2024 年 159 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル 認証あり

    アデノシン5'-三リン酸(ATP)は細胞内の重要なエネルギー通貨であるが,様々な刺激に応じて細胞外に放出され,多様な受容体を介して認識される細胞間情報伝達物質としても重要である.ATPはシナプス小胞や分泌顆粒に蓄えられており,神経細胞や血小板の活性化によって細胞外へ放出され,神経伝達や血小板凝集で重要な役割を担っている.さらに,皮膚を擦るような機械刺激や炎症による細胞傷害によっても放出され,炎症反応を促進することが明らかになってきた.マスト細胞(MC)は造血幹細胞由来の免疫細胞であり,Ⅰ型アレルギー反応の中心となる細胞である.MCはIgEを介した抗原認識によって活性化するが,高濃度ATP(>‍0.5 ‍mM)に反応するP2X7受容体を介して炎症性腸疾患や皮膚炎を悪化させることが報告されている.一方,MCには低濃度ATP(<‍0.1 ‍mM)を認識する受容体も発現しているがその機能は明らかでなかった.我々は,MC機能発現における低濃度ATPの作用を解析し,イオンチャネル型P2X4受容体がMCの脱顆粒を促進することを見出した.P2X4受容体シグナルはIgE依存的脱顆粒の亢進をチロシンキナーゼ活性化の促進を介して引き起こし,Ⅰ型アレルギー反応を増強した.さらに,P2X4受容体シグナルはアデノシンA3受容体,プロスタノイドEP3受容体およびMrgprb2のようなGタンパク質共役型受容体(GPCR)を介したCa2+応答を促進し,偽アレルギー反応を増強した.以上の結果から,掻把などの機械的刺激によって細胞から放出されるATPは,P2X4受容体介して微量のMCアクチベーターに対する感受性を包括的に増大させるアレルギー反応促進因子である可能性が示唆された.このようなATPの性質からMCのP2X4受容体は新しい抗アレルギー薬の標的になると考えられた.

  • 田中 智之
    2024 年 159 巻 1 号 p. 44-47
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル 認証あり

    マスト細胞と好塩基球は,IgEに対する高親和性受容体であるFcεRIを発現することや,顆粒にヒスタミンを貯留し,刺激に応じて放出すること,あるいは炎症性,抗炎症性両方のサイトカインを産生する能力をもつといった,共通点を数多く有する.これらのよく似た白血球は,しかしながら,それぞれ異なる分化過程を有することが分かっている.これまでの研究からは,両細胞種がアナフィラキシーのようなⅠ型アレルギーや蕁麻疹において重要な役割を果たすことが示唆されている.実際に,ヒスタミン,血小板活性化因子,プロスタノイド,ロイコトリエンといった,マスト細胞,あるいは好塩基球から放出される炎症性メディエーターは,Ⅰ型アレルギーや炎症性疾患の治療薬の標的として注目を集めてきた.一方,近年のこの領域の研究は,細菌感染,エネルギー代謝,皮膚/消化管炎症におけるマスト細胞あるいは好塩基球の生理的な機能を明らかにしている.本総説では,感染症や慢性炎症性疾患の新たな治療法の手がかりとなることが期待される,近年の知見について概説する.

創薬シリーズ(8)創薬研究の新潮流60 ~ベンチャーが拓く創薬研究~
  • 福田 雅和, 團野 宏樹
    2024 年 159 巻 1 号 p. 48-52
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル 認証あり

    株式会社ナレッジパレットは,世界最高精度の1細胞レベルの全遺伝子発現解析技術を応用して,様々な種類の薬剤や培地で処理した細胞の状態を大規模データとして取得し,その情報を使って細胞を高度に制御することにより,難病克服を目指すスタートアップ企業である.ビッグデータを用いた新しい表現型創薬と再生医療用細胞の高品質化に取り組んでいる.コア技術の一つとして,理化学研究所で開発されたシングルセルレベルの全遺伝子発現解析技術(Quartz-Seq2)を実用化している.本技術は,国際Human Cell Atlasプロジェクトでのベンチマーキングにおいて,総合スコア1位の評価を得た.本技術を超多検体のバルクトランスクリプトーム解析へと応用することで,創薬スクリーニングやヒト臨床検体の解析,数多くの培養環境評価を可能とした.本稿では大規模データとAI技術を組み合わせたオミックス創薬・細胞制御アプローチを紹介する.

