2026 年 161 巻 2 号 p. 115-122
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,全身の筋萎縮・筋力低下,構音障害,嚥下障害,呼吸筋麻痺等を呈する進行性の難治性神経変性疾患である.呼吸筋の麻痺による呼吸不全が主たる死亡原因で,人工呼吸器を装着しなければ発症後約2~5年以内に死に至る.メコバラミンは活性型ビタミンB12の一種であり,ホモシステインからメチオニンを合成するメチオニン合成酵素の補酵素として働くことにより,ALSにおけるホモシステイン誘発細胞死を抑制すると考えられる.1990年代より,厚生科学研究費補助金特定疾患対策研究事業の神経変性疾患に関する研究班において,高用量のメコバラミンがALS患者に対して臨床効果を示す可能性が示唆されたことより,臨床開発に着手した.第Ⅱ/Ⅲ相プラセボ対照二重盲検比較試験が実施されたが,主要評価項目を達成できなかった.この第Ⅱ/Ⅲ相の知見をもとに,ALS発症から治験開始日まで1年以内の患者集団を対象とした第Ⅲ相プラセボ対照二重盲検比較試験が徳島大学病院を中心に医師主導治験として実施された.この臨床試験では,主要評価項目である改訂ALS Functional Rating Scale合計点数低下の抑制から高用量メコバラミンの有効性が示され,安全性についても確認された.本剤は,この試験成績に基づき,2024年9月に「ALSにおける機能障害の進行抑制」の効能又は効果で製造販売承認を取得した.ALS治療の新たな選択肢として期待される.
Amyotrophic lateral sclerosis (ALS) is a progressive, intractable neurodegenerative disease characterized by generalized muscle atrophy and weakness, dysarthria, dysphagia, and respiratory muscle paralysis. Respiratory dysfunction due to muscle weakness is the primary cause of death; without mechanical ventilation, death typically occurs within 2 to 5 years after onset. Mecobalamin, an active form of vitamin B12, is thought to suppress homocysteine-induced neuronal cell death in ALS by acting as a coenzyme for methionine synthase, which catalyzes the conversion of homocysteine to methionine. Since the 1990s, research on neurodegenerative diseases supported by Japan’s Ministry of Health, Labour and Welfare has suggested that high-dose mecobalamin may confer clinical benefits in ALS. This led to the initiation of clinical development. A Phase II/III double-blind, placebo-controlled comparative trial was conducted, but did not meet its primary endpoint. Based on these trial findings, an investigator-initiated Phase III placebo-controlled, double-blind comparative trial was conducted primarily at Tokushima University Hospital, targeting patients who developed ALS within one year before starting the trial. The trial demonstrated the efficacy of high-dose mecobalamin in slowing the decline in the Revised ALS Functional Rating Scale total score, which was the primary endpoint. Safety was also confirmed. Based on these results, mecobalamin received regulatory approval in September 2024 for the indication “slowing the progression of functional impairment in ALS.” It is expected to offer a new treatment option for patients with ALS.
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は上位および下位運動ニューロンが障害される進行性の難治性神経変性疾患である.主症状は全身の線維束性収縮,筋萎縮,筋力低下,嚥下障害,構音障害,呼吸筋麻痺などである.呼吸筋の麻痺による呼吸不全が主たる死亡原因で,人工呼吸器を装着しなければ発症後約2~5年以内に死に至る.ALSの病態については,酸化ストレス,グルタミン酸神経毒性,ミトコンドリア機能不全,神経炎症など様々な仮説が提唱されており1),一例として,ホモシステインは神経変性に関わり,ALS患者において健康成人よりも血漿ホモシステイン濃度が高いことが報告されているが2),未だに不明な点が多いのが現状である.2009年度の全都道府県の特定疾患医療受給者数の調査によると,日本におけるALS発症率は2.2人/10万人/年,有病率は9.9人/10万人/年と推計されている3).ALSの発症率は40歳代以降に上昇し,60歳代から70歳代にピークを迎えると日本を含む世界各国のメタアナリシスで報告されている4).そのため,ALSの患者数は,日本の超高齢社会への突入に伴い増加すると考えられる.世界においても,ALS患者数は2015年から2040年にかけて1.69倍に増加すると報告されている5).
