日本薬理学雑誌
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特集 新規作用機序による抗うつ薬の開発戦略
臨床・基礎研究におけるシロシビン治療のUp-to-Date
衣斐 大祐
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2024 年 159 巻 4 号 p. 214-218

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要約

大うつ病性障害患者の30~40%はSSRIなど既存の抗うつ薬を適切に使用しても,症状の十分な改善が認められない治療抵抗性うつ病である.2016年のCarhart-Harrisらの報告を皮切りに,マジックマッシュルームの幻覚成分である「シロシビン」が治療抵抗性うつ病に対して,即効かつ持続的な治療効果を示すことが多数報告されている.また,シロシビンは治療抵抗性うつ病のみならず,大うつ病性障害,双極性障害のうつ病相,摂食障害や依存症にも治療効果を示すことが報告された.それら報告を受け,米国食品医薬品局は2018年と2019年にシロシビンが治療抵抗性うつ病および大うつ病性障害の革新的治療薬になり得るとそれぞれ発表した.また,シロシビン投与により認められる副作用としては,頭痛や疲労感など一過性の軽微なものしか報告されておらず,安全に使用できると考えられている.我々は2023年の本誌において(第158巻 第3号 229~232ページ),シロシビンをはじめとしたサイケデリックス(セロトニン作動性幻覚薬,精神展開薬)の抗うつ作用におけるセロトニン5-HT2A受容体(5-HT2A)の役割に関する総説を報告したが,それを踏まえ,本稿ではシロシビンの抗うつ作用など精神疾患治療効果に関する臨床および基礎研究の最新報告を紹介し,さらに最近の我々の研究にも触れつつ,シロシビンの可能性やシロシビン治療の問題点についても考察する.

Abstract

Major Depressive Disorder (MDD) poses a significant global health burden, with 30–40% patients developing resistance to standard clinical antidepressants, such as selective serotonin reuptake inhibitors and tricyclic antidepressants. In 2016, Carhart-Harris and colleagues reported that psilocybin, the hallucinogenic compound derived from magic mushrooms, exhibits rapid and enduring antidepressant effects in patients with treatment-resistant depression. Subsequent clinical studies have found the therapeutic potential of psilocybin in MDD, depressive episode in bipolar disorder, anorexia, and drug addiction. In 2018 and 2019, the U.S. Food and Drug Administration designated psilocybin as a “breakthrough medicine” for treatment-resistant depression and MDD, respectively. Notably, the side effects of psilocybin are limited to transient and mild issues, such as headache and fatigue, suggesting its safety. In 2023, we published a review on the role of serotonin 5-HT2A receptors in the antidepressant effects of serotonergic psychedelics (Nihon Yakurigaku Zasshi, Volume 158, Issue 3, Page 229–232). Here, we present our study alongside the latest clinical and preclinical research on the antidepressant effects of psilocybin and provide an overview of the potential and issues related to psilocybin therapy.

1.  はじめに

サイケデリックス(セロトニン作動性幻覚薬,精神展開薬)は紀元前から現代に至るまで民族の儀式や娯楽などのために世界中で広く使われてきた.特に1960年代にはサイケデリックスの臨床応用が注目され,気分障害を含むさまざまな精神疾患に対する治療効果が検証された.しかしながら,1960年代後半には幻覚誘発作用による娯楽を目的とした乱用が米国西海岸を中心としたヒッピーの間で広まっていった.1970年代に世界各国でサイケデリックスが違法薬物に指定されて以降,サイケデリックスの精神疾患治療に関するほとんどの研究は中止となった.しかし,1990年代には臨床研究が再開されることとなり,「シロシビン(マジックマッシュルームの幻覚成分)」や「リゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)」などのうつ病,心的外傷後ストレス障害,依存症,不安障害など精神疾患に対する治療効果が改めて検証された.さらに,ここ数年の臨床研究により,サイケデリックスは従来の精神疾患治療薬よりも強力な治療効果を有することが多数報告され,世界的に注目されている1)

