日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬オザニモド(ゼポジア®)の薬理学的特性と臨床効果
岩田 博司, 内川 葉子
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2026 年 161 巻 1 号 p. 45-54

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要約

オザニモド塩酸塩(製品名:「ゼポジア®カプセルスターターパック」,「ゼポジア®カプセル0.92 mg」,一般名:オザニモド塩酸塩,以下オザニモド)は,スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体に作用する,経口投与が可能な受容体調節薬であり,S1P受容体の5種類のサブタイプ(S1P1,S1P2,S1P3,S1P4及びS1P5)のうちS1P1受容体及びS1P5受容体に高い親和性で選択的に結合する.オザニモドがS1P1受容体に結合し受容体の活性化が生じると,S1P1受容体への作動作用を介してリンパ球等の細胞表面に発現するS1P1受容体の内在化が誘導されるため,機能的なS1P1受容体拮抗薬として作用する.これらの作用により,自己免疫疾患である潰瘍性大腸炎の病理学的変化が改善すると考えられる.国内第Ⅱ/Ⅲ相試験(RPC01-3103試験)で,中等症から重症の日本人潰瘍性大腸炎患者を対象に本剤の有効性及び安全性が確認された.本邦では2024年12月に既存治療で効果不十分な中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療薬として,厚生労働省より製造販売承認を取得し,2025年3月に発売された.潰瘍性大腸炎に対する既存の治療法では,臨床的に意義のある治療効果が認められている一方で,中等症から重症の潰瘍性大腸炎患者に対する治療薬には,有効性,安全性,及び投与経路にそれぞれ一長一短があり,すべてを満たした治療薬はこれまでに存在しない.オザニモドは,中等症から重症の潰瘍性大腸炎患者に対して,これまでと全く異なる新規作用機序で潰瘍性大腸炎の臨床症状と粘膜損傷等の器質的改善を含む継続的な高い有効性を有し,安全性プロファイルが良好であることから,服薬コンプライアンスが高く長期使用が可能な利便性の良い経口治療薬であり,本剤を潰瘍性大腸炎治療の新たな選択肢として提供できることは,臨床的にも意義が高いと考える.

Abstract

Ozanimod hydrochloride (Product name: ZEPOZIA® Capsule Starter Pack, ZEPOZIA® Capsules 0.92 mg; Nonproprietary name: ozanimod hydrochloride, hereinafter referred to as ozanimod) is an orally available receptor modulator that acts on the sphingosine 1-phosphate (S1P) receptor and selectively binds with high affinity to S1P1 and S1P5 receptors. Following binding to and activation of S1P1 receptors, ozanimod acts as a functional S1P1 receptor antagonist by inducing internalization of S1P1 receptors expressed on the surface of cells such as lymphocytes through agonism of S1P1 receptors. These effects may ameliorate the pathologic changes of the autoimmune disease ulcerative colitis (UC). The Japanese phase II/III study (Study RPC01-3103) demonstrated the efficacy and safety of this drug in Japanese patients with moderate to severe ulcerative colitis. In Japan, it was approved by the Ministry of Health, Labour and Welfare (MHLW) in December 2024 for the treatment of moderate to severe UC in patients who have had an inadequate response to conventional therapies, and was launched in March 2025. Existing UC treatments show significant therapeutic effects, but medications for moderate to severe UC have respective advantages and disadvantages in efficacy, safety, and administration routes. No treatment meets all criteria. Ozanimod, with a novel mechanism, offers sustained high efficacy in improving clinical symptoms and mucosal damage in moderate to severe UC patients. It has a favorable safety profile, high medication compliance, and is a convenient oral treatment for long-term use. Thus, providing Ozanimod as a new UC treatment option is of high clinical significance.

1.  はじめに

潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis)は免疫介在性の炎症性腸疾患のひとつであり,主に大腸粘膜を直腸から連続性に侵し,しばしばびらんや潰瘍を形成するびまん性非特異性炎症である.症状は,主に,血便,粘血便,下痢あるいは血性下痢を呈するが,病変範囲と重症度によって左右される.軽症例では血便を伴わないが,重症化すれば,水様性下痢と出血が混じり,滲出液と粘液に血液が混じった状態となる.他の症状としては腹痛,発熱,食欲不振,体重減少,貧血などが加わることも多い.さらに関節炎,虹彩炎,膵炎,皮膚症状(結節性紅斑,壊疽性膿皮症など)などの腸管外合併症を伴うことも少なくない.多くの患者は再燃と寛解を繰り返すことから長期間の医学管理が必要となる1).