ALSに対する治療薬の開発が活性化する中,メコバラミンのドラッグリポジショニングが検討されてきた.メコバラミンは活性型ビタミンB12の一種である.エーザイ株式会社において合成・開発され,「メチコバール®注射液500 μg」として「末梢性神経障害」及び「ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血」の効能又は効果で承認・販売されている.メコバラミンはメチオニン合成酵素の補酵素として働き,生体内でホモシステインからメチオニンを合成する反応に関与している6).メコバラミンは他のビタミンB12と比べて血清中に最も多く含まれ,神経組織への移行性が良好である7).生化学的にメチル基転移反応によって核酸・タンパク質・脂質代謝を促進した結果,傷害を受けた神経組織を修復すると考えられる8).
1990年代より,厚生科学研究費補助金特定疾患対策研究事業の神経変性疾患に関する研究班において,ALS患者に対する高用量メコバラミンの臨床研究が実施された.メコバラミンの既承認用量(1回500 μg)の50~100倍量である1回25~50 mgのメコバラミン(シグマ社製)の筋肉内投与による短期及び長期試験の成績が報告され,高用量のメコバラミンがALS患者に対して臨床効果を示す可能性が示唆された.このような臨床研究結果を受け,エーザイ株式会社は高用量のメコバラミンがALS治療において有用な治療法の一つとなる可能性があると考え,臨床開発に着手した.
2004年より臨床第Ⅰ相試験(外国001試験9),外国002試験10))を実施し,2006年より実施した第Ⅱ/Ⅲ相プラセボ対照二重盲検比較試験(国内761試験)11,12)において,ALS患者を対象にメコバラミンの有効性及び安全性を検討した.また,国内761試験の継続投与試験として実施された国内762試験13)の結果も踏まえて,2015年5月に承認申請を行ったが,追加の検証試験が必要との指摘を受け,2016年3月に承認申請を取り下げた.
国内761試験11,12)の知見をもとに,2017年11月より,ALS発症から治験開始日まで1年以内の患者集団を対象とした第Ⅲ相プラセボ対照二重盲検比較試験(Japanese Early-stage Trial of high-dose methylcobalamin for ALS[JETALS試験]:国内763試験)14,15)が徳島大学病院を中心に医師主導治験として実施された.これらの試験成績に基づき,2024年9月に「筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制」の効能又は効果でメコバラミンの高用量製剤であるロゼバラミン®筋注用25 mgの製造販売承認を取得した.
上位及び下位運動神経の進行性の変性を特徴とし,ALSモデル動物と考えられているWobbler(wr/wr)マウス(10例/群)において,筋力低下等の身体症状の発症(最初に振戦が現れた時点)直後からメコバラミン(3 mg,30 mg/kg)又は媒体を4週間腹腔内投与した.前肢の握力測定は毎週行い,4週間の投与終了後,二頭筋重量を測定した.また,二頭筋の切片標本を作製して,NADH染色後に形態顕微鏡により有髄線維数を測定し,ニッスル染色により運動神経数を測定した.その結果,メコバラミン30 mg/kg群は媒体対照群に比べて前肢の握力低下を有意に抑制した(図1A)(P<0.01,経時型分散分析後Dunnett検定).また,メコバラミン30 mg/kg群は媒体対照群に比べて,投与4週間後の二頭筋重量(図1B)(P<0.01,一元配置分散分析後Dunnett検定)及び筋皮神経線維数(図1C)(P<0.05,一元配置分散分析後Dunnett検定)を有意に増加させた.

