日本薬理学雑誌
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特集 生体の老化・がん化における代謝制御の分子基盤と創薬展望
代謝に着目した細胞老化の理解と治療への展開
小堀 良太中野 泰博隈本 宗一郎城村 由和
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2025 年 160 巻 4 号 p. 256-260

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抄録

生体の老化は,がんや2型糖尿病をはじめとする様々な加齢性疾患のリスクファクターとなる.生体の老化は多種多様な代謝変化を伴うことから,老化研究と代謝研究は結び付けられてきた.例えば,加齢に伴う生体の慢性炎症やDNA損傷の蓄積により,細胞はNADの減少やミトコンドリアの機能不全などを引き起こし,不可逆的に細胞増殖を停止した細胞(老化細胞)となる.老化細胞は臓器・組織内に蓄積し,正常細胞とは異なる代謝変化を示し,炎症性サイトカイン・ケモカインなどの生理活性因子を過剰分泌する表現型(senescence-associated secretory phenotype:SASP)をはじめとした特徴的な形質を発現する.加齢性疾患の病巣には老化細胞の蓄積が確認されており,SASPをはじめとした特徴的な形質が加齢性疾患の病態に関与していると考えられている.また近年では,アポトーシス抵抗性に代表される老化細胞の特性に着目し,それらを薬剤で阻害することで,老化細胞を生体内から除去する研究が盛んに行われている.これまでに実際,老化細胞除去により,加齢に伴う表現型の改善が実験的に証明されてきた.本稿では,加齢に伴う細胞の代謝変化がいかに細胞老化を誘導し,蓄積した老化細胞のどのような代謝特性が生体に影響を与えているかを概説する.また,最近われわれが見出した,グルタミノリシス律速酵素GLS1の薬理的阻害による老化細胞除去を中心に,老化細胞をターゲットにした創薬展望についても概説する.

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