2026 年 161 巻 4 号 p. 275-279
抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)は,がん細胞に選択的かつ効率的に薬物を送達することで高い有効性と副作用の軽減が期待される次世代抗体医薬品である.第一三共株式会社では,DNAトポイソメラーゼⅠ阻害薬エキサテカンの誘導体DXdを薬物部分に用いた独自のDXd-ADC技術を確立し,この技術を適用した第一弾のADCとしてHER2を標的とするトラスツズマブ デルクステカンを創製した.さらに未充足医療ニーズを満たす新規ADCの創出を目指して,trophoblast cell surface antigen 2(TROP2)を標的とする抗体にDXd-ADC技術を適用したダトポタマブ デルクステカン(略称:Dato-DXd)を新たに創製した.非臨床モデルにおいて,Dato-DXdはがん細胞表面のTROP2に結合し,内在化後にリソソームへ移行して,リンカー切断を受けて遊離したDXdがDNA傷害及びアポトーシスを誘導することにより,抗腫瘍活性を示す可能性がある.また複数のヒトがん細胞移植xenograftマウスモデルにおいて,Dato-DXdはTROP2依存的な抗腫瘍活性を示した.臨床開発においては,ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がんを対象とする第Ⅲ相臨床試験の結果から,2024年12月に世界に先駆けて本邦で承認を取得し,その後に米国及び欧州においても承認を取得している.
Antibody-drug conjugate (ADC) is a next-generation antibody therapeutics designed to deliver drugs selectively and efficiently to cancer cells, offering high efficacy and reduced side effects. Daiichi Sankyo has established a novel DXd-ADC technology using DXd, a derivative of the topoisomerase I inhibitor exatecan, as its payload. With this technology, we developed trastuzumab deruxtecan, the first DXd-ADC directed toward HER2. To generate a novel DXd-ADC covering unmet medical needs, we have developed a novel trophoblast cell surface antigen 2 (TROP2)-directed DXd-ADC, datopotamab deruxtecan (Dato-DXd). In the preclinical studies, we confirmed that Dato-DXd binds to TROP2 on cancer cell surface and, following internalization and lysosomal trafficking, releases DXd. The released DXd induces DNA damage and apoptosis in cancer cells. Additionally, Dato-DXd showed TROP2-dependent antitumor activity in multiple human cancer cell line-derived and patient-derived xenograft mouse models. Clinically, the global phase III trial targeting hormone receptor-positive, HER2-negative, unresectable or recurrent breast cancer led to its first approval in Japan in December 2024, followed by the approvals in the US and Europe later.