最近,シロシビン処置が,治療抵抗性うつ病および大うつ病性障害患者のうつ病評価尺度を改善することが多くの臨床研究により示され,米国食品医薬品局は2018年と2019年にシロシビンを治療抵抗性うつ病および大うつ病性障害の革新的治療薬になり得るとそれぞれ発表した1).さらに豪州政府は2023年7月からシロシビンを治療抵抗性うつ病患者に使用することを承認した2).以上の様にシロシビンはうつ病に対する治療薬としての可能性を大いに秘めており,今後のさらなる研究が期待されている.著者は2023年の本誌において,シロシビンを含めたサイケデリックスの歴史・分類と抗うつ作用におけるセロトニン5-HT2A受容体(5-HT2A)の役割に関する総説を発表した.先の総説を踏まえ,本稿ではシロシビンの抗うつ作用など精神疾患治療効果に関する臨床および基礎研究に関する最新報告を紹介し,さらに我々の最近の研究に関しても言及したい.また,シロシビン服用により変化する脳活動解析や幻覚作用に関する最新の研究報告も併せて紹介する.

2.  精神疾患に対するシロシビン治療の最新研究

2016年にImperial College LondonのCarhart-Harris博士の研究グループが治療抵抗性うつ病患者にシロシビンを処置したところ,即効的な抗うつ効果が認められ3),この結果はその後の多くの追跡調査によっても支持されている.シロシビンは2回投与にも関わらず,その抗うつ作用が数ヵ月から長くて1年以上持続することも報告されている4,5).また,SSRIのエスシタロプラムを連続投与された患者群とシロシビンを2回投与された患者群を経時的に比較した研究によると,シロシビン群は2回の投与にも関わらず,エスシタロプラムの連続処置群よりも,寛解率が良好であることが分かっている6).ちなみに,シロシビンを用いた多くの臨床研究において,シロシビンは初回投与後に数日の間隔をあけて,2回目の処置を行うという投与スケジュールが一般的に用いられてきたが,最近,シロシビンは単回投与でも即効かつ持続的な抗うつ効果を示すことが分かってきた(表17).連続投与が求められるSSRIなどの既存抗うつ薬と比べると,単回投与にも関わらず即効かつ持続的な抗うつ作用を示すシロシビンはうつ病治療のゲームチェンジャーになるかも知れない.これら様々な臨床研究の結果を踏まえ,2023年7月,豪州政府は欧米諸国に先駆けて,シロシビンを治療抵抗性うつ病に使用することを承認した2).米国においても2024年6月の時点で,治療抵抗性うつ病に対するシロシビン治療の効果を検証する第Ⅲ相臨床試験が進められている.

表1シロシビン治療に関する主な臨床研究の概要

実施施設 Imperial College London Johns Hopkins Imperial College London COMPASS Pathways University of Zurich New York University
疾患
(患者数)
治療抵抗性うつ病
(N‍=‍20)
大うつ病性障害
(N‍=‍24)
大うつ病性障害
(N‍=‍59)
治療抵抗性うつ病
(N‍=‍232)
大うつ病性障害
(N‍=‍52)
アルコール依存症
(N‍=‍95)
実験
デザイン
オープンラベル試験 ランダム化試験 プラセボ対照
ランダム化
二重盲検比較試験
プラセボ対照
ランダム化
二重盲検比較試験
プラセボ対照
ランダム化
二重盲検比較試験
プラセボ対照
ランダム化
二重盲検比較試験
シロシビン
の用量と
投与回数
1回目(10 ‍mg),
2回目(25 ‍mg)
1回目(20 ‍mg/70 ‍kg),
2回目(30 ‍mg/70 ‍kg)
1回目(25 ‍mg),
2回目(25 ‍mg) 
単回投与
(25 ‍mgまたは10 ‍mg)
単回投与
(14.98 ‍mg/70 ‍kg)
1回目(25 ‍mg/70 ‍kg),
2回目(25~40 ‍mg/70 ‍kg)
準備
セッション
4時間 8時間 1回目の投与の前に3時間,2回目の投与の前に電話で1時間 2回のセッションで
合計2時間
2回のセッションで
合計2時間
4時間のセッション2回と
1時間のセッション1回
統合
セッション
1回目の投与の翌日に電話フォローアップ&2回目の投与1週間後に対面フォローアップ 合計2~3時間のフォローアップ 各投与の後に1セッション
各投与後,1週間ごとに3回の電話フォローアップ
合計2.5時間のフォローアップ 合計3時間のフォローアップ 2時間のセッションを2回のフォローアップ
治療の
サポート
精神科医(2人) セラピスト(2人) セラピスト(2人) セラピスト(2人) セラピスト(1人) セラピスト(2人)
心理療法 非指示的療法(マニュアル化されていない) 非指示的療法(マニュアル化されていない) 非指示的療法(ACEモデルに基づいたもの) 非指示的療法(マニュアル化されたもの) 心理カウンセリング(マニュアル化されていない) 依存症治療に基づいた心理療法(マニュアル化されたもの)
引用文献 Carhart-Harris RL, et al. Lancet Psychiatry. 2016;3:619-627. Gukasyan N, et al. J Psychopharmacol. 2022;36:151-158. Carhart-Harris R, et al. N Engl J Med. 2021;384:1402-1411. Goodwin GM, et al. N Engl J Med 2022;387:1637-1648. von Rotz R, et al. eClinicalMedicine. 2023;56:101809 Bogenschutz MP, et al. JAMA Psychiatry. 2022;79:953-962.
Carhart-Harris RL et al, Psychopharmacology. 2018; 235:399-408. Davis AK, et al. JAMA Psychiatry. 2020;78:481-489. Goodwin GM, et al. J Affect Disord. 2023;327:120-127. Bogenschutz MP, Forcehimes AA. J Humanistic Psychol. 2017;57:389-414

