日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬エトラシモド(ベルスピティ®錠2 mg)の薬理学的特徴および臨床試験成績
野中 聖子湯浅 博俊小野 良介平野 啓福田 晃貴檜杖 昌則
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2026 年 161 巻 5 号 p. 383-394

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要約

エトラシモドL-アルギニン(製品名:「ベルスピティ®錠2 mg」)は,経口投与可能な低分子スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬であり,S1P受容体の5つのサブタイプ(S1P1–5)のうちS1P1,4,5に選択的かつ高親和性を示す.S1P1への作用によりリンパ球表面の受容体を内在化させ,局所リンパ節から炎症局所へのリンパ球移出を抑制することで,潰瘍性大腸炎(UC)の病態進行に関与する大腸粘膜の慢性炎症を改善すると考えられる.

薬理試験において,エトラシモドはリンパ球減少に関与するβアレスチン経路を活性化する一方,心拍数減少に関与するGタンパク質経路の活性化作用は相対的に弱い,特徴的なシグナル伝達バイアスを示した.臨床試験における初回投与時の徐脈は軽度かつ一過性で,用量漸増後に2 mgへ到達した場合の心拍数減少の程度は,初回から2 mgで開始した場合と同程度であった.このため,初回から維持用量の2 mgで投与開始可能である.

国内外の第Ⅲ相臨床試験では,エトラシモド2 mgを1日1回経口投与することで,中等症~重症の活動性UC患者に対し12週間および52週間の治療でプラセボに対する臨床的寛解率および内視鏡的改善率の有意な向上が認められた.安全性プロファイルも概ね良好で,有害事象(AE)発現率はプラセボ群と同程度であり,多くは軽度~中等度であった.

以上の結果を踏まえ,エトラシモドは2025年6月に「既存治療で効果不十分な中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療」を効能・効果として本邦で承認された.現在,2歳以上の小児UC患者を対象とした治験が進行中である.1日1回経口投与で漸増投与を要しない利便性,高い寛解導入および維持効果,良好な安全性プロファイルを有する本薬剤の登場により,UC治療に新たな選択肢が提供され,難治性UC患者の長期予後および生活の質の向上に貢献すると期待される.

Abstract

Etrasimod L-arginine (Velsipity® 2 mg tablets) is a small-molecule sphingosine 1-phosphate (S1P) receptor modulator with high selectivity for the S1P receptor subtypes S1P1, S1P4, and S1P5. Through its action on S1P1, etrasimod induces receptor internalization, thereby inhibiting lymphocyte egress from lymph nodes to sites of inflammation. This mechanism is considered to reduce chronic inflammation in the colonic mucosa associated with ulcerative colitis (UC). Nonclinical pharmacology studies have shown that etrasimod preferentially activates the β-arrestin pathway, while relatively weakly activating G protein pathway associated with heart rate reduction compared to other S1P modulators. In clinical trials, first-dose bradycardia was mild and transient, and the magnitude of heart rate reduction after dose titration to 2 mg was comparable to that observed when treatment was initiated directly at 2 mg. Therefore, etrasimod can be initiated at the maintenance dose of 2 mg. In domestic and global Phase III clinical trials, once-daily oral administration of etrasimod 2 mg significantly improved clinical remission and endoscopic outcomes compared with placebo at 12 and 52 weeks in patients with moderately to severely active UC, including those with an inadequate response to biologics or Janus kinase inhibitors. The safety profile was favorable, with adverse event rates comparable to placebo and most events being mild to moderate. Based on these results, etrasimod was approved in Japan in June 2025 for moderate to severe UC with inadequate response to existing therapies. With once-daily oral dosing without titration and a favorable safety profile, etrasimod represents a new therapeutic option for UC.

1.  はじめに

UCは若年層での発症が多い慢性疾患であり,腸管粘膜に慢性的な炎症と潰瘍を引き起こす免疫介在性の難治性炎症性腸疾患である.長期にわたる慢性の経過をたどり寛解と再燃を繰り返すためQOLへの影響が大きく,治療継続に伴う精神的・身体的負担も少なくない1.その病態形成には,腸管粘膜での免疫細胞の過剰な浸潤と活性化,およびそれに伴う炎症性サイトカイン産生が大きく関与すると考えられている2.こうした免疫・炎症反応が成立する過程では,リンパ組織から血中にリンパ球が移出し,大腸粘膜にリンパ球が動員される3.このリンパ球移出を制御する機構の一つとしてS1Pとその受容体が注目されており,特にS1P1はリンパ器官からのリンパ球移出を調節する重要な役割を担うことが明らかにされている4.S1P1経路によるリンパ球移出の制御は,免疫介在性炎症疾患に対する治療戦略として薬理学的に妥当であると考えられており,この機序に基づく新たな治療薬が開発されてきた.

エトラシモドL-アルギニン(製品名:「ベルスピティ®錠2 mg」,化学名:(R)-2-(7-(4-cyclopentyl-3-(trifluoromethyl)benzyloxy)-1,2,3,4-tetrahydrocyclopenta[b]indol-3-yl)acetic acid),以下エトラシモド)は,こうした背景から開発された経口投与可能な低分子S1P受容体調節薬であり,既存治療で効果不十分な中等症~重症のUCを適応症として2025年6月に本邦で承認された新規治療薬である(図1).1日1回経口投与の利便性と休薬時の薬剤消失が速やかなことから,長期療法の継続や中止を柔軟に行うことが可能である.エトラシモドはS1P1,4,5を選択的に調節するS1P受容体調節薬で,特にS1P1に対して完全アゴニストとして作用し,受容体を内在化させ機能的アンタゴニストとして働くことでリンパ節からのリンパ球移出を部分的かつ可逆的に抑制する.この作用により末梢血中リンパ球数が減少し,炎症局所(大腸粘膜)に動員されうるT細胞やB細胞などの炎症性リンパ球の浸潤が減少することで,炎症性サイトカインの放出抑制と組織障害の軽減が期待される.