がん細胞表面に特異的に発現する分子を標的としたモノクローナル抗体と,殺細胞活性を有する薬物とをリンカーを介して結合させた抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)は,選択的かつ効率的に薬物をがん細胞に送達することで高い有効性と副作用の軽減が期待される次世代抗体医薬品である.一方でADC技術開発においては,各標的がん種に対する適切な抗体,薬物,リンカーの組み合わせや搭載薬物数の最適化など,未だ改良の余地が多く残されており,より有効性,安全性,物性等に優れたADCの創製が期待されている.
第一三共株式会社では,DNAトポイソメラーゼⅠ(Top1)阻害薬エキサテカンの誘導体(DXd)を薬物部分に用いた独自のDXd-ADC技術を確立し,この技術を適用した第一弾のADCとしてHER2を標的とするトラスツズマブ デルクステカン(遺伝子組換え)注(略称:T-DXd,商品名:エンハーツ®点滴静注用100 mg)を創製した1).さらに未充足医療ニーズを満たす新規ADCの創出を目指して,Trophoblast cell surface antigen 2(TROP2)を標的とする抗体にDXd-ADC技術を適用したダトポタマブ デルクステカン(遺伝子組換え)注(略称:Dato-DXd,商品名:ダトロウェイ®点滴静注用100 mg)を新たに創製した.
Dato-DXdは,第Ⅰ相臨床試験においてがん患者における良好な安全性と忍容性,及びTROP2を発現する乳がん,肺がんをはじめとする複数のがん種での有効性が確認された.さらに2021年に開始されたホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がんを対象とする第Ⅲ相臨床試験の結果より,2024年12月に世界に先駆けて本邦で承認を取得した.その後,米国及び欧州においてもホルモン受容体陽性かつHER2陰性乳がんを対象とした承認を取得している.本稿ではDato-DXdの薬理学的特性と,臨床開発経緯および将来展望について概説する.
Dato-DXdは,抗TROP2抗体ダトポタマブにペプチドリンカーを介してDXdを結合したADCである.標的抗原であるTROP2は,分子量約36 kDaの単回膜貫通型タンパク質で,細胞の増殖,接着,移動への関与が示唆されている.またTROP2は幅広い上皮がんにおいて高い発現が認められ,さらには乳がん,非小細胞肺がん等において予後不良との関連性も報告されていることから,がん治療の有望な標的候補として注目されている.一方で,TROP2は皮膚や食道など正常組織における上皮細胞にも発現が認められることより,正常組織に対するオンターゲット毒性のリスクを低減化する慎重な薬剤設計が必要と考えられた.非臨床における有効性と安全性の評価結果より,Dato-DXdの1抗体あたりの平均薬物結合数(drug-to-antibody ratio:DAR)は約4が選定された2).
Dato-DXdは,がん細胞表面のTROP2に結合し,細胞内に取り込まれてリソソームへ移行した後に,リンカー部分の切断を受けて遊離したDXdがTop1を阻害することにより,がん細胞のDNA傷害とアポトーシスを誘導し,腫瘍増殖抑制作用を示すと考えられている.さらにDXdは細胞膜透過性を有することから,遊離したDXdは近接するがん細胞に対しても腫瘍増殖抑制効果を発揮する可能性(バイスタンダー抗腫瘍効果)が考えられる(図1).