潰瘍性大腸炎の治療は,重症度や罹患範囲,QOLの状態などを考慮して,活動期には寛解導入療法を実施し,寛解導入後も再燃を予防するため寛解維持療法を実施する.既存治療の中心は5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤とステロイド剤である.劇症化した患者では,ステロイド大量静注,タクロリムス,シクロスポリン,インフリキシマブの使用を考慮し,難治性の患者ではアザチオプリン/6-メルカプトプリン,タクロリムス,生物製剤,ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬,血球成分除去療法などの使用を考慮する.劇症患者及び難治患者のいずれも手術の適応を検討する.また,長期予後改善の観点から,粘膜治癒,さらには組織学的寛解を目指すtreat to target戦略が提唱されている2).

既存の治療法では,臨床的に意義のある治療効果が認められている一方で,有効性の欠如による治療中止の割合が高い3–5).特に生物製剤には,注射部位反応及び免疫原性による効果の減弱などの問題がある.また,既存の治療法による治療パターンとして,有効性の欠如や投与経路・利便性の観点,安全性の問題で薬剤間の切り替えが生じる頻度の高さを指摘する文献もある6).このように,中等症から重症の潰瘍性大腸炎患者に対する治療薬には,有効性,安全性及び投与経路にそれぞれ一長一短があり,すべてを満たした治療薬はこれまでに存在しない.

オザニモドは,ビアリール骨格を有するオキサジアゾール系低分子化合物であり,S1P1とS1P5に対して作用する経口投与が可能な調節薬である.S1Pシグナル伝達は複数の免疫機能に関与している.炎症性腸疾患のような免疫介在性の疾患では,その治療薬としてS1P受容体調節薬を利用できる可能性が提唱されてきた.オザニモドが治療効果を示す機序は,オザニモドがリンパ球をリンパ組織内に滞留させ,腸などの炎症部位へのリンパ球の遊走を抑制することに関与していると考えられる.潰瘍性大腸炎は免疫介在性の炎症性疾患であるため,リンパ球をリンパ組織に滞留させることができれば,炎症性細胞の更なる動員や炎症性サイトカインの局所的な放出を防ぎ,結腸粘膜が継続的に損傷する状況を改善できると考えられる.これらの炎症反応を軽減させることで,疾患活動性を低下させ,粘膜を治癒させることができると期待される.

オザニモドは,日本人の中等症又は重症の活動性潰瘍性大腸炎患者を対象として,0.92 mgの経口投与により,臨床的及び内視鏡学的に高い治療効果が得られ,かつその治療効果は長期にわたり持続するものと期待される.また,オザニモドは,1日1回,1カプセルを経口投与する製剤であり,かつ長期投与において用量を調節する必要がないことから,その利便性は高いと考えられる.

2.  薬理学的特性

 1)オザニモドの作用機序

オザニモドの作用機序の模式図を図1に示す7).ベドリズマブを除く生物製剤やJAK阻害薬は腸管粘膜固有層の病巣付近での免疫細胞に作用する一方,ベドリズマブやカロテグラストメチルはその少し上流で作用し,血管から腸管粘膜固有層の病巣付近へのT細胞の浸潤を阻害する.一方でオザニモドは,S1P受容体に作用する経口投与可能な受容体調節薬であり,S1P1受容体及びS1P5受容体に選択的に結合する.オザニモドがS1P1受容体に結合し受容体の活性化が生じると,S1P1受容体への作動作用を介して細胞表面に発現するS1P1受容体の内在化及び分解が誘導され,S1P1受容体拮抗薬として作用する.その結果,リンパ球がリンパ組織と循環血液の間に存在するS1P濃度勾配を感知することができなくなるため,リンパ球が末梢リンパ組織内に保持され,循環血中のリンパ球数が減少する.これらの作用により,自己免疫疾患である潰瘍性大腸炎の病理学的変化が改善すると考えられる8–10).