図1 エトラシモドL-アルギニンの化学構造式

S1P受容体調節薬に共通する薬理作用と副作用発現機序に関する興味深い点として,薬効と一部副作用が必ずしも同一のシグナル経路に依存しない可能性が挙げられる.すなわち,S1P受容体調節薬によるS1P1に対するβアレスチン経路の活性化(S1P受容体の内在化誘導)はリンパ球減少という薬効に寄与する一方で,Gタンパク質経路の活性化は初回投与後に認められる一過性の心拍数低下(徐脈)に関連することが示唆されている57.エトラシモドは特徴的なシグナル伝達バイアスを示し,βアレスチン動員を介した経路を他のS1P受容体調節薬と同程度に活性化する一方でGタンパク質を介する経路の活性化は相対的に弱いことが,in vitro試験における他のS1P調節薬との比較で明らかとなった.この特徴的なシグナル伝達バイアスにより,エトラシモドではリンパ球減少作用(薬効)の発現に必要なS1P1活性化を維持しながら,初回投与時の一過性の徐脈および房室伝導遅延の程度が軽減されることが期待される.実際,エトラシモド2 mg初回投与後の心拍数の減少は,軽度,一過性かつ無症候性で,ベースラインからの心拍数の最大減少は投与後2~4時間後に認められた.また複数の異なる用量漸増レジメンを,非用量漸増レジメンと比較したところ,用量漸増終了時のエトラシモド2 mgの軽度の心拍数減少作用は,非用量漸増(第1日に2 mgで開始)で認められた心拍数減少作用と同程度であった.このためエトラシモドでは初回から維持用量の2 mgで投与を開始できることが臨床試験で裏付けられている.さらに,エトラシモドはナチュラルキラー細胞(NK細胞)や単球など自然免疫に関与する細胞には影響が少ないことも非臨床および臨床試験で確認されており,体内の免疫監視機構を維持したまま病態に関与するリンパ球のみを選択的に抑制すると考えられている.国内外の第Ⅲ相臨床試験では,エトラシモド2 mgを1日1回経口投与することで,中等症~重症の活動性UC患者に対し12週間および52週間の治療でプラセボに対する臨床的寛解率および内視鏡的改善率の有意な向上が認められた.安全性プロファイルも概ね良好で,AE発現率はプラセボ群と同程度であり,多くは軽度~中等度であった.

このような薬理学的特徴を備えたエトラシモドは,既存の生物学的製剤やJAK阻害薬で十分な効果が得られない中等症~重症UC患者に対し,良好なベネフィット・リスクプロファイルを有する経口投与可能な新規治療選択肢となることが期待されている.

本稿では,エトラシモドの非臨床薬理試験に基づく薬理学的特徴,ならびにUCに対する臨床試験成績を紹介する.

2.  エトラシモドの薬理学的特徴

1) エトラシモドの作用機序

S1PがS1P受容体に結合すると,Gタンパク質を介したシグナル伝達経路とβアレスチン動員を介したGタンパク質非依存性のシグナル伝達経路が活性化し8図2),リンパ球の移動,免疫細胞機能,内皮細胞増殖,細胞骨格形成などの機能が生じる912.S1P1–3はヒトの肺,リンパ節,胎盤,心臓などの組織に広く発現するS1P受容体である13.S1P4はほぼ免疫細胞のみに発現しており14,15,樹状細胞の遊走および機能に関与していると考えられる.S1P5はNK細胞および中枢神経系の白質に認められ16,17,NK細胞の遊走およびリンパ節内での配置を制御していると考えられている18,19

図2 S1P受容体下流のシグナル伝達経路

文献8 Fig. 1より引用

S1P受容体調節薬であるエトラシモドは,S1P1,4,5に選択的に作用し,S1P1に対して完全アゴニスト作用を,S1P4,5に対して部分アゴニスト作用を示す20.エトラシモドはS1P1と結合すると,S1P1の内在化および分解を誘導し,機能的アンタゴニストとして作用する20.これによりリンパ球の細胞表面におけるS1P1の発現が低下すると,S1Pの濃度勾配に従うリンパ組織から血中へのリンパ球の移出が妨げられ,血中のリンパ球数が減少することで大腸の炎症部位に動員される活性化リンパ球数が減少する20.組織内の浸潤リンパ球の減少により炎症性サイトカインの産生が低下し,大腸粘膜の炎症が軽減されると考えられている21.エトラシモドの想定される作用機序を図3に示す.

図3 エトラシモドの想定される作用機序

ベルスピティ総合製品情報概要より引用

S1P受容体調節薬によるS1P1に対するβアレスチン経路の活性化(S1P受容体の内在化誘導)はリンパ球減少という薬効に寄与する一方で,Gタンパク質シグナル伝達の活性化は初回投与後に認められる一過性の心拍数低下に関連することが示唆されている57

2) In vitro薬理作用

 (1)エトラシモドのS1P受容体選択性

ヒトS1P受容体におけるβアレスチン動員アッセイを用い,エトラシモドのS1P受容体各サブタイプ(S1P1–5)に対するアゴニスト作用およびS1P2,3に対するアンタゴニスト作用(S1P2,3に対するS1Pによる活性化との競合)を検討した.