(文献8より一部改訂)

加えて,シロシビンは,既存の抗うつ薬に対して反応性を示す大うつ病性障害8)表1)や治療抵抗性双極性障害(双極Ⅱ型)の患者で認められるうつ病相に対しても治療効果を示すことが報告された9).興味深いことにシロシビンは躁病評価尺度には影響を与えなかったことから9),既存抗うつ薬使用で起こり得る躁転のリスクも低いと予想される.

最近,摂食障害に対してもシロシビンが治療効果を示すことが報告された.十代の女性で発症することが多く,有効な治療法が無かった神経性食欲不振症(拒食症)の患者に対してシロシビンの単回投与を行ったところ,一過性かつ軽度な有害事象は認められたものの,食事や体型・体重に関する心配や不安の評価尺度は少なくとも3ヵ月間,有意に低下していた10).また,終末期がん患者の不安やうつ症状を和らげる作用があることも分かっており11),2024年2月の時点で米国において,進行がん患者のうつ状態や不安などに対するシロシビン治療が第Ⅲ相臨床試験として進められている.

3.  シロシビン治療における心理療法の必要性

前項では言及しなかったが,これまで報告されてきたうつ病やその他の精神疾患に対するすべてのシロシビン治療は心理療法(サイコセラピー)と併用で行われており(表1),シロシビン投与そのものの治療効果はいまだ詳しく分かっていない.表1に示すようにシロシビン治療で行われている心理療法の多くが傾聴を中心とした「非指示的療法」であり,マニュアル化されていないものも多い.また,一般的にこれらの治療は「準備」,「投与」,「統合」の3セッションで成り立つが,「準備」や「統合」に費やされる時間や方法もまちまちであるため,シロシビン治療における心理療法の必要性や介入の程度について研究者や精神科医の間でも議論が分かれている(表18).今後は心理療法の必要性・有用性についても十分に検証されるべきであり,シロシビンそのものの効果を明確にする必要がある.

4.  シロシビンが脳活動に与える影響

機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて,シロシビン処置が健常者の脳活動に与える影響を調べた研究によると,‍シロシビン処置は「デフォルトモード・ネットワーク(DMN)」と呼ばれる脳神経系の活動を低下させることが分かった12).DMNとは,安静時に活動し,大脳皮質と皮質下層の記憶や情動をつかさどる脳部位を繋ぎ合わせる脳活動の中心的ハブの役割を担っている脳神経系のことである.興味深いことに,シロシビンによってDMNの活動が低下するタイミングと神秘体験を経験するタイミングが一致すること,またその度合いにも相関関係がみられた12).通常は個々のネットワーク内でのみ神経の交流が行われていたものが,DMNの活動低下によって,新たなネットワークが無数に形成され,知覚情報が混交することで幻覚・神秘体験が出現する可能性がある13).また,うつ病患者ではDMNが過活動になっているという報告を踏まえると14),シロシビンによる幻覚作用や抗うつ作用は,DMNの活動抑制を介して出現しているのかもしれない.実際にうつ病患者にシロシビンを処置し,翌日にfMRIを実施すると,DMNの活動が低下し,さらに脳内の機能的な領域間ネットワークの接続性が高まることが報告された15).以上のことは,シロシビン処置によるDMNの活動低下が脳の固定化されたネットワークを解放し,柔軟性のある脳活動を促進することを示唆しており,それが考えや概念を変容させ,うつ病の治療効果に繋がっているのかもしれない.

