2026 年 161 巻 2 号 p. 79-82
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(peroxisome proliferator-activated receptor α:PPARα)は,脂質代謝や炎症応答の制御に関与する核内受容体である.近年,神経系においてPPARαは,脂肪酸酸化や炎症反応の制御を介して神経細胞の恒常性維持に寄与することが報告されている.一方,筆者らはこれまで,モデル動物およびヒトを対象とした研究から,PPARαが統合失調症の病態形成に関わることを明らかにしてきた.Ppara欠損マウスでは,プレパルス抑制の低下や不安様行動の増加,前頭前野における樹状突起スパイン密度の低下と成熟スパインの減少認めた.また,統合失調症患者の毛根細胞においてPPARA遺伝子の発現低下を,さらに遺伝子変異解析によりPPARA遺伝子の機能低下型変異を同定しており,PPARαシグナルの障害が統合失調症の病態形成に関与する可能性を示した.さらに,PPARα作動薬の投与により,フェンサイクリジン(phencyclidine:PCP)投与モデルマウスにおける樹状突起スパイン形態の異常および行動障害が改善されることを見出している.他のグループからも,母体免疫活性化モデル動物において胎児期のPPARα作動薬投与が,成体での行動異常や胎児期の炎症性サイトカイン上昇を改善することが報告されている.加えて,PPARα作動薬は自閉症およびうつ病のモデル動物や臨床試験においても症状改善効果を示すことが知られている.これらの知見から,PPARαは神経変性疾患および精神疾患の双方に共通する新たな治療標的として,今後の創薬展開に寄与することが期待される.