図1 オザニモドの作用部位・作用機序

オザニモドは,S1P受容体に作用する経口投与可能な受容体調節薬であり,S1P1受容体及びS1P5受容体に選択的に結合する.オザニモドがリンパ球表面に発現するS1P1受容体に結合すると,S1P1受容体の内在化及び分解が誘導される.リンパ球の末梢リンパ器官からの遊走は,リンパ組織と循環血液の間に存在するS1P濃度勾配に依存するため,S1Pを感知できないリンパ球は末梢リンパ器官内に留まる.リンパ球の末梢リンパ器官からの遊走が抑制されることで,循環血中のリンパ球数が低下し,炎症部位に集まるリンパ球数が抑制される.

循環血中の平均リンパ球数を減少させるという点では血球成分除去療法に近い効果であるように見える.しかし,オザニモドは獲得免疫系のリンパ球であるT細胞やB細胞を減少させるが,自然免疫系のリンパ球であるNK細胞やNKT細胞,及び単球を減少させないことが示されている11,12).また,オザニモド投与によりCD4陽性T細胞の減少量はCD8陽性T細胞の減少量よりも大きく,セントラルメモリーT細胞の減少量はエフェクターメモリーT細胞の減少量よりも大きい.このように,オザニモドは末梢循環血中の特定の白血球サブポピュレーションを減少させる.これらの知見から,オザニモドを投与しても,免疫監視機構に必要な自然免疫応答の重要な要素を維持しつつ,病巣部位での炎症反応を軽減する効果が期待できる.

S1Pシグナル伝達は複数の免疫機能に関与している.大腸炎の非臨床モデルにおいて,S1P1受容体又はS1P1及びS1P5受容体を介した作用により,循環血中及び結腸のリンパ球数の減少と同時に,大腸炎の症状及び病理組織学的所見が改善したことが報告されている13).これらの報告では,非臨床モデルでの有効性がS1P1受容体を介する薬理作用によることが示されているが,S1P5受容体に対する作動作用も有効性に寄与する可能性がある.S1P1及びS1P5受容体に対する作動作用は,ニューロン及びオリゴデンドロサイト前駆細胞の生存及び血液脳関門を含む血管バリア維持に関与することも示されている.このように,S1P1及びS1P5受容体作動作用は,局所組織の細胞及び循環血中の炎症系細胞に影響し,炎症応答を制御すると考えられている.

 2)スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体に対するオザニモドの作用(in vitro薬理試験)

オザニモドのin vitroでの効力及び固有活性は,遺伝子組換えS1P受容体を発現させてクローン化したチャイニーズ‍ハムスター卵巣(CHO)細胞由来の調製膜画分を用いて,[35S]‍GTPγS結合を機能アッセイの評価指標として解析‍した.オザニモドは,ヒトS1P1及びS1P5受容体を発現させたCHO細胞由来の調製膜画分において,強力な[35S]‍GTPγS結合誘導活性を示した.ヒトS1P受容体においては,他のS1P受容体サブタイプ(S1P2~S1P4受容体)に比べS1P1及びS1P5受容体に選択的であることが示された(表1).

表1ヒトS1P受容体に対する[35S]‍GTPγS結合誘導活性評価

オザニモドのin vitroでの効力及び固有活性を,遺伝子組換えS1P受容体を発現させてクローン化したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞由来の調製膜画分を用いて,[35S]‍GTPγS結合を機能アッセイの評価指標として解析した.各化合物のS1P1~S1P5受容体における作動作用の濃度反応性を評価し,最大反応の50%となる濃度(EC50)を効力,濃度反応曲線の最大値と最小値の差を作動作用の大きさを示す固有活性として算出した.いずれの試験でも,内因性リガンドであるS1Pを陽性対照とし,S1Pの固有活性を基準としてデータを標準化した.オザニモドのS1P1及びS1P5受容体に対するEC50値は,それぞれ1.03 ± 0.16 nM及び10.66 ± 0.29 nMであり,オザニモドはS1P2~S1P4受容体に比べS1P1及びS1P5受容体に対し選択的だった.また,S1P1受容体に対する選択性はS1P5受容体の約10倍だった.なお,S1P1及びS1P5受容体に対する固有活性はS1Pの固有活性に対し,それぞれ91.9 ± 1.9%及び97.4 ± 5.0%だった.