新薬紹介総説
  • 牛 夢茜, 薮田 忠孝, 槇田 直之
    2024 年 159 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル オープンアクセス

    テゼペルマブ(製品名:テゼスパイア®皮下注210 ‍mgシリンジ)は,「気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない重症又は難治の患者に限る)」を効能・効果として2022年9月に本邦で承認された新規作用機序の生物学的製剤である.剤形追加として2023年8月にテゼスパイア®皮下注210 ‍mgペンの製造販売承認を取得した.テゼペルマブは上皮サイトカインである胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)に結合し,TSLPのへテロ二量体受容体を介したシグナル伝達を阻害する.第Ⅲ相国際共同臨床試験のNAVIGATOR試験において,中用量又は高用量のICS及び,その他の長期管理薬で治療してもコントロール不良な喘息患者に対してテゼペルマブ210 ‍mgを4週に1回52週間皮下投与した結果,プラセボ群と比べて年間喘息増悪発生率の有意な抑制効果が示された.また,喘息増悪抑制効果は,ベースライン時の患者の血中好酸球数,呼気中一酸化窒素濃度(FeNO),血清総IgEの値によらず認められた.他の喘息において重要な臨床評価項目である肺機能,健康関連QOL,及び喘息コントロールにおいてもベースラインからの変化量に臨床的に意義のある改善が認められた.加えて,臨床薬理試験において,テゼペルマブによって喘息患者の気道過敏性の改善への有効性が示されている.本稿では,テゼペルマブの薬理学的特徴,薬物動態,並びに臨床試験における有効性及び安全性成績について概説する.

  • 高浦 加奈, 安藤 博司, Ganoza Edward Ramirez
    2024 年 159 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2024/01/01
    公開日: 2024/01/01
    ジャーナル オープンアクセス

    B細胞性非ホジキンリンパ腫(B-NHL)の転帰は抗CD20抗体併用化学療法により改善したが再発も多く認められ,未だアンメットニーズが高く新たな治療法が求められている.エプコリタマブ(遺伝子組換え)は,T細胞表面のCD3及びB細胞又は腫瘍表面のCD20に特異的に結合するヒト化免疫グロブリンG1二重特異性抗体であり,CD20陽性B細胞に対してT細胞を介した細胞傷害作用を誘導する.細胞傷害作用はCD3とCD20への同時結合により誘導され,濃度依存的であり,ヒト化マウスを用いたB細胞リンパ腫細胞株由来異種移植モデル及び患者由来異種移植片モデル,カニクイザルにおいて,一貫した殺細胞活性が認められた.カニクイザルでの薬理試験ではサイトカインの最高血漿中濃度は静脈内投与と比較して皮下投与で低値であった.サイトカイン放出症候群(CRS)のリスク軽減及び利便性向上の観点から,皮下投与製剤として開発が進められた.臨床試験ではCRSのリスク軽減のため,段階的に増量するプライミングドーズと中間ドーズが設定された.再発性,進行性又は難治性のB-NHL患者を対象とした海外第Ⅰ相用量漸増パートでの安全性,有効性及び薬物動態モデルのシミュレーション結果から,第Ⅱ相試験推奨用量が決定された.第Ⅱ相用量拡大パートで推奨用量におけるエプコリタマブ単剤療法の有効性と忍容性が示された.再発又は難治性のB-NHL患者を対象とした国内第Ⅰ/Ⅱ相試験においても一貫した有効性と忍容性が示された.これらの成績に基づき,エプコリタマブは「再発又は難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫,高悪性度B細胞リンパ腫,原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫」及び「再発又は難治性の濾胞性リンパ腫(Grade 3B)」を効能又は効果として本邦において2023年9月に製造販売承認を取得し,新たな治療選択肢に加わった.

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