5.  シロシビンの安全性

次にシロシビンの安全性について考えたい.最初に乱用薬物としてのサイケデリックスの安全性を紹介する.コカイン,覚せい剤やヘロインなどの使用者が死に至るまたは依存症になるリスクは非常に高いが,LSDやマジックマッシュルームなどのサイケデリックスの乱用者におけるそのようなリスクは非常に低いことがわかっている.また,乱用者本人ではなく,周囲に与える影響として,アルコール,ヘロインやコカインは他人を傷つけるリスクがあるが,サイケデリックス使用者は他者に対してネガティブな影響をほとんど与えないと報告されている1,16).以上からもサイケデリックスは,他の精神作用薬や乱用薬物等(ヘロイン,覚せい剤,コカイン,アルコール,ケタミン,たばこ など)と比較しても安全性が高いと考えられている1,16).また,シロシビンの副作用としては頭痛,疲労,悪心,浮動性めまい,血圧上昇など一過性で軽微なものは認められているが,重篤なものは確認されておらず,忍容性が高いことが分かっている10,17).シロシビンは,当然ながら幻覚を誘発するが,シロシビン治療には神秘体験が必要との考えがあり,幻覚そのものを副作用と捉えるのではなく,主作用の一部として考える研究者も多い.

6.  モデル動物におけるサイケデリックスに関する最新研究

ここでは先の総説でも一部記したが,シロシビンやその他のサイケデリックスがげっ歯類の行動変容に与える影響について,著者らの最近の研究も交えながら紹介する.これまでに著者らはシロシビンの活性代謝物の「シロシン」および5-HT2Aに対して高い親和性を示すフェネチルアミン系のサイケデリックス「DOI」と「TCB-2」をマウスに投与し,翌日に抗うつ様作用を評価する目的で,強制水泳試験および尾懸垂試験を行ったところ,すべてのサイケデリックスにおいてうつ様行動の指標である無動時間が有意に短縮し,抗うつ様作用が認められたが,その効果は,5-HT2Aアンタゴニスト(M100907)の前処置により,コントロールレベルまで抑制された16).すなわち,サイケデリックスによる抗うつ様作用は5-HT2Aを介して誘発されることを示しており,これまでのげっ歯類を用いた研究と一致している1).また,サイケデリックスによる抗不安作用を調べるために著者らは絶食マウスが新奇環境下で摂餌するまでの時間から不安様行動を評価する新奇環境下摂食抑制試験(novelty-suppressed feeding test:NSFT)を行った.マウスにサイケデリックスを投与し,その直後から絶食を行い,24時間後にNSFTを行ったところ,シロシン投与マウスは摂餌までの潜時がコントロールマウスより短く,抗不安様作用が認められたが,DOIおよびTCB-2投与マウスではそのような効果は認められなかった.さらに,シロシンによる摂餌潜時の短縮作用は5-HT2Aアンタゴニスト(M100907)の前処置では抑制されなかった16).この結果から,シロシンの抗不安作用は5-HT2A非依存的である可能性が考えられる.一方,ガラス玉覆い隠し試験を用いてサイケデリックスの抗不安様作用を評価した他の研究グループの報告によると,DOI投与マウスはコントロールマウスと比較して,床敷きで覆い隠すガラス玉の数が少なく抗不安様作用を示したが,この作用は5-HT2A拮抗薬(M100907やケタンセリン)により消失した18,19).これは我々の結果と相反するが,この相違には不安様行動の評価系や細かい実験条件などの違いが関係しているかもしれない.また,5-HT2Aに対する選択性や親和性の違いも各サイケデリックスの作用の相違を説明する上で忘れてはいけない要素であろう16)

先の総説においてサイケデリックスの投与が5-HT2Aを刺激することでマウス前頭前皮質(prefrontal cortex:PFC)におけるスパイン数を増加させる可能性について記した20).これまで5-HT2Aは神経細胞の細胞膜に局在していると考えられてきたが,2023年に発表された報告によると,5-HT2Aの多くは細胞質に存在し,そこで機能していることが示された21).シロシビンは極性が高いため,血液脳関門を通過することが出来ず,シロシンに変換された後に脳内の5-HT2Aに作用することを先の総説でも紹介したが1),彼らの研究によると5-HT2Aに作用する化合物の中で極性の高いものは,たとえ脳内に移行したとしても脂質で構成されている細胞膜を通過できないため,細胞質に存在する5-HT2Aまでたどり着けないという21).また,細胞質に存在する5-HT2Aがサイケデリックスによる抗うつ作用やスパイン数の増加に重要であることも示された.

