2026 年 161 巻 5 号 p. 383-394
エトラシモドL-アルギニン(製品名:「ベルスピティ®錠2 mg」)は,経口投与可能な低分子スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬であり,S1P受容体の5つのサブタイプ(S1P1–5)のうちS1P1,4,5に選択的かつ高親和性を示す.S1P1への作用によりリンパ球表面の受容体を内在化させ,局所リンパ節から炎症局所へのリンパ球移出を抑制することで,潰瘍性大腸炎(UC)の病態進行に関与する大腸粘膜の慢性炎症を改善すると考えられる.
薬理試験において,エトラシモドはリンパ球減少に関与するβアレスチン経路を活性化する一方,心拍数減少に関与するGタンパク質経路の活性化作用は相対的に弱い,特徴的なシグナル伝達バイアスを示した.臨床試験における初回投与時の徐脈は軽度かつ一過性で,用量漸増後に2 mgへ到達した場合の心拍数減少の程度は,初回から2 mgで開始した場合と同程度であった.このため,初回から維持用量の2 mgで投与開始可能である.
国内外の第Ⅲ相臨床試験では,エトラシモド2 mgを1日1回経口投与することで,中等症~重症の活動性UC患者に対し12週間および52週間の治療でプラセボに対する臨床的寛解率および内視鏡的改善率の有意な向上が認められた.安全性プロファイルも概ね良好で,有害事象(AE)発現率はプラセボ群と同程度であり,多くは軽度~中等度であった.
以上の結果を踏まえ,エトラシモドは2025年6月に「既存治療で効果不十分な中等症から重症の潰瘍性大腸炎の治療」を効能・効果として本邦で承認された.現在,2歳以上の小児UC患者を対象とした治験が進行中である.1日1回経口投与で漸増投与を要しない利便性,高い寛解導入および維持効果,良好な安全性プロファイルを有する本薬剤の登場により,UC治療に新たな選択肢が提供され,難治性UC患者の長期予後および生活の質の向上に貢献すると期待される.