(A):メコバラミンの握力減少に対する効果,(B):メコバラミンの二頭筋重量に対する効果,(C):メコバラミンの筋皮神経線維数に対する効果.(文献18より転載)
マウス運動神経様細胞株NSC-34細胞を分化用培地で3~7日間培養して軸索伸長を示すNSC-34D細胞に分化させた後,ホモシステイン(5 mM)を24時間曝露した.NSC-34D細胞の培養液中に,ホモシステイン(5 mM)添加と同時又は2時間前にメコバラミン(0.01~10 μM)を加えて培養し,メコバラミンの保護効果を検討した.ホモシステイン添加24時間後に細胞を染色し,顕微鏡下,細胞染色と核の形態変化で細胞をネクローシス,アポトーシス,生細胞に分類しそれぞれの細胞数の割合を計算することで細胞死を計測した.その結果,メコバラミンはホモシステイン誘発アポトーシスを抑制することが示された(図2).ホモシステイン(5 mM)と同時又は2時間前にメコバラミン(0.01~10 μM)を加えて培養した際のそれぞれの50%阻害濃度(IC50)は,メコバラミン0.4 μM及び0.6 μMであった.また,ホモシステイン曝露により誘発されたカスパーゼ3/7活性の経時変化をApo-ONE® Homogeneous Caspase-3/7アッセイを用いて測定し,1,3,5,24時間後に0.01~10 μMメコバラミン各群と0 μMメコバラミン群を比較した.その結果,メコバラミン0.1 μM群は24 h/0 μMメコバラミン群に対して,メコバラミン1 μM群及び10 μM群は1,3,5,24 h/0 μMメコバラミン群に対して,カスパーゼ3/7活性化を有意に抑制したことから(いずれもP<0.05,分散分析後のFisherの最小有意差法又はTukey–Kramer法)(図3),メコバラミンは,ホモシステインによるカスパーゼ3/7活性化を抑制し,アポトーシスを抑制することが示唆された.

A,B:ホモシステイン添加と同時にメコバラミンを添加した.C,D:ホモシステイン添加の2時間前にメコバラミンを添加した.Hcy=ホモシステイン,MeCbl=メコバラミン.データは平均値±標準誤差を示す.*P<0.05は5 mM Hcy/0 μM MeCbl群に対して,#P<0.05は5 mM Hcy/0.01 μM MeCbl群に対する解析を示す(分散分析後のFisherの最小有意差法又はTukey–Kramer法).(文献18より転載)

A:ホモシステイン添加と同時にメコバラミンを添加した,B:ホモシステイン添加の2時間前にメコバラミンを添加した.Hcy=ホモシステイン,MeCbl=メコバラミン.データは平均値±標準誤差を示す.*P<0.05は24 h/0 μM MeCbl群に対して,#P<0.05は1,3,5,24 h/0 μM MeCbl群に対する解析を示す(分散分析後のFisherの最小有意差法又はTukey–Kramer法).(文献18より転載)
ALSに対するメコバラミンの作用機序の詳細は解明されていないが,活性型ビタミンB12であるメコバラミンはヒト生体内において,ホモシステインからメチオニンを合成するメチオニン合成酵素の補酵素として働き,葉酸及びアミノ酸代謝やDNAのメチル化等に寄与する6,8,18).メチオニンとアデノシンの縮合により生成されたS-アデノシルメチオニン(SAM)は種々のメチル化反応におけるメチル基供与体として働き,酸化ストレスによるタンパク質のダメージの修復時にもメチル基供与体として働く18).また,SAMは,ALS患者の赤血球において約半分に低下していることが報告されている19).メコバラミンの神経変性疾患に対する作用機序の詳細は不明であるが,SAMによるメチル化を介した細胞膜の性質変化によると示唆される.さらに,メコバラミンによる神経軸索伸展促進作用は,Erk1/2及びAktのリン酸化阻害薬で抑制されたが,SAM添加によりErk1/2及びAktのリン酸化が増加することから,メコバラミンはSAMを介してErk1/2及びAktのリン酸化を増加させて神経軸索を伸展すると考えられた20).また,ホモシステインは,血液中に含まれるアミノ酸の一つであるが,神経変性にかかわると考えられており,ALS患者で増えていることが報告されている2,21,22).マウス運動神経様細胞株NSC-34D細胞において,メコバラミンはホモシステイン誘発アポトーシス及びカスパーゼ3/7活性を抑制した17).メコバラミンはホモシステインからメチオニンを合成するメチオニン合成酵素の補酵素として働くことにより,ALSにおけるホモシステイン誘発細胞死を抑制すると考えられる(図4).