各受容体サブタイプに対するエトラシモドのEC50値および相対最大効力を表1に示す.エトラシモドはS1P1に対する完全アゴニスト作用を示し,S1P4およびS1P5に対する部分アゴニスト作用を示した.ヒトS1P2およびS1P3については,10 μmol/Lにおいてもβアレスチンの動員を誘導せず,S1P活性化も阻害しなかった.

表1ヒトS1P1–5を介したβアレスチン動員アッセイにおけるエトラシモドのEC50値および相対最大効力

受容体 EC50
(nmol/L)
95%信頼区間
(nmol/L)
相対最大効力
(%S1P)
N数
ヒトS1P1 6.10 3.36,11.1 110 6
ヒトS1P2 NR NR NR 8
ヒトS1P3 NR NR NR 6
ヒトS1P4 147 114,190 63 9
ヒトS1P5 24.4 17.4,34.3 73 10

NR:活性無し

方法:ヒトS1P受容体を安定発現させたHEK293細胞をウェルあたり2,000~5,000細胞の密度で0.05%BSA(脂肪酸不含)とともに一晩インキュベートした後,エトラシモドを添加し,室温で2~3時間インキュベートした.インキュベーション後に溶解/検出試薬を添加し,プレートを室温でさらに2時間インキュベートした後,プレートリーダーで測定した.EC50値は,少なくとも10濃度からなる濃度反応曲線に基づいて算出した.相対最大効力は,内因性アゴニストS1Pによる最大反応に対するエトラシモドによる最大反応の割合(%)で示した.

これらの結果から,エトラシモドは選択的かつ強力な完全S1P1アゴニストであり,ヒトS1P4およびS1P5に対する作用と比較してそれぞれ24倍および4倍の選択性を有し,また,ヒトS1P2またはS1P3に対してはアゴニスト作用およびアンタゴニスト作用を有さないことが示された.

 (2)βアレスチン経路およびGタンパク質経路に対する作用

末梢血リンパ球数の減少をもたらすβアレスチン動員を介した機能的アンタゴニスト作用と,臨床での初回投与時に認められる心拍数減少の機序と考えられるGタンパク質シグナル伝達の開始点としての作用を評価するため,βアレスチン動員アッセイおよびGTPγS結合アッセイを用いてヒトS1P1–5に対するエトラシモドの2つの作用を評価した57.また,エトラシモドに加えヒト血漿中に最も多くみられる代謝物M3,M6の作用を検討した.さらに,エトラシモドの活性を,S1Pおよび他のS1P受容体調節薬(オザニモド,オザニモドの主な薬理活性物質であるケトン体,フィンゴリモド リン酸塩およびシポニモド)と比較した.

各アッセイにおけるEC50値およびEmax値を表2および表3に示す.エトラシモドの想定される薬理作用,すなわち主にリンパ球数の減少に関与するS1P1を介したβアレスチンの動員を誘導する作用は,オザニモドおよびシポニモドと同程度であった.一方,エトラシモドのS1P1を介したGTPγS結合作用は,オザニモドおよびシポニモドと比較して顕著に弱かった.

表2ヒトS1P1–5アゴニスト誘発性βアレスチン動員アッセイにおけるEC50およびEmax

被験物質 パラメータ hS1P1 hS1P2 hS1P3 hS1P4 hS1P5
エトラシモド EC50(nmol/L) 44 NR NR 141 63.4
95% CI(nmol/L) 38.3,50.5 NR NR 97.5,204 40,101
Emaxa 120 NR NR 54 86
N 3 4 4 3 3
エトラシモド
代謝物M3
EC50(nmol/L) 568 NR NR 1,410 NR
95% CI(nmol/L) 433,744 NR NR 614,3,230 NR
Emaxa 118 NR NR 84 NR
N 4 4 4 4 4
エトラシモド
代謝物M6
EC50(nmol/L) 136 NR NR 428 698
95% CI(nmol/L) 82.8,224 NR NR 240,763 356,1,370
Emaxa 122 NR NR 74 91
N 3 4 4 4 3
オザニモド EC50(nmol/L) 33.2 NR NR 766 28.8
95% CI(nmol/L) 19.8,55.7 NR NR 604,971 12.6,65.6
Emaxa 114 NR NR 105 119
N 4 4 3 4 4
オザニモド
ケトン体
EC50(nmol/L) 73.9 NR NR 588 58.5
95% CI(nmol/L) 43.8,124 NR NR 404,855 28.7,119
Emaxa 123 NR NR 89 115
N 4 4 4 4 4
フィンゴリモド
リン酸塩
EC50(nmol/L) 11 NR 22.3 6.9 5.8
95% CI(nmol/L) 7.9,15.3 NR 10.2,48.5 3.6,13.5 4.4,7.7
Emaxa 109 NR 9 78 48
N 4 4 4 4 4
シポニモド EC50(nmol/L) 53.9 NR NR 563 11
95% CI(nmol/L) 12.7,229 NR NR 170,1,870 2.7,44.6
Emaxa 111 NR NR 93 107
N 4 4 4 4 4
S1P EC50(nmol/L) 21 19 16.5 5.4 1.4
95% CI(nmol/L) 9.7,45.6 8.1,44.5 9.4,28.9 1.7,17 0.9,2.4
Emaxa 111 100 106 101 104
N 4 4 4 4 3