げっ歯類及びサルのS1P1受容体に対するオザニモドの効力は,ヒトS1P1受容体と類似していた.オザニモドのサルS1P5受容体に対する効力及び活性順位はヒトS1P5受容体と同様であったが,S1P5受容体に対するオザニモドの効力は,ヒト及びサルのS1P5受容体に比べてマウス及びラットで低かった.この違いは,ヒト及びサルに比べてマウス及びラットのS1P5受容体アミノ酸配列の相同性が低いことに関連すると考えられた.

次に,ヒトS1P1及びS1P5受容体を安定的に発現させたCHO細胞由来の調製膜画分を用いて飽和結合試験と競合試験を実施し,[3H]‍-オザニモドの解離定数(KD)及びオザニモドの[3H]‍-オザニモドの結合に対する50%阻害濃度(IC50)値を検討した.飽和結合解析ではオザニモドのKD値はS1P1受容体で1.62 nM,S1P5受容体で6.56 nMと算出された.これらのKD値とIC50値から阻害定数(Ki)値を算出したところ,S1P1受容体に対するKi値はサブnMの範囲内であることが確認された.S1P5受容体に対するKi値はS1P1受容体よりも大きく1~40 nMの範囲内であった.なお,S1Pは[3H]‍-オザニモドと競合的に結合したことから,オザニモドはS1P1及びS1P5受容体のオルソステリック結合部位(内因性リガンド結合部位)に結合することが示唆された.さらに,S1P1受容体発現細胞をオザニモドで処理し,S1P1受容体内在化誘導能を評価した.オザニモドはS1P1受容体内在化を誘導し,効力は試験化合物の曝露時間の長さに伴い増大する傾向が認められた.一方,S1P5受容体に対しては,オザニモドは60分間インキュベート直後又は化合物のウォッシュアウトから23時間の評価で内在化を誘導しなかった.

 3)炎症性腸疾患(IBD)のげっ歯類モデルにおけるオザニモドの作用(in vivo薬理試験)

広く使用されている2種類のげっ歯類IBDモデルである重症複合免疫不全(SCID)マウスのナイーブT細胞養子移入モデル及びラットのTNBS誘発大腸炎モデルを用いてオザニモドの有効性を評価した.ドナーマウスからのナイーブ分化抗原群(CD)4陽性CD45RBhigh Tリンパ球のSCIDマウスへの養子移入では,移入後数週間で結腸炎症が生じる.TNBSモデルでは,ハプテンを直腸内投与することで粘膜免疫応答が開始され,ヘルパーT細胞(Th)介在性免疫応答によって大腸炎を誘発する.

マウスナイーブT細胞養子移入モデルを用いた試験では,マウスの循環血中リンパ球数の減少に基づく推定有効用量(1 mg/kg)を参考に,オザニモドを1.2 mg/kgで反復経口投与した.オザニモドを投与したマウスでは,結腸重量対長さ比が溶媒投与マウスに比較して統計学的有意に71%減少し,陽性対照のシクロスポリンA及びハムスター抗マウス腫瘍壊死因子(TNF)抗体(TN3-19.12)(48%~55%の減少)よりも高い効果を示した.オザニモドを投与したマウスでは,最終投与24時間後の解析で循環血中リンパ球数の減少が認められたことから,S1P1受容体を介する薬理作用であることが示された.循環血中リンパ球数の減少は41%であり,正常ラットでの最終投与24時間後の値と同等であった.組織学的解析による炎症,腺消失,過形成,好中球スコア及び各組織学的スコアの解析では,いずれもオザニモド及び陽性対照で改善した.また,オザニモド投与により,養子移入したSCIDマウスの遠位結腸粘膜厚が減少し,非移入及び陽性対照のシクロスポリンA並びにTN3-19.12と同程度に粘膜肥厚が改善することが示された.結腸ホモジネートでの評価では,炎症性メディエーター[インターフェロンガンマ(IFN-γ),インターロイキン(IL)‑10,IL-12 p70,IL-1β,IL-6,IL-8及びTNF-α]が用量依存的に減少することが示された(図2,表2).

