2024 年 159 巻 5 号 p. 290-294
創薬研究には,長い年月と労力がかかり,その成功確率は非常に低い.この状況を打破するべく,製薬会社各社はあらゆる角度からこの成功確率の向上に取り組んでいる.その結果として,近年,あらゆるモダリティーを駆使して治療候補品を見出しその候補の臨床効果をなるべく早い段階から予測すること,臨床試験において対象となる疾患患者の適切な層別化と適切なリードアウトを選択することなどが重要視され,これらを実現させるための研究戦略の立案と実行が求められてきた.そのような環境において,患者由来のサンプルを含めたヒト由来のサンプルを積極的に利活用した非臨床研究の重要度が増しており,患者由来サンプルを用いることによる病態の理解や創薬ターゲットの発掘,候補品の評価などが活発に行われている.そこで本稿では,特に非臨床創薬研究におけるヒト由来サンプルの利活用の有用性についてを人工多能性幹細胞(iPS細胞)の例を中心に記述した.言うまでもなく,ヒト由来iPS細胞を含むヒト由来サンプルは実験動物が持たないヒト固有の特性も有した貴重な実験材料である.とりわけ患者由来サンプルは,疾患の原因となる遺伝素因や少なくとも一部の疾患特性を備えていると考えられており,病因の解明や疾患モデル,臨床効果の予測性の観点から有用であり,創薬への応用が期待されている.マウスをはじめとした実験動物由来の材料での再現が難しい疾患を対象とした創薬研究では殊更である.一方で,ヒト由来のサンプルには限界があり,またその使用にあたっては研究倫理上の手続きや配慮も必要である.以上の観点と,我々の研究グループの活用例の紹介を交え非臨床研究におけるヒト由来サンプルの有用性について概説し,これらを用いた今後の研究展望についても紹介する.