オザニモドケトン体:オザニモドの主要な活性代謝物

aEmax:S1Pに対する相対最大効力(%)

CI:信頼区間,M3:AR503641,M6:AR504344,NR:活性無し

方法:PathHunter βアレスチンアッセイプラットフォームを用いて,Prolink標識ヒトS1P受容体を安定発現させたHEK293細胞を5,000個/ウェルの密度で0.1%BSA(脂肪酸不含)とともに一晩インキュベートし,被験物質(エトラシモド,M3,M6,オザニモド,オザニモド ケトン体,フィンゴリモド リン酸塩,シポニモドおよびS1P)を添加した後に,室温で2時間インキュベートした.インキュベーション後に溶解/検出試薬を添加し,プレートを室温でさらに4時間インキュベートした後,プレートリーダーで測定した.

表3ヒトS1P1–5アゴニスト誘発性GTPγS結合アッセイにおけるEC50およびEmax

被験物質 パラメータ hS1P1 hS1P2 hS1P3 hS1P4 hS1P5
エトラシモド EC50(nmol/L) 57 NR 6,050 NR 63.5
95% CI(nmol/L) 18,180 NR 2,540,14,400 NR 17,237.7
Emaxa 99 NR 42 NR 72
N 4 4 4 4 4
エトラシモド
代謝物M3
EC50(nmol/L) 545 NR 7,020 NR 5,804
95% CI(nmol/L) 333,892 NR 4,590,10,700 NR 3,824,8,808
Emaxa 89 NR 22 NR 51
N 4 4 4 4 3
エトラシモド
代謝物M6
EC50(nmol/L) 153 NR 5,350 NR 97
95% CI(nmol/L) 57,408 NR 3,370,8,480 NR 26.6,354
Emaxa 101 NR 26 NR 64
N 3 4 4 4 4
オザニモド EC50(nmol/L) 1.2 NR 6,820 NR 12.3
95% CI(nmol/L) 0.7,2.0 NR 3,430,13,500 NR 6.8,22
Emaxa 103 NR 52 NR 110
N 4 4 4 4 4
オザニモド
ケトン体
EC50(nmol/L) 7.3 NR NR NR 95.8
95% CI(nmol/L) 2.7,19.9 NR NR NR 38.4,239
Emaxa 97 NR NR NR 105
N 4 4 4 4 4
フィンゴリモド
リン酸塩
EC50(nmol/L) 1.3 1,680 13.8 6.1 1.1
95% CI(nmol/L) 0.4,3.6 660,4,290 7.5,25.4 2.6,14.2 0.6,2
Emaxa 86 35 39 38b 69
N 4 4 4 4 4
シポニモド EC50(nmol/L) 3.7 NR NR 510 0.5
95% CI(nmol/L) 1.8,7.7 NR NR 293,887 0.2,1.5
Emaxa 93 NR NR 42b 118
N 4 4 3 4 4
S1P EC50(nmol/L) 156 115 323 140 49.7
95% CI(nmol/L) 108,226 32.6,405 116,900 74.1,263 17.7,139.4
Emaxa 101 108 113 31b 100
N 4 4 4 4 4

オザニモドケトン体:オザニモドの主要な活性代謝物

aEmax:S1Pに対する相対最大効力(%)

bEmax:amiselimodリン酸塩に対する相対最大効力(%)

CI:信頼区間,M3:AR503641,M6:AR504344,NR:活性無し

方法:ヒトS1P受容体を安定発現させたCHO-K1細胞を用い,細胞から調製した膜ホモジネートを,被験物質(エトラシモド,M3,M6,オザニモド,オザニモド ケトン体,フィンゴリモド リン酸塩,シポニモドおよびS1P)を含有するプレートに分注し,プレートを室温で5分間インキュベートした後,0.4 nmol/L[35S]-GTPを添加した.室温で1時間振とうした後,遠心分離し,シンチレーションカウンターを用いて測定した.

これらの試験において,代謝物M3およびM6の用量効力はいずれもエトラシモド本体より低いまたは同程度であった.加えて,M3およびM6はいずれもヒト血中総放射能の10%未満であった.これらのことから,エトラシモドの薬理作用は主として未変化体によるものであり,代謝物の寄与は限定的であると考えられる.

S1P1に対するエトラシモドの効力プロファイルは,他のS1P受容体調節薬と比較して内因性のS1Pの効力プロファイルと類似していた.エトラシモドに特徴的な点として,βアレスチン経路においてエトラシモドおよび内因性のS1Pは他のS1P受容体調節薬と同等の効力を示すが,Gタンパク質シグナル伝達経路(GTPγS結合により評価)における効力は他のS1P受容体調節薬と比較して弱いことが示された.

 (3)S1P受容体内在化とcAMP蓄積に対する作用

エトラシモドおよびその他のS1P受容体調節薬によって惹起されるシグナル伝達について,βアレスチン動員の下流(S1P受容体の内在化アッセイ)およびGタンパク質シグナル伝達の下流(cAMP蓄積アッセイ)について検討した.

各アッセイにおけるIC50値およびEmax値を表4および表5に示す.他のS1P受容体調節薬と比較して,エトラシモドはβアレスチン依存性の受容体内在化に関して同等の効力および経時変化を示した一方で,cAMP蓄積に対する効力は相対的に弱かった.これらの結果は,GTPγSアッセイおよびβアレスチン動員アッセイで得られた結果と一貫しており,Gタンパク質シグナル伝達よりもβアレスチン動員を優先的に活性化するというエトラシモドの薬理作用の特徴を支持するものである.

