日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集 疼痛制御機構におけるターゲット因子の探索とその機能解析
慢性疼痛でのアストロサイトにおける疼痛制御分子の機能解析に基づく創薬戦略
森岡 徳光
著者情報
ジャーナル 認証あり HTML

2024 年 159 巻 6 号 p. 363-366

詳細
抄録

慢性疼痛モデルにおいて,特に痛みが遷延化した状況下で脊髄アストロサイトが活性化していることが知られている.それ故,脊髄アストロサイトを標的とした有用な鎮痛薬の開発に向けた創薬研究が注目を集めている.中枢神経系においてはアストロサイトに限局して発現・機能する膜タンパク質であるconnexin43(Cx43)はgap junctionの構成要素として細胞間情報伝達に関わることがよく知られている一方で,特徴的に長いC末領域を介してシグナル分子と相互作用することで細胞機能に影響を及ぼすユニークなタンパク質でもある.これまでに著者らは神経障害性疼痛モデルマウスの脊髄後角アストロサイトにおいて,Cx43発現が著明に低下していることを見出した.そこで脊髄アストロサイトのCx43発現低下と痛みの発症との関連性を検討したところ,Cx43発現が低下することでグルタミン酸トランスポーターであるGLT-1や炎症性サイトカインであるinterleukin-6(IL-6)といった疼痛に関連する分子の発現が変動することが示された.特にCx43発現低下によるIL-6発現制御に着目してin vivo,in vitroの両面で解析を進めたところ,神経障害性疼痛時においてCx43発現低下により駆動したAkt-glycogen synthase kinase-3β(GSK-3β)シグナル伝達系を介してIL-6発現が増大することで痛みが惹起されていることが明らかとなった.このように,アストロサイトのCx43は従来知られてきた機能とは異なる,細胞内情報伝達分子との相互作用を介して疼痛関連分子の遺伝子発現を制御することで,痛みの遷延化に関与している新たな役割が示されたことから,慢性疼痛に対する創薬標的としての可能性に期待を抱かせる.

著者関連情報
© 2024 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top