ALSFRS-Rは,ALS患者の日常生活機能を評価するために成された評価尺度.言語,嚥下,身の回りの動作,歩行など,ALS患者の四肢の運動機能(6項目),球機能(3項目),呼吸機能(3項目)の合計12項目からなり,それぞれ5段階(0:機能全廃~4:正常)で評価する.すべて正常の場合には48点となる.
●筋萎縮性側索硬化症重症度基準(厚生省特定疾患神経変性疾患調査研究班対象疾患「重症度基準」)24)重症度1度:一つの体肢の運動障害,または球麻痺による構音障害がみられるが,日常生活,就労に支障はない.
重症度2度:頸髄および腰仙髄領域(右上肢,右下肢,左上肢,左下肢:4部位),胸髄(体幹:1部位),脳神経領域(舌・顔面・口蓋・咽頭部:1部位)の6部位の筋肉のうち,いずれか1つまたは2つの部位の明らかな運動障害のため,生活上不自由があるが,日常生活,就労は独力で可能.
重症度3度:上記6部位の筋肉のうち3以上の部位の筋力低下のために,家事や就労などの社会的生活を維持できず,日常生活に介助を要する.
重症度4度:呼吸,嚥下,または座位保持のうちいずれかが不能となり,日常生活上全ての面で常に介助を要する.
重症度5度:寝たきりで,全面的に生命維持操作が必要である.
2)第Ⅱ/Ⅲ相試験および第Ⅲ相継続投与試験(国内761試験および762試験)11–13) ●試験デザイン本試験は,日本国内の51施設において実施された,多施設共同,プラセボ対照,二重盲検,並行群間比較の臨床試験である.対象は,発症後3年以内の孤発性または家族性ALS患者で,重症度1度または2度に該当する20歳以上の被験者373例であった.12週間の観察期(無投与)を経て適格性が確認された後,被験者をプラセボ群,メコバラミン25 mg群,メコバラミン50 mg群の3群に無作為に割り付け,治験薬を週2回,1日1回,筋肉内投与する治療を182週間継続した(期間:2006年12月~2014年3月).本試験では,メコバラミンの用量反応性を検討するとともに,プラセボに対する優越性を評価した.主要評価項目は,イベント発生(非侵襲的呼吸補助装置の終日装着,侵襲的呼吸補助装置の装着,または死亡のいずれか)までの期間と,ALSFRS-Rによる機能的変化であった.治療期を完了した症例およびイベント発生により治療を終了した症例については,761試験完了時の検査から8週間以内に,メコバラミン長期投与時の安全性を評価する国内762試験に登録された.
●有効性評価結果イベント発生までの期間およびALSFRS-R合計点数の変化量を主要評価項目として設定し,解析を行った.多重性を調整するために4つの対比に基づく並び替えによる調整P値を算出し,有意水準(片側0.025)との比較により用量反応性を検討した.4つの対比のうち,ALSFRS-R合計点数の変化量に対するWilcoxonスコアを用いた対比[-2,1,1]の検定において名目上のP値は0.087であり,対応する調整P値は0.187であった.また,治療期登録からイベント発生までの期間の解析において,プラセボ群に対するハザード比(95%信頼区間)は,25 mg群0.831(0.576,1.200),50 mg群0.924(0.646,1.322),メコバラミン群合計0.877(0.642,1.196)であった.また,Kaplan-Meier法に基づく治療期登録からイベント発生率50%までの期間(95%信頼区間)は,プラセボ群880(678,1,217)日,25 mg群1,147(819,―)日,50 mg群954(777,―)日であった(「―」は算出不能を示す).これらの成績から,メコバラミンのプラセボに対する優越性は主要評価項目において統計学的に検証されなかった.
