線維筋痛症(fibromyalgia:FM)は,慢性的な全身疼痛を主症状とし,極度の疲労,不眠,抑うつを副症状とする難治性疾患である.臨床研究では,発症の引き金となる心理的ストレスの存在,交感神経系の過興奮,免疫系の異常などが指摘されているが,病態への寄与に関しては不明な点が多い.本研究において我々は,FMの実験的マウスモデルとして,反復性酸性食塩水誘発性全身性疼痛(repeated acid saline-induced generalized pain:AcGP)モデルおよび断続的心理的ストレス誘発性全身性疼痛(intermittent psychological stress-induced generalized pain:IPGP)モデルを採用した.AcGPモデルでは,腓腹筋への片側反復酸注入により長期にわたる機械性痛覚閾値の上昇が誘発された.二次リンパ臓器である脾臓に着目し,AcGPマウス由来の脾細胞を摘出・単離し,未処置のレシピエントマウスに静脈内投与すると,ドナーマウス同様に疼痛様行動が生じることを明らかにし,その責任細胞の一種としてCD4陽性T細胞を見出した.脾臓は交感神経に直接支配されているため,次に我々は痛みの発生や維持にアドレナリン受容体が必要かについて解析した.選択的β2遮断薬であるブトキサミンの投与は,AcGPマウスにおける疼痛様行動の発生を阻止したが,維持には影響を与えなかった.さらに,ドナーであるAcGPマウスにβ2遮断薬を前投与しておくと,AcGP脾細胞養子移植による疼痛惹起が再現されなかった.さらに,別のFMモデルであるIPGPモデルを用いることでも交感神経系および脾臓の重要性についての知見を得た.これらの結果から,FM病態では,交感神経系β2シグナル伝達が身体的/心理的ストレスによって亢進し,それに反応して活性化した脾臓の免疫系細胞が痛みの形成と維持に重要な役割を果たしていることが明らかとなり,病態メカニズムの解明には脳-脾臓連関の理解が重要であることが示された.