図2 マウスナイーブT細胞養子移入モデルにおけるオザニモドの有効性

A:結腸重量対長さ比に対する作用,B:最終投与24時間後の循環血中リンパ球数.雌性SCIDマウスに,雌性BALB/cマウスから単離した約4×105個の脾臓由来CD4陽性CD45RBhigh Tリンパ球を腹腔内投与した.Day 21に,Day 0と比較した体重減少に基づいてマウスを10匹/群となるように無作為に割り付けた.Day 21より溶媒(5%DMSO/5%Tween20)又は1.2 mg/kgのオザニモドを1日1回で経口投与を開始し,21日間反復投与した.陽性対照は,シクロスポリン[50 mg/kg,1%カルボキシメチルセルロース(CMC)で調製]を用い,1日1回経口投与した.また,同じく陽性対照として,ハムスター抗マウス腫瘍壊死因子(TNF)抗体(TN3-19.12)をマウスあたり300 μgで週1回腹腔内投与した.マウスの体重及び一般状態は隔日で評価した.最終投与の約24時間後に循環血中のリンパ球数測定のために心臓穿刺により血液試料を採取し,結腸は長さ及び湿重量を測定するために切除した.なお本試験では,マウスの循環血中リンパ球数の減少に基づく推定有効用量(1 mg/kg)を参考に,オザニモドを1.2 mg/kgで反復経口投与した.

表2オザニモド21日間投与後の結腸ホモジネート中サイトカイン量

ラット2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)誘発大腸炎モデルを用いた試験では,ラットの循環血中リンパ球数の減少に基づく推定有効用量(0.3 mg/kg)を参考に,オザニモド0.1,0.3及び1 mg/kgを,反復経口投与した.オザニモドの投与により,溶媒対照群で認められたTNBSによる体重減少は用量依存的に抑制された一方,陽性対照であるプレドニゾロン投与群の体重減少は溶媒対照群とは差がなかった.オザニモドの1 mg/kg投与群では,体重の維持作用に加えて,溶媒対照群と比較して自発行動の改善も認められた.さらに,オザニモドの1 mg/kg投与群では,TNBSで誘発される結腸重量対長さ比の増加を約70%,結腸の病理組織学的スコアの増加を54%に減少させた.オザニモドの最高用量(1 mg/kg/day)では,結腸重量対長さ比及び病理組織学的スコアの改善程度はプレドニゾロン投与群(10 mg/kg/day)と同程度であった.

これらのマウスで認められた結腸組織での病理組織学的変化と組織中サイトカインレベルの改善は,げっ歯類IBDモデルにおいて組織学的及び生化学的な観点でオザニモドが有効であることを示している.また,IBDモデルに対するオザニモドの有効性は,循環血中リンパ球数の減少とも関連しており,このことはS1P1受容体を介する作用機序及びUC患者を対象とした臨床試験での臨床所見とも一致した(図3).

図3 ラットTNBS誘発大腸炎モデルにおけるオザニモドの有効性

A:体重推移,B:結腸密度,C:結腸の病理組織学的スコア,D:循環血中リンパ球(CD4+T細胞)の割合.雄性Sprague Dawleyラットを24時間絶食後に体重測定し,無作為に8匹/群になるよう群分けした後,麻酔下でTNBS(5.5%v/v ピクリルスルホン酸,50%v/vエタノール)64 mg/kgを直腸から結腸内に注入し炎症を誘導した.TNBS注入2時間後から,各群のラットにそれぞれ溶媒(5%DMSO/5%Tween20),オザニモド0.1,0.3及び1 mg/kg若しくは水に溶解したプレドニゾロン10 mg/kg(陽性対照)を,1日1回7日間反復経口投与した.本試験では,ラットの循環血中リンパ球数の減少に基づく推定有効用量(0.3 mg/kg)を参考に,オザニモドを0.3 mg/kgを含む範囲でラットに投与した.体重,一般状態及び糞粒については毎日評価した.最終投与の約24時間後にラットを安楽死させ,結腸を切除した後,結腸の長さ,結腸内容物を除去した後の重量及び壁厚を測定した.結腸の病理組織学的スコアは,ラットごとに癒着及び狭窄の数,潰瘍の数及び大きさ並びに結腸壁の厚さを評価することにより算出した.