一方,ALS発症から1年以内の被験者集団に対する事後解析では,プラセボ群と比較して50 mg群及び本薬群(25 mg群及び50 mg群の合計)ではイベント発生までの期間の延長に用量反応性(単調及び飽和)が認められた(それぞれP=0.010及びP=0.011;ログランクスコアを用いた対比[-1,0,1]及び対比[-2,1,1]の検定,名目上のP値).プラセボ群に対するハザード比(95%信頼区間)は,メコバラミン25 mg群で0.640(0.377~1.085),メコバラミン50 mg群で0.498(0.267~0.929)であり,50 mg群において有意な延長が示された(表1).また,ALSFRS-R合計点数の変化量においても,メコバラミン25 mg群でP=0.013,50 mg群でP=0.003と,用量依存的な低下抑制が認められた(Wilcoxonスコアを用いた対比[-1,0,1]及び対比[-2,1,1]の検定,名目上のP値).これらの結果は事後解析によるものであるが,ALS発症早期に治療を開始することによるメコバラミン50 mg群の有効性が示唆された.
| 主要有効性評価項目 | プラセボ群 | メコバラミン | P値(プラセボ群との比較) | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 25 mg群 | 50 mg群 | 50 mg群 | 本薬群 | ||
| イベント*発生までの期間の延長(日数) | |||||
| 中央値(95%信頼区間) | 570 (465 to 720) |
1,087 (564 to ―) |
1,197 (609 to ―) |
0.010# | 0.011$ |
| 第1四分位数(25%)(95%信頼区間) | 363 (201 to 491) |
410 (304 to 594) |
448 (337 to 1,062) |
||
| 第3四分位数(75%)(95%信頼区間) | 925 (709 to ―) |
― (1,186,―) |
― (―,―)& |
||
| 各群におけるプラセボ群に対する ハザード比(95%信頼区間) |
0.640 (0.377 to 1.085) |
0.498 (0.267 to 0.929) |
|||
| 全実薬群におけるプラセボ群に対する ハザード比(95%信頼区間) |
0.57 (0.35 to 0.92) |
||||
* 主要イベントは,ALSの進行によるあらゆる原因による死亡,または侵襲的呼吸補助装置の装着または22時間以上の非侵襲的呼吸補助装置の装着と定義した.
# ログランクスコアを用いた対比[-1,0,1]の検定.
$ ログランクスコアを用いた対比[-2,1,1]の検定.
& 50 mgメチルコバラミン群では,主要イベント発生までの時間の第3四分位数は算出不可能であった.
副作用の発現率はプラセボ群で4.1%(5/123例),メコバラミン25 mg群で7.3%(9/124例),メコバラミン50 mg群で5.7%(7/123例)であった.プラセボ群では注射部位疼痛(1.6%),肝酵素上昇,アレルギー性皮膚炎,蕁麻疹(各0.8%)が認められた.メコバラミン25 mg群では肝機能異常(1.6%),注射部位硬結,白血球数増加,血中コレステロール増加,血中尿素増加,血中アルカリホスファターゼ増加,感覚障害,紅斑,そう痒症(各0.8%)が報告された.メコバラミン50 mg群では白血球数増加(1.6%),心停止,肝障害,毛包炎,血小板数増加,尿中タンパク質陽性,低カリウム血症,尿路結石,ざ瘡,皮下出血,脂漏性皮膚炎(各0.8%)が認められた.
さらに,762試験(第Ⅲ相オープンラベル試験)においては,治療開始から52週時点までの安全性が評価され,副作用の発現率は3.5%(5/144例)であった.重篤な副作用や治験薬の中止に至った副作用は認められず,メコバラミンの長期投与における安全性に特段の問題は認められなかった.