表4ヒトS1P1発現細胞株を用いたS1P内在化アッセイにおけるS1P受容体アゴニスト活性

被験物質 CHO-21BWc1 CHO-21BWc2
平均IC50
(95% CI)(nmol/L)
平均Emax
(% S1P)
平均IC50
(95% CI)(nmol/L)
平均Emax
(% S1P)
エトラシモド 8.9(3.9~20.0) 90 8.3(4.1~16.6) 99
フィンゴリモド
リン酸塩
3.7(1.9~7.3) 103 1.4(0.3~6.8) 99
オザニモド 4.2(2.4~7.3) 103 3.5(2.1~5.6) 111
シポニモド 4.2(0.8~22.6) 107 1.8(0.9~3.9) 103
S1P 5,211.9(1,482.5~18,323.1) 103 608.1(35.4~10,447.2) 94

Emax:S1Pに対する相対最大効力(%),CI:信頼区間

方法:ヒトインフルエンザヘマグルチニン(HA)標識ヒトS1P1を発現する組換えCHO細胞を被験物質(エトラシモド,フィンゴリモド リン酸塩,オザニモド,シポニモドおよびS1P)またはDMSOとともにウェルに添加した.プレートを37°Cにおいて5%CO2存在下でインキュベートした後,氷上でリン酸緩衝食塩水(PBS)を添加して10分間インキュベートした.インキュベーション後,細胞を遠心分離し,ヒトS1P1を抗体で標識し,フローサイトメトリーによりヒトS1P1を定量した.

表5ヒトS1P1発現細胞株および初代HUVEC株を用いたcAMP蓄積アッセイにおけるS1P受容体アゴニスト活性

被験物質 CHO-21BWc1 CHO-21BWc2 初代HUVEC
平均IC50
(95% CI)(nmol/L)
平均Emax
(% S1P)
平均IC50
(95% CI)(nmol/L)
平均Emax
(% S1P)
平均IC50
(95% CI)(nmol/L)
平均Emax
(% S1P)
エトラシモド 0.454(0.326,0.632) 103 0.465(0.336,0.643) 103 30.5(19.9,46.7) 101
フィンゴリモド
リン酸塩
0.007(0.005,0.011) 101 0.008(0.005,0.012) 103 1.6(1.2,2.3) 94
オザニモド 0.030(0.020,0.042) 104 0.039(0.030,0.053) 100 2.0(1.2,3.1) 102
シポニモド 0.028(0.019,0.041) 101 0.028(0.017,0.047) 103 1.6(1.0,2.4) 101
S1P 0.028(0.020,0.040) 101 0.028(0.020,0.039) 101 19.1(9.5,38.2) 96

Emax:S1Pに対する相対最大効力(%),CI:信頼区間

方法:組換えS1P1を発現させた2つのCHO細胞株(CHO-21BWc1およびCHO-21BWc2,2,000細胞/ウェル)およびS1P1を自然発現するヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC,1,000細胞/ウェル)を,3-イソブチル-1-メチルキサンチンならびに被験物質(エトラシモド,フィンゴリモド リン酸塩,オザニモド,シポニモドおよびS1P)の存在下で,フォルスコリンを用いて1時間刺激し,均一時間分解蛍光法を用いたcAMP蓄積アッセイを実施した.

なお,cAMP蓄積アッセイにおいて,S1P1発現細胞ではβアレスチン動員アッセイやGTPγSアッセイに比べて用量効力が高い結果が示されたが,これはcAMP経路における受容体余剰の影響が示唆される22.一方,S1P1を自然発現するヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)では,cAMP蓄積アッセイの用量効力はβアレスチン動員およびGTPγSアッセイと整合していた.

 (4)IKAChチャネルGIRK電流への作用

S1P受容体の活性化によるGタンパク質依存性シグナル伝達経路は,心拍数減少に関与する心筋細胞のGタンパク質依存性内向き整流性カリウム(GIRK)IKACh(アセチルコリン活性化内向き整流性カリウムチャネル)の活性化を惹起する57.そこで,心筋細胞のGIRK電流(IKACh)に対する,エトラシモドおよびその他のS1P受容体調節薬の相対活性を検討した.

その結果,エトラシモドはオザニモドおよびフィンゴリモドと比べてIKACh活性化の程度は低いことが示された(表6).

表6ヒト心筋細胞GIRK電流(IKACh)に対するS1P受容体調節薬の効果(10 μmol/Lカルバコールによる活性の%相対活性)

濃度(nmol/L) エトラシモド オザニモド フィンゴリモド
0.1 7.9 ± 2.1 11.1 ± 2.7 10.4 ± 4.9
1.0 12.6 ± 2.6 18.2 ± 3.8 20.0 ± 5.7
10 19.2 ± 4.0 31.2 ± 5.0 35.8 ± 8.2
100 27.1 ± 5.4 53.0 ± 5.0 45.3 ± 9.0
1,000 39.0 ± 7.8 70.4 ± 7.1 53.3 ± 9.6

平均値±標準誤差

方法:6名のドナー(白人男性1名,白人女性4名,ヒスパニック系男性1名)から採取したヒト心房の単一サンプル由来の初代単離心筋細胞をホモジナイズし,コラゲナーゼV型とプロテアーゼXXIV型の存在下において,連続的に酸素でバブリング/攪拌して細胞を分離した.視覚的に心筋細胞を確認し,パッチクランプ法により電位固定下で全細胞記録を行った.Gタンパク質活性化カリウムチャネル(IKACh)電流は,-70mVの保持電位から+45mVへ1段階でステップ刺激した後に1秒間に-140 mVまで変化させ(ランプ法),次のステップまで2秒間,-70 mVに保持した.カルバコール(10 μmol/L)を用いてIKACh電流を惹起し,細胞の安定性および応答性を確認した.被験物質(エトラシモド,オザニモドおよびフィンゴリモド)は,0.1~1,000 nmol/Lの範囲で適用した.

