日本薬理学雑誌
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実験技術
アルツハイマー病のin vivoイメージング技術
岡村 信行中山(直野) 留美原田 龍一
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2025 年 160 巻 6 号 p. 398-403

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抄録

アルツハイマー病(AD)の治療薬として抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬が承認されたことで,ADの根本的治療への道が開かれつつある.治療薬開発プロセスにおいては,適切な被験者選定および治療効果の客観的評価のため,脳内病変の評価が不可欠である.このような目的において,ポジトロン断層法(PET)を用いたin vivoイメージングは,中核的役割を担っている.近年では,脳内のAD病変を非侵襲的に可視化するアミロイドPET薬剤やタウPET薬剤の臨床実装が進みつつあり,また神経炎症を計測する新たなPET薬剤の開発も進んでいる.一方,放射性同位体を用いないin vivoイメージング技術として注目されているのが,近赤外蛍光(NIRF)イメージングである.分光学的窓(optical window)と呼ばれる650~900 nmの波長域の近赤外光は,可視光に比べて生体組織による吸収が少なく,NIRFを発するプローブを用いることで,その生体内分布を非侵襲的に可視化できる.外科領域ではインドシアニングリーン(ICG)が非特異的NIRFプローブとして利用されているが,AD病変を可視化するNIRFプローブはまだ臨床応用に至っていない.Aβを画像化するNIRFプローブには,電子供与基と電子受容基がπ共役系で連結した低分子化合物が用いられ,Aβへの高い結合親和性と選択性,脳血液関門透過性,および650 nm以上の励起・蛍光波長を有することが求められる.上記条件を満たすNIRFプローブ候補化合物が多数開発されており,動物実験用途では実用的なレベルに達している.さらに近年では,デュアルエミッション化によって,複数の標的を識別可能とするマルチターゲット蛍光イメージングプローブの開発も進んでおり,多標的のin vivo同時計測が期待されている.

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