非臨床モデルを用いた検討で,Dato-DXdはTROP2に特異的に結合し,他TROP familyタンパク質(EpCAM/TROP1)には結合しないこと,カニクイザルTROP2には交差結合するが,マウス・ラットTROP2には交差結合しないことを確認した.またTROP2陽性細胞株BxPC3に蛍光標識したDato-DXdを添加して経時的に観察した結果,細胞内に内在化後にリソソームへの移行が観察された(図2).

さらにDato-DXd処理後のTROP2陽性がん細胞株において,培養上清中に遊離DXdが検出され,DNA傷害マーカー(ɤH2AX,pChk1,pKAP1)及びアポトーシスマーカー(cleaved PARP,cleaved caspase3)が誘導された.また複数のがん細胞株を用いたin vivo抗腫瘍活性評価において,TROP2依存的なDato-DXdの抗腫瘍活性が認められた(図3).

以上の結果より,Dato-DXdはTROP2陽性がん細胞へ選択的かつ効率的にDXdを送達することにより,抗腫瘍活性を示す可能性がある.
化学療法歴のあるホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がん患者を対象としたDato-DXdの日米欧における申請は,主に2つの臨床試験の結果を用いて実施された.まず,ファースト・イン・ヒューマンの第Ⅰ相臨床試験は,複数用量のDato-DXdを用いた日米多施設共同非無作為化非盲検第Ⅰ相であり,2つのパートで構成された.パート1は,Dato-DXdの最大耐用量あるいは次相推奨用量を検討する用量漸増パート,パート2は展開用量パートであり(用量:4,6又は8 mg/kg),Dato-DXdの安全性,忍容性,および有効性を評価した.本試験の中間解析の結果から,乳がんや肺がんを中心としたTROP2が高発現している固形がんにおいて良好な有効性が確認され,ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がん患者(41例)に対する盲検下独立効果判定機関(BICR)評価に基づく奏効率[95%信頼区間]は26.8[14.2~42.9]%,無増悪生存期間(PFS)の中央値[95%信頼区間]は8.3[5.5~11.1]ヵ月であった.また41例の内100%(41例)に副作用が認められ,主な副作用は口内炎80.5%(33例),悪心51.2%(21例),疲労43.9%(18例),脱毛36.6%(15例),嘔吐22.0%(9例),ドライアイ22.0%(9例)等であった.Grade3以上の副作用は22.0%(9例)に認められ,口内炎9.8%(4例),貧血4.9%(2例),リンパ球減少2.4%(1例)等であった.本試験の用量漸増パートおよび展開用量パートにおいて得られたDato-DXdの安全性,有効性に関する結果等に基づき,Dato-DXdの第Ⅱ相臨床試験以降の推奨用量は6 mg/kgを3週間隔投与と決定された3,4).
ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳がん患者を対象としたグローバル第Ⅲ相臨床試験では,Dato-DXdと治験担当医師が選択した治療薬(エリブリン,カペシタビン,ゲムシタビン又はビノレルビン)を比較する非盲検無作為化試験を実施した.Dato-DXd投与群ではDato-DXd 6 mg/kgを3週間間隔で点滴静注した.
日本人70例を含む被験者732例において,主要評価項目の一つである盲検下独立効果判定機関(BICR)評価に基づく無増悪生存期間(PFS)の中央値[95%信頼区間]は,Dato-DXd投与群で6.9[5.7~7.4]ヵ月,医師選択治療群で4.9[4.2~5.5]ヵ月であり,Dato-DXd投与群で統計学的に有意な延長を示した(ハザード比[95%信頼区間]:0.63[0.52~0.76],層別ログランク検定:P<0.0001,有意水準[両側]=0.01).もう一つの主要評価項目である全生存期間(OS)では,医師選択治療群に対するDato-DXd投与群の優越性は認められなかった(ハザード比[95%信頼区間]:1.01[0.83~1.22],層別ログランク検定:P=0.9455,有意水準[両側]=0.05)(図4).

本試験ではDato-DXd投与群の73.7%,医師選択治療群の78.7%の患者が後治療を受けており,両群で大きな割合の違いは認められなかった.一方,他のADCによる後治療を受けた患者の割合としては,Dato-DXd投与群では12.3%,医師選択治療群では24.0%と違いが認められた.そのため,全生存期間に与えるADC後治療の影響を考慮したinverse probability censoring weighting(IPCW)法を用いた感度分析を行った結果,事後解析のため慎重な解釈が必要ながら,Dato-DXd投与群の全生存期間の中央値は19.1ヵ月,医師選択治療群では17.5ヵ月とDato-DXd投与群での全生存期間の延長傾向が示唆された(ハザード比[95%信頼区間]:0.86[0.70~1.06])(図5).

またDato-DXd投与群360例の内93.6%(337例)に副作用が認められた.主な副作用は,悪心51.1%(184例),口内炎50.0%(180例),脱毛症36.4%(131例),疲労23.6%(85例),ドライアイ21.7%(78例)等であった.Grade3以上の副作用は20.8%(75例)に認められ,口内炎6.4%(23例),疲労1.7%(6例),悪心1.4%(5例)であった5,6).
以上の臨床試験の結果により,適応をホルモン受容体陽性かつHER2陰性乳がんとして日米欧でグローバル申請が行われ,本邦では世界に先駆けて2024年12月に製造販売承認された.米国食品医薬品局からは2025年1月に承認を取得し,欧州委員会からは2025年4月に承認を取得した.
最後に,Dato-DXdの臨床試験に参加いただいた患者様,そのご家族,治験医師やコーディネーターをはじめとする医療従事者の皆様,Dato-DXdの研究開発・製造に携わったすべての方々に深謝申し上げたい.
飯島 崇裕,岡嶌 大祐(第一三共株式会社).