3)医師主導第Ⅲ相試験成績(JETALS試験)14,15) ●試験デザインJETALS試験は,ALS患者を対象に,ALSFRS-Rを指標として,高用量メコバラミン(50 mg)の筋肉内投与によるプラセボに対する優越性を検証するとともに,安全性についても評価することを目的として実施された.治療期は多施設共同,無作為化,プラセボ対照,並行群間二重盲検比較試験として設計され,継続投与期は多施設共同のオープン試験として実施された(図5).対象は,発症後1年以内の孤発性または家族性ALS患者で,重症度1度または2度に該当する20歳以上の患者130例であり,プラセボ群65例,メコバラミン50 mg群65例に無作為に割り付けられた.日本国内の26施設において,まず12週間の観察期を経て適格性が確認された後,2017年10月から2019年9月にかけて,16週間の治療期としてメコバラミン50 mgまたはプラセボを週2回,1日1回,筋肉内投与した.なお,被験者の希望に応じて16週以降の継続投与が可能とされた.

有効性の主要評価項目(検証的評価項目)は,ベースラインから治療期16週時におけるALSFRS-R合計点数の変化量(調整平均:LS Mean)であり,主解析では混合効果モデルによる反復測定データ解析法(MMRM)を用いて検証された.MMRMは,変量効果と固定効果を含む線形混合効果モデルに基づき,不完全な経時測定データを解析する統計手法であり,観測データや対象者のベースライン情報等から欠測データを予測することで調整済み平均値を算出するものである.解析では,ALSFRS-R合計点数の4週時,8週時および16週時のベースラインからの変化量を対象とし,ベースライン値を共変量に,投与群,各時点(4週,8週,16週),最小化因子(病型,ベースラインのALS重症度,初発から観察期開始までの期間,ベースラインの%FVC,エダラボン投与歴),時点と投与群の交互作用を固定効果,被験者を変量効果としてモデルに含めた.主解析の結果,治療期16週時のALSFRS-R合計点数の変化量(調整平均:LS Mean)は,プラセボ群で-4.6,メコバラミン50 mg群で-2.7であり,群間差(メコバラミン50 mg群-プラセボ群)は2.0(95%信頼区間:0.4~3.5,P=0.012)であった.95%信頼区間の下限が0を上回ったことから,メコバラミン50 mg群のプラセボ群に対する優越性が統計学的に検証された(図6).副次解析として,治療期4週時および8週時のALSFRS-R合計点数の変化量(調整平均:LS Mean)についても検討された.4週時の変化量は,プラセボ群で-1.2,メコバラミン50 mg群で-0.2であり,群間差は1.0(95%信頼区間:0.3~1.6,名目上のP値:P=0.003)であった.8週時の変化量は,プラセボ群で-2.3,メコバラミン50 mg群で-1.3であり,群間差は1.0(95%信頼区間:0.0~2.0,名目上のP値:P=0.042)であった.これらの結果から,治療開始後早期においてもメコバラミン50 mgの有効性が示唆された.

観察期終了時(ベースライン)からの変化量を応答変数,ベースライン値を共変量,最小化因子(病型,ベースラインのALSの重症度,初発から観察期開始までの期間,ベースラインの%FVC,エダラボン投与歴),投与群,時点,時点と投与群の交互作用を母数効果,被験者を変量効果に含む混合効果モデルにより算出した.自由度調整法はKenward-Roger法とし,共分散構造はUnstructuredとした.(文献18より転載)
治療期における有害事象および副作用の発現状況を投与群ごとに集計し,発現例数,件数および発現率を算出した.治療期における副作用発現率は,プラセボ群で1.6%(1/64例),メコバラミン50 mg群で7.7%(5/65例)であった.プラセボ群では感覚鈍麻が1例(1.6%)に認められ,メコバラミン50 mg群では便秘,注射部位疼痛,発熱,心電図QT延長,発疹が各1例(各1.5%)に認められた(表2).なお,重篤な副作用,投与中止に至った副作用,ならびに死亡に至った副作用は認められなかった.以上の結果より,発症後1年以内のALS患者に対する安全性に問題は認められなかった.