3) In vivo薬理作用

 (1)血中リンパ球に対する作用

エトラシモドはβアレスチン動員アッセイにおいてマウスのS1P1に対して完全アゴニスト作用を示したことから(EC50値:3.65 nmol/L),健常雌C57BL/6マウスを用い,エトラシモドによる血中リンパ球減少作用の検討を行った.

血中リンパ球減少の程度を表7に示す.エトラシモドを経口投与したとき,溶媒対照群と比較してCD4およびCD8T細胞ならびにB細胞の用量依存的な減少が認められたが,単球,顆粒球およびNK細胞数に影響は認められなかった.いずれの投与群においても,溶媒対照群と比較して,NK細胞および骨髄系細胞の減少は認められなかった.さらに,エトラシモドによる種々のリンパ球サブタイプ減少作用の程度は,フィンゴリモドの70~95%程度であることが示唆された.

表7免疫細胞サブセットにおけるエトラシモド誘発性血中リンパ球減少

被験物質 CD4 T細胞 CD8 T細胞 B細胞 単球 NK細胞 顆粒球
0.5%メチルセルロース 1.00 ± 0.19 1.00 ± 0.25 1.00 ± 0.27 1.00 ± 0.29 1.00 ± 0.29 1.00 ± 0.56
フィンゴリモド(1 mg/kg)a 0.04 ± 0.01 0.08 ± 0.02 0.27 ± 0.06 1.17 ± 0.36 0.76 ± 0.23 1.05 ± 0.44
エトラシモド(0.1 mg/kg) 0.28 ± 0.06 0.29 ± 0.05 0.34 ± 0.11 0.90 ± 0.17 0.76 ± 0.20 1.42 ± 0.41
エトラシモド(0.3 mg/kg) 0.14 ± 0.03 0.15 ± 0.03 0.25 ± 0.03 0.86 ± 0.12 0.66 ± 0.14 1.20 ± 0.27
エトラシモド(1 mg/kg) 0.07 ± 0.01 0.09 ± 0.01 0.20 ± 0.02 1.00 ± 0.18 0.72 ± 0.11 1.36 ± 0.23

データは総リンパ球数に対する割合の平均値±標準誤差として示す.

a既知のS1P受容体調節薬として陽性対照に用いた.

方法:健常雌C57BL/6マウス(5匹/群)に,0.5%メチルセルロースを溶媒として調製したエトラシモド0.1,0.3または1.0 mg/kgあるいはフィンゴリモド1.0 mg/kg(陽性対照)を単回経口投与し,投与後5時間および48時間に採血した.全血から白血球を分離,染色し,フローサイトメトリーで分析した.

以上のことから,エトラシモドは体内の免疫監視機構を維持したまま病態に関与するリンパ球のみを選択的に抑制すると考えられた.

図4 エトラシモドのT細胞および骨髄系細胞の大腸への浸潤に対する作用(比較Ct法,qPCR)

方法:野生型マウスから分離したCD4陽性CD45RBhigh T細胞を雌SCIDマウスに移入した大腸炎モデル(12匹/群)に対し,エトラシモド(1,3および10 mg/kg/日),フィンゴリモド(1 mg/kg/日,陽性対照)または溶媒(陰性対照)をT細胞移入日から剖検前日(試験32日)まで,予防的に反復経口投与した.組織を採取する前に採血し,マウスを安楽殺した.その後,大腸切片および組織切片を採取し,病理組織学的検査により重症度を評価した.定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)により組織を分析し,標的組織の免疫細胞マーカーのRNAレベルを定量した.

 (2)実験的大腸炎モデルにおける作用

CD4陽性CD45RBhigh T細胞を重症複合型免疫不全(SCID)マウスに養子移入して誘発した実験的大腸炎モデルにエトラシモドを予防的に反復経口投与し,定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)により大腸組織の免疫細胞マーカーのRNAレベルを定量した結果は以下のとおりであった(図4).

3 mg/kg/日以上のエトラシモドの予防的投与により,体重減少,大腸の炎症,T細胞および単球の浸潤などの重要な大腸炎の指標が有意に抑制された.また,エトラシモドにより大腸における炎症性サイトカイン産生が有意に減少した.

以上の結果から,エトラシモドの経口投与は,CD4陽性CD45RBhigh T細胞を養子移植したSCIDマウスで誘発される大腸炎の抑制に有効であることが示された.