先の総説および本稿でも既に述べたようにサイケデリックスが行動およびシナプスに与える作用には5-HT2Aを介する機構が関与していると考えられる.一方で,サイケデリックスの作用の中で5-HT2Aを介さない作用の分子機構研究も進められてきた.最近の報告によると,シロシンやLSDなどのサイケデリックスは脳由来神経栄養因子(BDNF)の受容体であるTrkBに直接結合し,TrkBの二量体化を促進することで抗うつ作用,スパインの増加や神経可塑性亢進を示すことが分かった22).しかもこの作用は5-HT2A遮断薬による影響を受けないことから,5-HT2A非依存的な反応であると考えられている.

5-HT2Aは代謝型グルタミン酸受容体(mGlu)2など様々な受容体とヘテロ複合体を形成し,その下流シグナルにおいても相互作用が認められている23,24).5-HT2AはTrkBともヘテロ複合体を形成することから25),サイケデリックスがTrkBやその下流シグナルに与える影響において,5-HT2AやTrkBとのヘテロ複合体が何かしら関係している可能性がある.サイケデリックスの5-HT2A非依存的な作用において,上記のようなヘテロ複合体の役割解明が求められる.

7.  さいごに

本稿では,精神疾患に対するシロシビンの治療効果について最新の研究を交えながら概説したが,その中で見えてきたシロシビン研究の課題についても言及した.ここではそれら課題について改めて取り上げることで本稿のまとめとしたい.

先の総説および本稿で紹介したようにサイケデリックスの精神疾患治療効果において5-HT2Aが重要な役割を果たしていることが示唆されたが,その詳細は不明である1).一方,サイケデリックスの幻覚作用においては5-HT2Aの刺激が必須であることは古くから知られている26).興味深いのは,サイケデリックスの幻覚や神秘体験による価値観・考えの変容が,うつ病の画期的治療効果に繋がると考えられており,幻覚と抗うつ作用の因果関係が示唆されている.しかしながら,マウスを用いた研究において非幻覚性サイケデリックスでも抗うつ様作用が認められており1),サイケデリックスの抗うつ作用における幻覚や神秘体験の必要性や抗うつ作用と幻覚作用の因果関係の更なる検証が求められる.

前述したようにシロシビンとエスシタロプラムなどSSRIとの比較研究6)は未だ数が少なく,今後の臨床研究が待たれるが,SSRIなどの既存抗うつ薬はその治療効果の発現に少なくとも数週間の連続投与を必要とする.一方で,前述のようにシロシビンは1~2回の投与にも関わらず即効かつ持続的な治療効果を示すことが分かっている1,8,9,17.このことからも既存抗うつ薬のように数週間の連続投与を必要とせず,1~2回の投与でも強力な治療効果を示すシロシビンはうつ病治療のゲームチェンジャーになり得る.一方で,シロシビン治療には前述のように心理療法を行うことが求められている8).シロシビン治療の心理療法では,傾聴を中心とする「非指示的療法」が行われ,さらにマニュアルがないことも多い(表1).どこまでセラピストの介入が求められるのか,介入が無くてもシロシビンの治療効果は成立するのか,などシロシビンの画期的な治療効果を引き出すために心理療法を含め,何が必要なのか,今後明らかにされるべき重要な課題である.

シロシビンの精神疾患治療効果に関する研究は始まったばかりであるが,先の総説や本稿で紹介したように有望な結果が数多く報告されている.シロシビン治療が,安全かつ効果的な精神疾患治療の1つとして確立するためにも今後の臨床および基礎研究に期待したい.シロシビン治療の発展・普及に関して,著者も微力ながら貢献していく所存である.

利益相反

開示すべき利益相反はない.

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