| 例数(%) | ||
|---|---|---|
| プラセボ群 (n=64) |
メコバラミン50 mg群 (n=65) |
|
| 副作用合計 | 1(1.6) | 5(7.7) |
| 胃腸障害 | 0(0.0) | 1(1.5) |
| 便秘 | 0(0.0) | 1(1.5) |
| 一般・全身障害および投与部位の状態 | 0(0.0) | 2(3.1) |
| 注射部位疼痛 | 0(0.0) | 1(1.5) |
| 発熱 | 0(0.0) | 1(1.5) |
| 臨床検査 | 0(0.0) | 1(1.5) |
| 心電図QT延長 | 0(0.0) | 1(1.5) |
| 神経系障害 | 1(1.6) | 0(0.0) |
| 感覚鈍麻 | 1(1.6) | 0(0.0) |
| 皮膚および皮下組織障害 | 0(0.0) | 1(1.5) |
| 発疹 | 0(0.0) | 1(1.5) |
本剤の安全性,忍容性ならびに薬物動態を検証するために,健康成人を対象としてメコバラミン25 mgおよび50 mgの単回投与試験ならびに反復投与試験が実施された25).これらの結果によると,メコバラミンの血漿中濃度は筋肉内投与後1~2時間でCmaxに到達し,その後速やかな消失推移を示した.反復投与7日目における薬物動態パラメータは,メコバラミン25 mgでCmax=934 ± 196 ng/mL,AUC(0-24h)=4,320 ± 519 ng·h/mL,t1/2=2.6 ± 0.6時間であり,メコバラミン50 mgでCmax=1,580 ± 257 ng/mL,AUC(0-24h)=8,840 ± 653 ng·h/mL,t1/2=2.8 ± 0.3時間であった25).これらの検討から,CmaxおよびAUCが用量に比例することが示唆された.なお,メコバラミンは主に未変化体として尿中に投与量の約80%が排泄され,主要排泄経路は腎排泄であると考えられた25).メコバラミンの主要排泄経路が腎排泄であったことを踏まえ,ALS患者8例を対象として本剤の薬物動態に及ぼす腎機能障害の影響を検討した.筋萎縮に伴いクレアチニン低下を認めるALS患者の腎機能の層別化には,筋肉量の影響を受けない血清中シスタチンC濃度で補正した糸球体ろ過量26)を用いて,正常(≥90 mL/min/1.73 m2;n=1),軽度腎機能障害(60~89 mL/min/1.73 m2;n=4)および中等度腎機能障害(30~59 mL/min/1.73 m2;n=3)に分類した.メコバラミン50 mgを1日1回,週2回筋肉内投与を長期継続した際の薬物動態パラメータは,CmaxおよびAUC(0-8h)の分布はいずれの群においてもほぼ重なっており,腎機能低下に伴う半減期の変化は認められなかった25).以上の成績等を踏まえて,腎機能障害患者における本剤の用量調整は不要と考えられた.
ALSは,運動ニューロンの障害により重篤な筋萎縮と筋力低下をきたす進行性の難治性神経変性疾患である.呼吸筋の麻痺による呼吸不全が主たる死亡原因で,人工呼吸器を装着しなければ発症後約2~5年以内に死に至る.日本における患者数は約1万人で9割が孤発性,残りの1割が遺伝性だと推定されている.現在,確立された根治療法はなく,治療薬にはリルゾール,エダラボンやトフェルセンがあるが効果は限定的で,アンメット・メディカル・ニーズが極めて高い難病である.高用量メコバラミンは「ALSにおける機能障害の進行抑制」を効能又は効果とした国内ではおよそ9年半ぶりに登場したALSの新薬である.既存薬とメカニズムが異なり,発症早期のALS患者では新たな効果が期待される.高用量メコバラミンの認可はALSの根本的治療に向けた第一歩であり,今後,実臨床からの知見等をもとに「発症時期と有効性の関連」や「ALS病型と有効性の関連」等のデータを蓄積して,ALS患者にとってより大きな希望となることを期待する.
新留 徹広,石田 貴之(エーザイ株式会社).