 (3)自然発生性大腸炎モデルにおける作用

UCに類似した病態を示すMDR1a遺伝子をノックアウトした自然発生性大腸炎モデルマウス(MDR1a KOマウス)(12匹/群)にエトラシモド1 mg/kgまたは3 mg/kgあるいは溶媒を1日1回経口投与したところ,エトラシモド1 mg/kg群および3 mg/kg群で溶媒対照群と比較して体重増加量の減少(P≦0.05,Student’s t-test),内視鏡スコアの重症度(P≦0.05,Kruskal-Wallis test[w/Dunnett’s post-hoc]),結腸重量の増加(P≦0.05,ANOVA[w/Dunnett’s post-hoc]),結腸の長さの短縮(P≦0.05,ANOVA[w/Dunnett’s post-hoc])および結腸の重量/長さの比(P≦0.05,ANOVA[w/Dunnett’s post-hoc])が有意に改善した.

エトラシモド3 mg/kg群では,結腸におけるIL-10,CXCL9,IL-1β,CXCL10,IL-6,CXCL1,TNFα,IL-17Aのレベルが溶媒対照群と比較して有意に低下した(P≦0.05,ANOVA[w/Dunnett’s post-hoc]).さらにタンパク質濃度で補正した濃度では,エトラシモド3 mg/kg群の結腸におけるIL-10,IL-1β,IFNγ,CXCL1,TNFαおよびIL-17Aの濃度は,溶媒対照群と比較して有意に減少したが(P≦0.05,ANOVA[w/Dunnett’s post-hoc]),IL-4およびIL-23の濃度には有意差は認められなかった.

また,結腸の炎症,腺欠損,過形成,浮腫,好中球スコアおよびリンパ球凝集体数などの複数のパラメータが有意に改善し(P≦0.05,ANOVA/Kruskal-Wallis test[Dunnett’s/Dunn’s post-hoc]),エトラシモド1 mg/kg群および3 mg/kg群で溶媒対照群と比較して血中リンパ球数が有意に減少した(P≦0.05,ANOVA[Dunnett’s post-hoc]).

脾臓を採取してフローサイトメトリーにより分析したところ,エトラシモド群1 mg/kg群および3 mg/kgで溶媒対照群と比較してリンパ球レベルの有意な低下が認められた(P≦0.05,ANOVA[w/Dunnett’s post-hoc]).

以上の試験結果から,エトラシモドの経口投与はMDR1a KOマウスにおける自然発生性大腸炎の軽減に有効であることが示された.

3.  臨床試験成績

1) 薬物動態

 (1)血中濃度と薬物動態特性

エトラシモドのCmaxおよびAUCは,0.1~5 mgの用量範囲で単回投与したとき,概ね用量比例性が認められた.0.7~2 mgの用量範囲で1日1回反復投与したとき,AUC24はわずかに用量比を上回ったが,Cmaxは用量比例性が認められた.エトラシモドの消失半減期は約30時間であり,1日1回反復投与後の定常状態での累積率が3未満であったことからも,エトラシモドの薬物動態がほぼ線形性を示すことが確認されている.エトラシモドの曝露量に対する食事の影響はなかった.

尿中に未変化体が検出されなかったことから,エトラシモドの消失経路は腎排泄ではなく,主に代謝により消失すると考えられた.エトラシモドは,主にCYP2C8,CYP2C9およびCYP3A4(寄与率はそれぞれ38%,37%および22%)によって代謝される.

重度腎機能障害を有する治験参加者と腎機能正常治験参加者との間に,臨床的に意味のある曝露量の差は認められなかったことから,腎機能障害を有する患者への用量調節は不要である.また,肝機能障害を有する治験参加者と肝機能正常治験参加者との間に,臨床的に意味のある曝露量の差は認められなかったことから,肝機能障害を有する患者への用量調節も不要である.

日本人および白人の健康成人を対象に,エトラシモド1 mg群および2 mg群それぞれの曝露量を比較した結果,両集団で同程度であった.また,日本人UC患者および外国人UC患者を対象に,エトラシモド1 mg群および2 mg群の12週時および52週時のエトラシモド血漿中トラフ濃度を比較した結果,両集団で同程度であった.

 (2)薬物相互作用

エトラシモドは複数のCYP分子種(CYP2C8,CYP2C9およびCYP3A4)により代謝されることから,単一酵素の経路のみを阻害または誘導する併用薬による相互作用のリスクは低いと考えられる.複数のCYP分子種を阻害または誘導する薬剤と併用することにより,エトラシモドの曝露量が臨床的に意味のある程度に増加または減少する可能性がある.一方,エトラシモドは主要なCYP酵素やトランスポーターに対してin vitroで阻害作用や誘導作用を示さず,これらの基質となる併用薬との臨床における薬物相互作用の可能性は低いと考えられる.

2) 薬力学

 (1)リンパ球数への影響

UC患者を対象とした第Ⅲ相試験において,エトラシモド2 mgを1日1回投与後,第2週までに末梢血中リンパ球数の最大の減少を示し,減少率の平均値は約-47%で,投与期間を通じて維持された(図5).末梢血リンパ球数は,エトラシモド投与中止後1~2週間以内に正常範囲に回復し,エトラシモドの消失半減期を反映していた.

図5 ベースラインからの末梢血中リンパ球数の変化率

対象:中等症から重症の活動性UC患者(ELEVATE UC 52試験:433例[エトラシモド2 mg群289例,プラセボ群144例]

方法:エトラシモド2 mgまたは外観上識別不能なプラセボを最長52週間にわたって1日1回経口投与した.全血球数算定による末梢血中リンパ球数評価用の血液検体を,ベースライン時(第0週/第1日),第2,4,8,12,16,20,24,32,40,48および52週の投与前ならびに2週間および4週間の追跡調査来院時に採取し,リンパ球数の変化を検討した.