 4)循環血中リンパ球数に関連するオザニモドの薬物動態(PK)及び薬力学(PD)の統合解析

循環血中リンパ球数の減少は,S1P1受容体作動作用に基づくS1P1受容体内在化の薬力学(PD)マーカーである.オザニモドをマウス及びラットに単回経口投与した後,血液検体を経時的に採取し,PK/PDの関係性を検討した.マウスにオザニモド(0.5及び2 mg/kg)を経口投与したところ,一過性で可逆的かつ用量に応じた循環血中リンパ球数の減少が認められた.マウスでも同様の試験[オザニモド(0.2及び0.6 mg/kg),単回経口投与]を実施し,ラットと同様のPK/PDの関係性が確認された.総活性薬物(投与したオザニモド未変化体及び活性代謝物)の投与後0時間から24時間までの血漿中濃度時間曲線下面積(AUC(0-24 h))と循環血中リンパ球数減少の程度の間には,シグモイド型のPK/PD関係が認められたことから,PD作用の誘導には,血漿中総活性薬物濃度が関連することが示唆された.また,この関連性は非臨床薬理試験及び毒性試験に使用したいずれの動物種(マウス,ラット,イヌ及びサル)においても認められたことから,各動物種に共通したS1P1受容体を介する薬理作用が示された.

3.  臨床成績

 1)薬物動態

(1) 血中濃度と薬物動態

日本人健康成人33例にオザニモド0.23 mgを低脂肪食摂取後に単回経口投与した時のオザニモド及び主要活性代謝物CC112273のPKパラメータを表3に,オザニモド0.46,0.92,1.84 mgを4~10日間漸増期間を設け1日1回,28日間反復経口投与したときのオザニモド及びCC112273のPKパラメータを表4に示す.

表3オザニモド0.23 mgを単回経口投与したときの薬物動態パラメータ

表4オザニモド0.46,0.92,1.84 mgを1日1回28日間反復経口投与したときの薬物動態パラメータ

母集団薬物動態解析から推定された日本人の潰瘍性大腸炎患者にオザニモド0.92 mgを1日1回反復経口投与した時の定常状態におけるオザニモド及びCC112273のPKパラメータを表5に示す.

表5母集団薬物動態解析から推定された日本人の潰瘍性大腸炎患者にオザニモド0.92 mg 1日1回反復経口投与したときの定常状態における薬物動態パラメータ

健康成人24例にオザニモド0.92 mgを高脂肪食又は低脂肪食摂取後に単回経口投与したとき,空腹時と比較してオザニモドのCmax及びAUCに食事の影響は認められなかった.高脂肪食又は低脂肪食摂取後の空腹時投与に対するCmax及AUC(INF)の帰化平均値の90%信頼区間はいずれも同等性の許容域である0.80~1.25の範囲内であった.

(2) 肝機能障害患者における薬物動態

軽度(Child-Pugh分類A)及び中等度(Child-Pugh分類‍B)の肝機能障害被験者(各8例)並びに肝機能正常被験者(10例)にオザニモドを投与1~4日目に0.23 mg,5~7日目に0.46 mg,8日目に0.92 mgを1日1回反復経口投与したとき,肝機能障害が投与8日目のオザニモド,CC112273及びCC1084037のPKに及ぼす影響を表6に示す.

表6肝機能障害が薬物動態に及ぼす影響

(3) CYP基質との併用

オザニモドは複数の生体内変換経路を介して広範に代謝され,一部CYP3A4により代謝される.主要活性代謝物CC112273はMAO-Bにより生成し,その代謝にはCYP2C8が関与する.オザニモドはP-gpの基質である.薬物相互作用試験の結果を表7に示す.

表7併用薬の存在下におけるオザニモド及び活性代謝物の薬物動態パラメータの変化

(4) 心拍数に対する影響

健康成人にオザニモドを1~4日目に0.23 mg,5~7日目に0.46 mg,8日目以降に0.92 mgを1日1回反復経口投与したとき,投与1日目,5日目,8日目の心拍数の推移を図4に示す.

