神経細胞では,樹状突起スパインの微細構造が個々の入力の独立性を保ち,これらを並列に処理することで,神経演算の高い時空間精度を支えている.このように,微細構造がシグナルの時空間特性を決めるという考え方は,神経細胞では広く受け入れられてきた.一方で,グリア細胞の一種であるアストロサイトは極めて複雑に分岐した微細構造を有しているにもかかわらず,その活動の指標であるCa2+シグナルはゆっくりと広範囲に広がる現象として当初観察され,精緻な微細構造との対応関係は明らかではなかった.しかし近年,ライブ超解像イメージングをはじめとする技術の進展により,シナプス近傍のアストロサイト微細構造を生きた状態で観察することが可能となり,その理解は変わりつつある.これらの観察から,アストロサイトの微細構造は分子の拡散を制御することでCa2+シグナルを局在化させ,個々のシナプスにおけるアストロサイトの作用を精密に調整しうることが示唆された.すなわちアストロサイトもまた神経細胞と同様に,その複雑な形態を活用してシグナルの時空間的特性を制御していると考えられる.このようなシグナルの局在化戦略は,神経細胞やアストロサイトを取り囲む細胞外スペースにも及んでいる可能性がある.従来細胞外スペースは,イオンや伝達物質が拡散する細胞間の間隙として,組織レベルで粗視的にしか捉えられてこなかった.しかし最近になってライブ超解像イメージングによってその微細構造が可視化され,複雑な幾何構造を持つことが明らかになった.こうした構造はアストロサイトの微細形態と密接に連動し,伝達物質やイオンの局所的な動態に影響を与える可能性がある.このように,本総説では神経細胞に限らず,それを取り囲む微細構造が分子拡散の制御を介してシグナルの時空間パターンを形成し,脳の情報処理の基盤に寄与するという新しい可能性を提案する.