2026 年 161 巻 5 号 p. 313-318
アストロサイトは中枢神経系で最も豊富なグリア細胞であり,神経細胞への栄養供給,シナプス機能の調節,血液脳関門の維持など脳の恒常性維持に不可欠な役割を担う.脳傷害時にはその形態・遺伝子発現・機能を大きく変調させ,反応性アストロサイトとなる.反応性アストロサイトは疾患の種類や病変部位,時間経過に応じて多様な亜状態をとる連続体として存在し,その病態への関与の解明は重要な課題として残されている.反応性アストロサイトでは細胞内Ca2+シグナル異常が多くの病態で報告されている.Gq共役型プリン受容体P2Y1Rは,アルツハイマー病,てんかん,脳卒中,外傷性脳損傷など多様な脳疾患モデルの反応性アストロサイトで共通して発現が上昇し,Ca2+シグナル異常を引き起こす.しかし,P2Y1R発現増加が病態にどのように寄与するか,その下流の分子メカニズムは未解明であった.この問題に取り組むために,アストロサイト特異的にP2Y1Rを過剰発現するマウスを作製し解析したところ,アストロサイトのP2Y1R過剰発現により,海馬神経細胞の発火頻度増加,脳波異常スパイクの増加,ピロカルピン誘発てんかん重積に対する感受性亢進など,神経過興奮が認められた.Ca2+イメージング,電気生理学,トランスクリプトーム解析,免疫組織化学,アストロサイト特異的ゲノム編集等を用いた解析から,神経興奮性を亢進するアストロサイトの実行分子として分泌タンパク質IGFBP2が同定された.てんかんおよび脳梗塞モデルの反応性アストロサイトでもP2Y1RおよびIGFBP2の発現増加が認められ,P2Y1R-IGFBP2シグナリング軸が脳疾患に共通する病態形成機構であることが示唆された.