図4 健康成人にオザニモドを1~4日目に0.23 mg,5~7日目に0.46 mg,8日目以降に0.92 mgを1日1回反復経口投与したときの投与1日目,5日目,8日目の心拍数の推移

 2)薬力学

健康成人にオザニモド0.276 mg,0.92 mg及び1.38 mgを1日1回28日間投与後のリンパ球数のベースラインからの減少率の中央値は,それぞれ33.6%,65.2%及び68%であった.0.92 mg又は1.38 mgを28日間投与した被験者の多くでは,リンパ球数は最終投与後72時間以内に基準範囲に回復した.0.92 mg及び1.38 mgの両用量で,ナイーブT細胞,セントラルメモリーT細胞,エフェクターメモリーT細胞及びB細胞の減少,0.92 mgの用量のみでTEMRA細胞の減少が見られ,いずれの用量でもNK細胞数に対する影響はほとんど認められなかった(表8,表9).

表8オザニモドを28日間反復投与したときの末梢血中のリンパ球数のベースラインからの変化率

表9オザニモド1.38 mgを28日間反復投与したときの末梢血中のリンパ球サブセットに及ぼす影響

 3)臨床第Ⅱ/Ⅲ相試験(RPC01-3103試験 J-True North)

臨床第Ⅱ/Ⅲ相試験(RPC01-3103試験)は,中等症又は重症の活動性UC患者を対象として国内で実施した.本試験は導入期(12週間)及び維持期(40週間)で,オザニモド2用量(0.46 mg QD及び0.92 mg QD)の有効性における用量反応性を評価し,オザニモドのプラセボと比較した有効性を12週時点の臨床的改善によって検証し,オープンラベル継続投与期(OLE期)で長期安全性を評価した.

対象患者は,治験薬初回投与の3ヵ月以上前に潰瘍性大腸炎と診断され,疾患が活動期(Mayoスコアが6~12ポイントで,内視鏡所見サブスコアが2ポイント以上,直腸出血スコアが1ポイント以上,かつ排便回数スコアが1ポイント以上の場合と定義)であり,5-ASA又はコルチコステロイドによる治療歴を有する患者とした.また,生物製剤治療歴あり/なしの両方の患者を組み入れた.

導入期では,オザニモド0.92 mg群,0.46 mg群又はプラセボ群のいずれかに1:1:1の比率でランダムに被験者を割り付けた.導入期を完了し,12週時点で臨床的改善が認められた被験者は維持期へ移行した.12週時点でノンレスポンダーと判定された被験者,維持期への移行後に疾患が再燃した被験者及び維持期を完了して臨床的改善を維持する被験者は,OLE期に移行することができた.

本試験の主要評価項目は投与12週時点の完全Mayoスコアによる臨床的改善割合であり,主な副次的評価項目は,投与12週及び52週時点の臨床的寛解,内視鏡的改善,粘膜治癒,投与52週時点の臨床的改善の割合であった.

治験薬初回投与の3ヵ月以上前に潰瘍性大腸炎と診断された,18歳以上75歳以下の日本人の男女で,アミノサリチル酸又はコルチコステロイドによる治療歴を有する患者を組み入れた.臨床的に重要な心血管系疾患の既往歴若しくは現症,糖尿病(1型糖尿病,コントロール不良の2型糖尿病,又は重大な合併症を伴う糖尿病)の既往歴又はぶどう膜炎若しくは黄斑浮腫の既往歴を有する患者は除外した.

2つの実薬群のいずれかにランダム化された被験者には,導入期の開始7日間は用量漸増(オザニモド0.23 mgを4日間投与後,0.46 mgを3日間投与)で投与した.8日目以降は,割り付けられた用量(0.46 mg又は0.92 mg)のオザニモドを12週まで,11週間投与した.12週時点でノンレスポンダーと判定された被験者は,OLE期に移行できた.導入期の12週時点で臨床的改善が認められた被験者は,40週間の維持期へ移行し,導入期と同じ用量の治験薬を引き続き投与した.導入期を完了して12週時点でノンレスポンダーと判定された被験者,維持期を完了して臨床的改善を維持している被験者,又は維持期への移行後に疾患再燃した被験者は,OLE期に移行し,全被験者にオザニモド0.92 mgをQDで経口投与した.ランダム化された被験者は198例で,内訳はプラセボ群65例,オザニモド0.46 mg群68例,オザニモド0.92 mg群65例であった.