エトラシモドは,UCの発症機序に関連する末梢血中のT細胞およびB細胞を選択的に減少させ,一方で,免疫監視機構において重要な役割を果たすNK細胞または単球に対する影響は軽微であった.

 (2)心拍数への影響

エトラシモドの初回投与後の心拍数の減少は,軽度,一過性かつ無症候性で,ベースラインからの心拍数の最大減少は投与後2~4時間後に認められた(図6).心拍数は,投与開始から2週間以内に投与前の値に回復した.2週時から治験薬の最終投与時および投与中止後の来院まで,心拍数の平均値はエトラシモド2 mg群とプラセボ群でほぼ同様であった.

図6 ベースラインから各評価時点の心拍数の変化量の推移

上図:ベースラインから初回投与後4時間の心拍数の変化量の推移

下図:ベースラインから各評価時点の心拍数の変化量の推移

対象:中等症から重症の活動性UC患者787例(プラセボ群260例,エトラシモド2 mg群527例)

方法:ELEVATE UC 52試験(海外第Ⅲ相試験)およびELEVATE UC 12試験(国際共同第Ⅲ相試験)の対象患者において,プラセボまたはエトラシモド2 mgを投与した初日のバイタルサインを,モニタリング手順や退院基準を統一した試験プールで検討した.治験薬の投与開始時後4時間以上患者をモニタリングし,バイタルサインを検討した.

また,複数の異なるエトラシモド用量漸増レジメンを,非用量漸増レジメンと比較したところ,用量漸増終了時のエトラシモド2 mgの軽度の心拍数減少作用は,非用量漸増(第1日に2 mgで開始)で認められた心拍数減少作用と同程度であった.この結果から,治療開始時から2 mgの維持用量で投与可能であることが示された.

3) 有効性

寛解導入期の有効性(12週時)23:第Ⅲ相ELEVATE UC 12試験では,エトラシモド2 mgを1日1回12週間投与した群での臨床的寛解率(主要評価項目)は約25%で,プラセボ群(約15%)に比べて有意に高かった.また,内視鏡的改善率などの重要な副次評価項目のすべてについてエトラシモド群がプラセボ群を有意に上回った.

寛解維持期の有効性(52週時)23:第Ⅲ相ELEVATE UC 52試験では,52週時の臨床的寛解率はエトラシモド群で約32%と,プラセボ群(約7%)に比べて有意に高かった.さらに52週時の内視鏡的改善率,症候的寛解率および粘膜治癒率も,エトラシモド群でプラセボ群より有意に高く,寛解維持効果が示された.また,52週時にステロイドを中止した患者におけるコルチコステロイドフリー臨床的寛解率や52週時までの臨床的寛解維持率もエトラシモド群でプラセボを有意に上回った.

日本人集団24:日本人治験参加者を対象とした解析(ELEVATE UC 12試験と国内試験[ELEVATE UC 40 Japan試験]に参加した日本人の併合データ)でも,12週時および52週時の寛解率およびその他の有効性評価項目の改善率はエトラシモド群で良好であり,有効性に民族差がないことが示された.

4) 安全性

第Ⅲ相試験(ELEVATE UC 12および52試験)におけるエトラシモドの安全性プロファイルは概ね良好であり,AEの発現率はプラセボ群と大きな差はみられず,大部分が軽度~中等度であった.また,重篤な有害事象(SAE)や治療中止に至ったAEの頻度もプラセボと同程度であった.ELEVATE UC 12または52試験で認められた主なAE(実薬群で3%以上)は,潰瘍性大腸炎(悪化),貧血,頭痛,悪心,COVID-19,浮動性めまい,発熱,関節痛,腹痛であった.これらのほとんどは一過性で臨床管理可能なものであり,高い忍容性が認められた23

4.  おわりに

UCは若年層に多い慢性疾患であり,長期にわたる罹患によりQOLへの影響が大きく,治療継続に伴う精神的・身体的負担も少なくない.特に中等症~重症UCでは既存治療で効果不十分な例が多く,利便性や安全性,アドヒアランスの観点から新たな治療選択肢が求められてきた.

エトラシモドは,このアンメットメディカルニーズに応えるS1P受容体調節薬であり,リンパ球の移出を抑制することで炎症局所への浸潤を低下させ,大腸粘膜の炎症や組織障害を軽減すると考えられる.また,エトラシモドはS1P1への作用として,期待する薬理作用であるリンパ球減少に関与するβアレスチン経路を他のS1P受容体調節薬と同程度に活性化する一方で,心拍数減少に関与するGタンパク質を介するシグナル伝達の活性化作用は相対的に弱いことが明らかとなった.この特徴的なシグナル伝達バイアスにより,エトラシモド初回投与時の一過性の徐脈は軽微であり,初回から維持用量の2 mgで投与開始可能である.エトラシモドは,海外でもVelsipityTMとして承認・使用が進んでおり(米国2023年,欧州2024年承認),さらに,2歳以上の小児UC患者を対象とした国際共同治験(日本参加)が進行中である.日本でもUC治療の選択肢を拡大することが期待される.

本稿で引用した動物試験は,関連法規およびガイドラインに従い実施され,施設の動物実験委員会による倫理審査・承認を受けている.

利益相反

野中 聖子,湯浅 博俊,小野 良介,檜杖 昌則(ファイザーR&D合同会社),平野 啓,福田 晃貴(ファイザー株式会社).

文献
 
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