有効性:

主要評価項目である12週時点で完全Mayoスコアに基づく臨床的改善が認められた被験者の割合は,オザニモド0.92 mg群(61.5%)の方がプラセボ群(32.3%)よりも統計学的に有意に高く(P‍=‍0.0006,層別化CMH検定),プラセボに対する優越性が検証された.

12週時点で臨床的寛解が認められた被験者の割合,内視鏡的改善が認められた被験者の割合,及び粘膜治癒が認められた被験者の割合の結果は,主要評価項目の結果と一致していた.52週時点で臨床的寛解が認められた被験者の割合,52週時点で臨床的改善が認められた被験者の割合,52週時点で内視鏡的改善が認められた被験者の割合,52週時点で粘膜治癒が認められた被験者の割合及び52週時点でステロイドフリー寛解を達成した被験者の割合の結果から,オザニモド0.92 mgを投与した時の12週時点での有効性が52週時点でも維持されていることが示された.

安全性:

導入期及び維持期では,有害事象の発現割合は,プラセボ群66.2%(43/65例),オザニモド0.92 mg群78.5%(51/65例).であった.オザニモド群での発現割合がプラセボ群よりも高かった有害事象は,上咽頭炎,発熱,頭痛,潰瘍性大腸炎及びγ-グルタミルトランスフェラーゼ増加であった.重篤な有害事象の発現割合はオザニモド,0.92 mg群(7.7%,5/65例),プラセボ群(3.1%,2/65例)であった.導入期で認められた重篤な有害事象は,潰瘍性大腸炎(オザニモド0.92 mg群3例)及び双極性障害(オザニモド0.92 mg群1例)であった.維持期で認められた重篤な有害事象は,オザニモド0.92 mg群のCOVID-19(1例)であった.

臨床検査:

導入期及び維持期でオザニモドを投与された被験者で,リンパ球数は投与2週時点で速やかに減少し,投与5週時点付近で一定となった.これは,本剤の薬理作用による循環リンパ球数の減少と一致するものである.血液学的検査値に顕著な異常は認められなかった(IFp23).投与12週時におけるリンパ球数のベースラインからの平均減少率はオザニモド0.92 mg群で約61%,投与52週時では約61%であった.

肝機能検査値(AST,ALT,総ビリルビン)のベースラインからの変化量の平均値は,本剤群でプラセボ群と比べて大きかった.投与期間中,ALT又はASTのULNの3倍超への上昇とビリルビンのULNの2倍超への上昇が同時に認められた被験者はいなかった.

QT間隔:

投与52週時までに500 msec超又はベースラインから60 msec超のQTcF延長を示した被験者はオザニモド0.92 mg群では認められなかった.

4.  おわりに

潰瘍性大腸炎の患者には,働く世代の若い患者も多く,日常生活における症状のコントロールにかかる心理的,物理的負担は少なくない.既存の治療法では,有効性が得られない場合や,利便性,安全性,アドヒアランスの問題で薬剤間の切り替えが必要なケースもあり14),特に中等症から重症の患者に向けた新規作用機序の治療法開発が望まれてきた.

ゼポジア®はS1P1及びS1P5受容体に高親和性で結合し,リンパ球遊走の上流で作用することで,リンパ球を末梢リンパ組織内に保持し,リンパ球の体内循環を制御することにより病巣へのリンパ球の浸潤を阻害する,潰瘍性大腸炎に対する新規作用機序の治療薬である.ゼポジア®は,Zeposia®の製品名で,再発型多発性硬化症の成人患者及び中等症から重症の活動性潰瘍性大腸炎の患者に対する治療薬として,2020年以降,米国,欧州など多くの国で承認されており,世界中の潰瘍性大腸炎患者のQOL向上に貢献している.

利益相反

岩田 博司,内川 葉子(ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社)

文献
 
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